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第30話

「ちょっと意外だったわね」

「なにが?」


 部屋の調査の間、なにか起こるに違いないと誰もが確信しているため、なにが起きても大丈夫なように適度に距離を取り――やはり私のそばにはヒストリアがいるのだが――調査は始まった。


 とは言っても部屋の中を少し回って、ホウシァ・ネネが撤退した原因らしき物を探すだけだ。


 その最中にヒストリアが小さな声で話しかけてきた。

 なので私も自然と声を小さくする。


「ここを調べよう、なんて言ったことよ。あなただったらミニッツに賛成すると思ってたけど」

「あぁ……そのことね」

「あなたがああ言ったから、ミニッツも格好悪いところ見せられない、って思ったのよ」

「そんなことある? あのミニッツが?」


 言われてみたら、今までの私だったら怖いから帰ろうなんて言っていたかもしれない。

 正直に言えばミニッツの言うことにも賛成なのだが、ここまで来たら、なんて気持ちあったが故の発言だった。


 しかし私も大概だがヒストリアも、この会話でミニッツに対して小馬鹿にしていないか。


「なにか言った?」

「まったく全然。なんにも言ってないよ」

「そうよ。気のせいよ」


 だからミニッツに耳聡く聞かれてしまうのだ。幸いにもミニッツはそれ以上言ってくることもなかった。


 そんな会話をしている間にも調査は続く。が、部屋の中をぐるりと一周しても特におかしい所は見つからなかった。

 正方形のタイルが綺麗に並んだ壁がどこまでも続き、部屋が円形になっていたのか角は見つからずにまた入り口まで戻って来てしまった。

 反対側に出ただけではないか。そんなベイタの言葉により、今度は三手に別れて左右に進む班と残る班とで調べてみたが、同じ場所で合流しただけ。


 出入り口は一つだけであった。


「残っているのは……」

「アレだけか……」


 部屋の真ん中に備え付けられた台座。


 明らかに怪しく、不審に思って誰も口にせず気づかないフリをしていたが、もう残っているのはこの台座しかない。なにかあるにしてもこの台座がキッカケであることは間違いがないのだ。


 全員で台座を囲む。


「なにか……書いてある?」


 台座は私の腰くらいの高さの円柱状だった。その台座全体にびっしりと図形のような物が書かれていた。


「……ホウシァ・ネネの文字か?」

「船長、わかるの?」

「読めはしないから予想だけどな」


 そうは言いつつもほとんど確信しているような口ぶりであった。


「ホウシァ・ネネの文字ならミルロルがなにか教えてくれたんじゃない?」

「解読するよりも先に撤退したのかもな」

「撤退って……なにも起こらないけど?」

「こういうのは大抵こうやって……」

「ちょっ――!」


 と、船長は誰かが止める間もなく台座に触れた。


 その瞬間、文字が光り台座が消えると、ポッカリと床に開いた穴から黒いドロドロとした液体が次から次へと溢れだした。

 そして、ムワッとしたような重苦しい空気が部屋中に満ちる。


「全員下がれ!」


 船長の声に反応して後方に大きくジャンプしたのは私だけだった。他の四人は船長の声も待たずしてそれぞれすでに、液体の届かない場所まで避難していたのだ。

 私だけが取り残されていた。


「慎重にして、っていつも言ってるでしょ?」

「他にできることもなかったんだからいいだろ!」

「それにしたって……」

「まぁまぁ。これもいつものことですから」


 船長を非難をするような言葉を唯一言わなかったベイタだが、これはもう諦めの境地なのだろう。


 それよりも、


「これ! どうするの!?」


 液体はなおも湧き続けている。

 最初ほどの勢いはなくなっているが、それでもじわじわと量は増し、私はもう壁際まで追い詰められていた。


「これ、すっごく魔力の濃度が高いよ。触ったらダメだからね!」


 ミニッツに言われなくとも触る気はない。


 気休め程度に氷で足場を作り、少しでも高い位置にいようとする。

 急に空気が重苦しくなったのもこの液体のせいか。しかし魔力濃度が高いダンジョン内ということで、いつもよりもスムーズに魔法を発動させることができた。

 またこの足場も沈みそうになればまた足場を作ればいいだけだ。少し心の余裕が出てきた。そのお陰で周囲を見渡す余裕も出てくる。


 右にヒストリア。その横にベイタ。そして左側はミニッツ、船長の順である。

 四人共、黒い液体に追いやられて壁際だ。


 そして件の液体が現れた台座のあった場所に目をやると、そこになにかがあるのを見つけた。


 身体強化の魔法を発動しつつよく目を凝らすと、


「……ペンダント? みたいな物があるよ!」


 小さな赤い石にチェーンが付いただけのペンダントである。


 それがどうやってか、空中に浮いていたのだ。


「……ダンジョンの核だろうな」

「じゃああれを壊せばいいんだね」

「売れそうだから持って帰ろうよ」

「そんな悠長な――」


 ことを言っている場合ではない、と最後まで言い切ることはできなかった。


 黒い液体が波打ち始めたのだ。いや、波打つと言うよりは液体全体がブルブルと震えているようで、次の瞬間にはあっという間に、溢れていた液体が逆再生のように穴へ戻って行った。


「……え?」


 かと思えば再び吹き出し、今度はペンダントを守るかのように柱状になった。

 そしてその余りが触手となって柱の周りを蠢いていた。

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