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第24話

 船の針路は元々目指していた島。シーサーペントの集まる海域の近くにある島ということで、いつも狩りの後は立ち寄るらしい。


 シーサーペントが船体に巻き付いたままその島へ向かう。


 目指していた島は、多少は山のように盛り上がっている部分もあったが、ほとんどが木に覆われていて、広い砂浜に囲われていた。


 ギリギリまで近付いて錨を下ろす。


 時間はかかったものの、なんとかシーサーペントの頭を凍らせることには成功した。倒れないようにゆっくり魔法をかけていたせいで、終わる頃にはもうとっくに、シーサーペントは動かなくなっていたが。

 しかし私が倒れなかったのだからそれで良しとしよう。これも魔法の練習だ。


 船長からは「脳みそを残すなんてどこで知ったんだ?」なんて言われたが、もちろん珍味として食べるために凍らせたわけではないとちゃんと言っておいた。


「ここからどうするの?」

「こいつを陸まで運ぶんだ」


 船のエンジンを落とす。その間に帆は畳まれ、シーサーペントの拘束も解かれていく。


 しかし運ぶと事もなげに船長は言うが、私を丸呑みにできそうなほど大きな頭に、船を二周しても余りあるほど長い胴体だ。

 そんな簡単には運べないだろう。と思っていたのだが、船長が船室回りの片付けをしている間に、残っていた三人がシーサーペントを船から剥がし、そのまま海に放り込んでいく。

 そういえば身体強化の魔法があるんだった。協力すればこれくらいは簡単なのかもしれない。


 そのまま泳ぎながらシーサーペントを引っ張る。流石に陸地まで来ると五人で協力しないと動かせない。


「ヒストリアは先にミルロルへ挨拶しに行ってくれ」

「わかったわ」


 ヒストリアはそのまま森の中へ消えて行く。


「ミルロルって誰?」

「この島で暮らしている人達の代表ってところだな」


 てっきり無人島だと思っていたが、そうではないようだ。


 船長達には特に気負った様子もない。それほど緊張しないでもいい相手なのだろう。


「よし、ヒストリアが戻って来るまでにちゃっちゃと解体するか」

「これが一番大変なんだよねぇ……」


 ミニッツの言葉には同意だ。


 寝転がると、私が縦に十人くらい並んでもまだ余りそうだ。これを解体していくのは骨の折れる作業になりそうだ。少なくとも、四人で終わる作業ではない。


 しかしこのままでは美味しく食べられることはできなさそうなので、やらなくてはならない。美味しい物が食べたいと言い出した私がまず取りかからなければいけないだろう。


「で、最初はどうするの?」

「鱗を全部、一枚一枚剥がしていく」

「全部?」

「全部」

「一枚ずつ?」

「傷つけないように手作業だ」

「お、っけー」


 全然おっけーではない。


 シーサーペントの鱗はそこそこ大きいので一枚ずつを掴むのに苦労はない。そしてちょっと引っ張ると意外なほどあっさり鱗は剥がれた。作業自体は大変ではない。しかし問題は量だ。

 これだけ巨大なシーサーペントの鱗はいったい何枚あるのだろうか。数百。千を超えているかもしれない。いくら四人がかりで剥がしていくとは言え、正気の沙汰とは思えない。ミニッツが魔法で洗濯機のように剥がしたりできないのか。


「シーサーペントは繁殖期になると集まって強いオスを決めるんだ。だからそれに備えてオスはもちろん、流れ弾に当たって傷つかないようにメスも鱗を硬くする」

「……それを防具とかにするんだ?」

「その通り。他には建材とかだな。それなりの硬さとしなやかさがあるから人気なんだぞ」

「そうなんだー」


 飽きないようにと船長が話しかけてくれるのだが、私はすでに心をほとんど無にしている。そうでもしないとこの単純作業はやっていられない。


 掴む。剥がす。放る。掴む。剥がす。放る。


 船長の言う通り、そこそこの硬さがありなおかつ軽い。


 どれだけの鱗を剥がしただろうか。

 四人でそれぞれ剥がした鱗を山にしているが、逐一それを集めてまとめる。十枚の山にしてそれを集めて百枚の山にする。それが二つになっても、シーサーペントの鱗はまだまだ残っていた。


「やってられないね……」


 この鱗は一山いくらで売れるのだろうか。飽き飽きするような作業だが簡単なのでそれほど高くは売れなさそうである。


 しかし手を止めては他の三人に申し訳ないのですぐ作業に戻る。


 そこに、救世主とも思える人物がやって来た。


「船長! 滞在の許可下りたわよ」

「ヒストリア!」


 四人が五人になったところで作業に劇的な変化があるわけでもない。しかもヒストリアは怪我人である。治癒魔法で治したからと言って無理はさせられない。


「お疲れ様、リリカ。あなたは少し休んでていいわよ」

「いや……それはみんなに悪いよ」

「遠慮すんな。元々四人でやる作業じゃないんだ。無理せず休んでろ」

「……え?」


 いつの間にか船長達も集まって来ていた。


 しかし船長の口から聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするのだが、気のせいだろうか。


「お手伝いはどうだった?」

「シーサーペントを捕まえたって言ったら喜んでたわよ。すぐに人を寄越すって」

「よかったぁ……」


 それを聞いたミニッツは心底安心したように、砂浜へ身を投げ出した。


 私としても同じ気持ちだが、まずは船長に聞きたいことがある。


「手伝ってもらえるんなら私達がやる必要はなかったんじゃないの?」

「自分でも手伝って、って言っただろ。俺達の獲物なんだから俺達で処理をするのは当たり前だ。任せっきりにできるわけがないだろ」


 確かにそれはそうだ。文句のつけようもないほどの正論。


 しかし手伝いがあるならそれを先に教えてくれてもよかったのではないか。ただ、それを聞いてしまうと少しサボりそうな気がしないでもないので知らなくてよかったのだろうか。しかし気持ちの持ちようというものが。


 少しの間休んでいたミニッツだったが、再び鱗剥がしの作業に戻って行った。


「手伝いはあくまでも手伝い。私達も頑張りましょう」


 そう言ってベイタも作業に戻る。


「と、いうわけだ。手伝いが来る前に俺らだけで少しでも進めようじゃないか」

「疲れたら休んでてもいいんだからね?」

「……ううん。ヒストリアこそ休んでなよ」


 みんながこれだけ頑張るというのに私だけ休んではいられない。船長の言う通り、私達の獲物なのだから私達で始末をつけるべき。


 少し、みんなのことを見くびっていたかもしれない。これはとても失礼なことだ。


 気合いを入れるように頬を叩く。ずっと鱗を触っていたので少し生臭い。そしてこれからもっと臭くなるのだ。


 無心になって鱗を剥がし続けていると、


「おっ、来た来た……」


 お待ちかねのお手伝いがやって来たようだ。

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