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第32話

「楽しそうね……」


 呆れた様子でヒストリアは呟く。


 その視線の先には、時折、歓声や笑い声を上げながら触手を凍らせている凜々花の姿が。

 満面の笑みで、指を向ける度にその先の触手が凍りついていく。戦っているようには見えなかった。


「気持ちはわかるよ。考えなしに魔法を使える機会なんてそうそうないしね。ベイタくんもそうでしょ?」

「私はあまり……そういうことは感じないですが……」

「そういやそうだったね」


 自分の考えに賛同してもらえなかったが、その答えがわかっていたかのように、ミニッツに落胆した様子はない。


 凜々花はずっと一人で触手と戦い続けている。それでも疲れた様子はない。


 元々体力があるのは知っていて、この部屋では魔法も使いやすいということで触手の相手を任せている三人である。


 戦闘の経験は積める時に積ませる、というのが四人の見解だ。


 それでも凜々花の事情を知っているからか、注意深く二者の戦いを観察して、適切な所で助けてもいた。例えば、凜々花の後ろから迫ろうとしていた触手を魔法で弾いたりだ。


 魔法があまり得意でないヒストリアはそういう作業ができないのだが、それでも助ける気はあるのか武器を手放さないでいる。最初から大きな欠伸をし、いよいよ寝始めているダイガントとは違う、とでも言いたげだ。


「そういえば、あの触手はどうしてリリカだけを狙うのかしら」

「なんでだろうね。ダンジョンは意思を持つ、なんて言うし……」


 ミニッツは意図したわけではないのだろうが、先ほど自分が凜々花に言ったことをそのまま返されてヒストリアは赤面する。


 しかし実際、答えはそれ以外に考えられない。


 そこら辺の冒険者に比べればダンジョンに潜っている自負のある三人だが、それでもダンジョンのすべてを理解しているわけではない。

 これまでも何度も理解不能の事態は起き、その度にダンジョンの意思だ、と割り切っていた。


 一々、頭を悩ませる暇もなければダンジョンに対する興味もない。

 良くも悪くも三人――船長も入れて四人はダンジョンのことを、金稼ぎの手段かスリルを求める娯楽くらいにしか考えていない。ダンジョンが生まれる理由を解き明かそう、なんてことはまったく考えていないのだ。


「原因があるとすればあのペンダントですかね……」


 ベイタの言葉で、二人は視線を凜々花からペンダントに移す。


 触手となって凜々花を襲っている黒い液体が薄くその周囲を囲っているが、中は透けて見えている。

 液体に守られるようにしてペンダントは宙に浮いていた。


 魔石らしき石にチェーンが付いただけでなんの変哲もないペンダント。


「リリカがあのペンダントに気づいた途端、液体の動きが変わったんだっけ?」

「少なくともただのペンダントじゃない、ってことね……」

「リリカの世界に関する手がかりになるといいですけど……」


 ダンジョンに大した興味を持っていない三人だったが、最近は目的も変わっている。


 出会ったばかりの少女を守り、元の世界に帰してあげたいと考え、その手がかりをダンジョンに求めているのだ。


 生まれる理屈も理由もわからないダンジョンは、未だに生まれては消え、未だに未知のアイテムや素材が見つかることもめずらしくない。

 ダンジョンなら別の世界の情報も得られるかもしれないのだ。

 そしてもしかしたら、凜々花の暮らしていた世界に繋がっているダンジョンがあるかもしれない。最初に出会ったのがダンジョンで、ダンジョン自体にも、そんなことがあってもおかしくない、と思わせるだけの神秘がある。


 もちろん、なんだか気恥ずかしいので三人とも凜々花にはこの気持ちを内緒にしている。きっとダイガントも同じ気持ちだろう


「終わったかな?」


 凜々花が最後の触手を氷漬けにした。地面に落ち、周囲に動いている物はなにもなくなる。


 それを確認した凜々花は、地面に大の字になって寝転んだ。

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