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第26話

 食事の時間はあっという間に終わった。

 用意した料理がなくなり、気づけばお腹がいっぱいになっていた。


「えっ、もうないの!?」


 と、空の鍋を見た時に思わず叫んでしまった。そんな私を見てみんなが笑う所までがワンセット。


 残りのシーサーペントの解体はホウシァ・ネネの人達がやってくれるそうだ。

 その報酬として素材の一部を渡すという契約だ。


 この島に来たのもそれが目的なのかもしれないが、まさかそれだけが目的ということもないだろう。


 他の港町に持って行っても解体はしてくれるだろうし、ホウシァ・ネネの人達に任せるよりお金がかかったとしても、この島からの移動を考えたらどっこいどっこいではないか。


 船長達と、そこにミルロルが混じって車座になる。


「ミルロル、あの話をみんなにしてやってくれ」


 わざわざ船長が私達を呼び寄せてこう言うのだから、この島に来た理由はこれからミルロルの話すことにあるのだろう。


 お腹いっぱいで少し眠いので、手短にして欲しい。


「ダイガント様には伝えた。ダンジョン。現れた」

「それ本当?」

「本当」


 興奮したようなミニッツの問いかけに、ミルロルは静かにうなずいた。それを見てヒストリアも嬉しそうに声を上げた。


 ダンジョンと言えば、私と船長達が初めて出会った思い出の地だ。


 曰く、ダンジョンとは魔力濃度が高く魔物が多く生息している場所。そのため素材も大量に獲れ、宝物が眠っていることもあるらしく、一攫千金を夢見てたくさんの人が挑戦しているのだという。

 地中の魔力濃度が高まってできる説。悪魔や強力な魔物が手を加えて作った説。魔界とのトンネル説など、その出現には様々な説があるが、突如として生まれるダンジョンのちゃんとした発生理由はまだわかっていないらしい。

 しかし一攫千金を夢見る人達にとってはダンジョンの発生理由よりもダンジョン自体が重要で、中々そこまで調べられないということだ。そう言う船長達もダンジョンの発生理由には興味がないとハッキリ言い切った。


 ちなみに、魔界と繋がっているのはこれまで確認されていないため、トンネル説は最近だと下火らしい。


 これを初めて聞いた時、私がなによりも驚いたのは魔界という単語だった。

 そんなゲームみたいな、と笑ったものだがミニッツが言うには、世界地図に載っているエリアの外側には巨大な大陸があり、そこを魔界と呼んでいるらしい。


 漫画の後半にあるような風呂敷の広げ方だが、数年に一度、そこに向かって行く人もいて、ちゃんと記録に残っているので冗談だとかそんなことではないらしい。


 閑話休題。


 とにかく、このダンジョンが生まれたと聞いたので、船長はこの島も目的地にしたのだろう。


 一夜にして大富豪になれる可能性のあるダンジョンは、それこそ早い物がちだ。

 中の宝物を獲った後はただただ、魔物を倒して素材を集めるだけの場所になる。それではあまり稼げない。


「この島は一般的に知られていないし、ずけずけと踏み込めるような場所でもない。きっとまだ誰も入ってない場所だぞ?」


 船長の声はわかりやすくウキウキしていた。


 やはり財宝が眠っているかも、なんて想像したら気分も沸き立つのだろう。他の三人も似たようなものだ。


 ダンジョンに入る前はこんな感じなのかと思うと、探索したのに手に入ったのが私だったらガッカリもしたくなるだろう。本当に迷惑をかけないように頑張らなければ。


「どうしたの、やっぱり不安?」

「いや、まぁ、そうかな……」


 ヒストリアに表情を読まれてしまった。


 しかし初めてのダンジョンなので不安であることは間違いない。


 中は迷路のようになっていて、そう簡単には逃げられないのだ。

 こちらの世界に来て状況も掴めなかった最初だったとは言え、あれだけ連続で魔物に襲われたのだからトラウマにもなる。


「ダンジョン。潰して欲しい」

「残しておいた方が素材も使えていいんじゃないか?」

「手に負えない」


 さっきまでウキウキで皮算用をしていたみんなだが、ミルロルの言葉を聞いて真剣味が増す。


 ホウシァ・ネネは基本的に狩猟で生活をしており、その戦闘能力は決して低くないらしい。

 そんな人達が手に負えない、と言うほどであるから、相応の危険はあるのだろう。


 一先ず今日は休むことにして、詳しくはまた明日、となった。


 少しの休暇を貰い、いつも通りにミニッツに魔法を教えてもらう。これからダンジョンに入るのだからと、少しでも役に立つようにいつもより真面目だった。


 そして夜。再び私達だけで集まる。


「ミルロルから聞いたが、ホウシァ・ネネの何人かで地下三階までは探索したらしい」

「地下三階……。ダンジョンって普通はどれくらい深くまであるの?」

「まちまちだな。とりあえず入ってみないことにはわからないがこの島にできるくらいなら地下五階が精々か。それくらいの準備しかしていないからな」


 今回、私達の船旅はシーサーペントを狩るための準備しかしていない。


 ここで身を捌き、ホウシァ・ネネに取り分を渡した後、そのまま次の町まで向かうのでダンジョンに入るための準備をしていなかったのだ。


 今ある物であり合わせれば、地下五階が精々。


 それだけダンジョンは危険であり、その危険を冒すくらいの価値はあるのだ。


「なにも最下層を目指すってわけでもないんだし、入ってみるだけ入ってみるのもいいんじゃないかしら?」

「それもそうだね。今回の目的はダンジョンを潰すことになるんだし」


 ほとんどすべてのダンジョンには核とも呼べる物があり、それを壊すかダンジョンの外に持ち出すか。とりあえずダンジョン内から失くせばダンジョンは自然崩壊する。

 それがダメなら直接土で埋めるしかなく、入り組んだダンジョンすべてを埋めるのは重労働なんてレベルではない。


 初ダンジョンに突入する心構えはまだできていないのだが、船長達はもう乗り気だ。


 ミルロルにもお世話になっているのだから当たり前か。


「とりあえず、今日は寝て明日ダンジョンの様子見だな」


 最後に船長がそう締め括って、焚き火が消された。


 船に戻ってそれぞれに寝そべると、すぐにみんなの寝息が聞こえ始めた。しかし、明日のダンジョンの不安で私はもうシーサーペントの美味しさも忘れそうだった。

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