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第29話

「じゃあ行くぞ」


 船長が最後の確認を取り、ベイタがうなずいたので船長は穴へ飛び込んだ。四階へと続く穴は二人くらいなら一緒に降りられそうな広さであったが、念のために一人ずつである。

 二人同時に降りて着地でバタつくこともあるし、なにより魔物が襲ってくるかもしれない。

 用心に用心を重ねての判断だった。


 少し間を置いてベイタが飛び降りる。


 ここまでは打ち合わせ通りで、特になにもなければ私達も降りる。魔物がいた場合、倒せそうなら二人で対処し、加勢が必要ならミニッツが降りてヒストリアと私は上で待機。


 私を危ない目に遭わせないように、との配慮なのだろうが、加勢が必要なのにヒストリアを私の護衛に使ってしまうのは申し訳なかったが、ここで辞退をしてもそれは通らないことはわかっている。みんな優しいからだ。

 なので私にできることは、次からは頼られるようにもっと強くなることである。


 船長達の合図を待つ間にそんなことを考えていたが、幸いにも周囲に魔物はいない、安全だとの合図が出された。


 次々と私達も飛び降りて行く。


「なにも……ないね」

「パッと見た限りは、な」


 それでも油断はするな、と言いたげな船長である。もちろん油断なんてしようはずがない。


 全員が降り、改めて四階を見渡す。

 見渡すと言っても、一方向に通路が続いているだけだ。これまでと変わらぬ通路である。


 しかし妙なのは、しばらく進んでも二股にならなければ折れ曲がることもない。ただただ一本道が続いているだけだ。


「私は楽だからいいけど……」


 地図に描き入れる手はしばらく止まっている。


 先頭を進む船長とヒストリアは灯りを持っていない。後ろのミニッツとベイタに任せて、いつ魔物に襲われてもいいように武器に手をかけて備えているのだ。


 ホウシァ・ネネが引き返すような階だから、なにも起こらないはずがない。


 少し薄暗いが、ランプの灯りよりは頼れる二人だ。


「ん?」

「あれは……」

「いてっ!」


 船長とヒストリアが疑問の声を上げながら不意に立ち止まり、それにぶつかって足を止めたミニッツとベイタに私が激突する。


 額を擦りながら顔を上げると、そこにあったのは巨大な扉だった。


 通路をすべて塞ぐ壁のようで、壁と同じような材質のその扉は、真ん中の切れ目と二つの取っ手でようやく扉だとわかるような代物だった。


 今のところはなにもなかった。この扉の先に、ホウシァ・ネネの探索隊を撤退させるだけのなにかがあるのだ。

 それは死をもたらすような罠かもしれないし、私達が束になっても敵わないような魔物かもしれない。


 しかし、


「行くぞ!」


 船長達がそれで怖じ気づくようなことはない。


 それをわかっているから、扉を見つけて船長が手をかけるまでに私も覚悟を決めている。


 船長の力が強いからか、それとも扉が見た目に反して軽いからか、船長が力を込めると呆気なく開いた。


「――――!」


 中の光景に思わず言葉を失う。


 地下とは思えないほど広い空間がそこに広がっていた。なにもなく、天井も、扉の内と外とで明らかに高さが異なっている。上の階にはそれらしい行き止まりはなく、どうやってこの空間は存在しているのか。

 そして、これまでの通路と違って明るい。流石に昼間のように、とは言わないがそれでも電灯が点いているのではないか、と思うほどには明るい。

 見渡しても柱のような物はない。どうやって天井を支えているのかわからない。

 さらに驚くのは、扉を境にして地面が一変したことだ。

 ジメジメと苔だかなんだかわからないような緑が生えていた土の地面から、綺麗に揃えられた正方形のタイルの並ぶ地面へと様変わりした。


 その変化のしように息を呑む。


 なにもない空間なのに圧倒され、それが私だけではないと証明するように他のみんなも動かなかった。


「……ダンジョンってこうなの?」


 階を跨ぎ、部屋を超える度に風景が一変する。そういうシステムであれば驚くことはないだろう。

 しかし私の問いに対する答えは、言葉を発さぬみんなの姿がそのまま答えであった。


「……こんなのは私も初めてよ」


 ようやくヒストリアが口を開いた。


 それでやっと時間が動いたかのように、


「なにかあるに決まってるよ! 一端引き返そう?」

「馬鹿言え。なにがあるかもわからないのに引き返してどうする」

「ミルロルからもう一度話を聞きましょうか?」


 なんてそれぞれが話し出した。


 一つわかるのは、この場の誰にとっても初めての光景だということだ。


 まったく音のない空間に四人の話し合いの音が響く。しかしいつまで経っても答えは出そうになかった。


 なにも起こらない。だからこそ不気味なのだ。


「……とりあえず、もう少しだけこの場所を調べない?」


 私達はまだ扉を開けて一歩入っただけである。


 こんな場所でいくら危険だ安全だ、と話していても答えが出るはずもない。


 私の提案を聞いた船長は驚いたように目を丸くして「それもそうだな……」と呟いた。慎重派だったミニッツも「リリカがそう言うなら……」とうなずいた。

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