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第23話

「燃え尽きちゃった? 食べるのが本番よ」

「ヒストリア……。大丈夫なの?」

「ミニッツに治してもらってなんとかね」


 大きくを伸びをして、やはり痛みはあったのか少し顔を顰める。


 そしてヒストリアは私の隣に腰を下ろした。


「これ、本当に死んでるの?」

「不安になったのね。これだけ大きな岩の一撃を受けたら――」


 その時、船がガクンと揺れた。

 私とヒストリアは悲鳴を上げて、船長も何事か叫んでいる。


 再び大きく揺れ、海面を見ると、水面を思い切り叩いたかのように大きな水柱が上がっていた。

 そしてギシギシと船が鳴き、ベイタの生み出した巨大な岩が揺れ始める。


「ちょっと……嘘でしょ……」


 私の声かヒストリアの声かわからない。


 しかしこれからなにが起こるのか容易に想像ができて、どちらともなく互いの手を握っていた。


「縄付きのを使え!」


 船長が叫ぶのと同時に、岩がゴトンと横にずれ、ダラダラと血を流したシーサーペントがゆっくりと鎌首をもたげた。


 モヤモヤの原因がわかった気がする。シーサーペントの最後が呆気なさ過ぎだったのだ。


 シーサーペントはギロリと私を睨みつける。流れる血が瞳に流れ込み、瞳が赤く染まっているように見えてその視線は明らかの怒気を宿しているようだった。


 食べられる。

 思わずそう感じてしまう。


 しかしシーサーペントは鳴くこともせずに海に顔を潜らせた。


 なにをする気なのか、私が気づくのと船長が叫ぶのは同時だった。


「シーサーペントが逃げるぞ!」


 ここでようやく全員が動き出す。


 シーサーペントは船を二回りしており、その内の一周分が解かれた。しかしまだ胴体は残っている。ヒストリアとベイタがその胴体へ向かって槍を二本突き刺す。


 私も縄を括り付けた槍を手にし、その時を待つ。


 再びシーサーペントの頭が現れた。


 その瞬間、ミニッツの放った槍が首元に深く刺さる。


「アアアアアアアアアア!」


 三人はそれぞれ、自分の突き刺した槍から伸びる縄を引っ張ってシーサーペントを逃がすまいとしている。

 胴体にはすでに二本も槍が刺さっている。私もミニッツと同じように頭の方を狙いたい。


 しかし身体強化の魔法を使っても投げて突き刺すことはできないだろう。


 縄を一番太いマストに結んだミニッツが魔法を放つ。それを鬱陶しく感じたのか、シーサーペントは大口を開けてミニッツを飲み込もうと迫った。


「今だ!」


 二者の間に半ば割り込むように体を滑り込ませる。


 迫るシーサーペントの口。後ろで息を呑むミニッツ。


 口の中は赤々として、あれだけ攻撃を加えたのになおも力強さを感じさせる。しかし、鱗に守られた外皮と違ってずいぶんと柔らかそうだった。


 喉の奥へ向けて槍を突き出す。

 案の定、見た目通りの柔らかさだったのか、それとも突撃して来たシーサーペントの勢いがあったのか。

 ズブズブ、と奥へ奥へと刺さっていく感覚が槍を通して伝わってくる。


 吐息が届きそうなほど近くまで突っ込んで来てようやくシーサーペントは動きを止めた。


 一瞬の沈黙。


 そして、衝撃を受けたように目を見開いたのがわかった。


「――――――! ――――!?」


 これまでシーサーペントが出していた声は、ちゃんと声としての体を為していた。


 しかし今出されたのは声ではなく音だ。痛みに悶え、苦しみ抜き、ようやく絞り出せた声のような音。


 尻尾の先がバシャンバシャンと海面を打つ。

 のたうち回りたいのかもしれないが、胴体はもう船に固定されていて自由に動けない。


「代わるよ。リリカは離れてて!」


 ミニッツに言われて急いでシーサーペントから離れる。


 私の突き刺した槍から伸びるロープを手に取ったミニッツは、素早くそれをマストへ結んでいく。

 これで本当にシーサーペントは動けなくなった。しかし油断はできない。最後の、決死の力を振り絞って船が沈められるかもしれないのだ。


 そう油断していない証拠に、ロープを結び終えたミニッツはもちろん、船長とヒストリアもそれぞれが武器を持ってシーサーペントを弱らせていた。

 その度に、声にならない音が周囲へ響く。


 ここまでやるともう弱い者いじめに見えてしまう。抵抗することもできず、ただ悶えることしかできないシーサーペント。


 しかしこれは狩りである。


 食べるために戦いを挑んだのに、ここでかわいそうだから逃がしてあげる、なんてことができるはずない。


 足は震え、揺れる船の上では立っているのも大変だ。


 それでも、シーサーペントの頭の方へ向かう。二本の槍でギッチリ拘束され、動く余地のある胴体と違って僅かにも動かない。槍を噛み砕こうと、ロープを噛み千切ろうとしているが、槍は完全に口の中。ロープも頑丈でしばらくは千切れそうにない。


 足が震えているが、その開閉される口に気をつけて、胴体の方から素早く頭に跳び乗る。

 そして頭に手を当て、最後の力を振り絞って魔力を流していく。


 まずは表面。それからじわじわと頭の中まで凍りついていくようなイメージ。やることはデミサハギンの時と変わらない。


 今の私の力量では、体全体を凍らせることはできない。そして一瞬で内部まで凍らせることも無理だ。

 それでも、麻酔代わりになれば、とせめて脳を凍らせられればいい。


 船はシーサーペントを縛り付けながら、次の目的地へと向かっていた。

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