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第21話

 船室でカードゲームをしていたヒストリアとミニッツ、そして目を閉じて瞑想でもしていそうなベイタを連れて甲板に戻る。


 さっきまでダラダラしていた三人も、仕事となるとやはり動きが違う。

 私は四人からそれぞれ指示を受けてあっちに行ったりこっちに行ったりしていただけだった。


 そしてすべての準備が整う。


 帆は畳まれ、船は魔力を流して動くモーターのような物で進んで行く。


 海はザッパンザッパン大荒れで、気を抜いたらそのまま船から転がり落ちてしまいそうなほどに揺れた。いかにもなにかが現れそうで、近くに高い波があればそこからシーサーペントの頭が出てくるのではないかとビクビクしっぱなしだった。


 甲板には、縄が括り付けられた槍が四本。そして残りの六本が用意されている。


 船長は船の操縦をベイタと代わり、武器の点検をしている。

 動力に魔力を与える装置は操舵室にあり、動力を動かすのはベイタ。シーサーペントの相手は船長と、適材適所である。


 改めて説明された作戦は至ってシンプルで、この前に聞いたのと変わらない。


 シーサーペントの集まる海域に近付き、一体だけを誘き寄せる。船を沈めようと巻き付いて来たところを槍で刺し、武器や魔法で力尽きるまで攻撃し続ける。逃げようとしたら縄付きの槍で拘束。


 わかりやすい。わかりやす過ぎて泣きたくなってくる。

 しかしもう後戻りはできないので、文字通り泣き言は言っていられない。


「落ち着いてるわね」

「諦めてるだけかも」

「開き直りって言うのよ。ガチガチに緊張しているよりはずっといいわ」

「はは……」


 こうして少しでも会話しているだけで緊張は解れてくる。

 できるなら、シーサーペントと戦うことも忘れさせて欲しい。


 しかし、船長の声がそうはさせてくれない。


「出たぞ! 全員準備しろ」


 号令とともに甲板の全員の表情が変わった。冗談の一つも言えない雰囲気だ。


 そして船がグイッと進行方向を変えた。ゆっくりだが、どんどん右側へ進路を変えている。


 シーサーペントはどこから来るのか。船長の合図が勘違いだったかのようにその影も見られない。しかし全員がそれぞれ別の方向をジッと見つめ、獲物が現れるのをジッと待っている。

 私もそれを真似して、出て欲しいような出て欲しくないような微妙な気持ちで海面を見つめる。


 なにかがチラリと現れ、消えた。


「……気のせい気のせい」


 島に上陸したと思ったら巨大な鯨でした、なんてのはよくあるパターンだ。だがそんなにデカい魔物なんて本当にいるわけがない。いくらここがファンタジーに溢れた異世界とは言え限度という物がある。


 だからさっきチラリと見えた深緑の鱗は見間違いに決まっている。そうだ。波間を漂う海藻が見えたに――


「あわわわわわわわ……」


 海面から現れた巨大な頭。見るからに鋼鉄ほども硬そうな鱗。この前戦った大蛇並みに太い胴体。口を開けると、ズラリと並んだ鋭い牙群。

 私なんか丸呑みにできそうなほどに大きく開かれた口から放たれる、


「オオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「出たぞ! 大物だ!」


 シーサーペントの鳴き声に圧倒され、音圧に引っ繰り返ってしまった私の横を船長達が駆け抜けて行く。


 槍や魔法が飛んで行く。


「オオオオ!」


 痛いのか、シーサーペントは叫び声を上げる。吸い込まれてしまいそうな渦巻きのような声で、コボルトやゴブリンの出す情けない声とは一線を画していた。


 シーサーペントが怯んでいる内に船はグングン離れていく。


 しかしその進行方向に再びシーサーペントの胴体が。そしてそれに気づいた次の瞬間、船の横から顔を出し、一気に船体に巻き付いて来た。


「ここからだ! 急ぐぞ!」

「リリカは雑魚をお願い」


 叫んだ船長が斧を取り出す。ヒストリアは剣を。そして私は槍を手にする。


 甲板には船を二周したシーサーペントの胴体がある。そして、ジンベエザメにコバンザメがくっついているように、その表面にはカニやら魚やらが何匹もくっついていた。

 ドデカいシーサーペントに付いているので小さく見えるが、ミニッツの半分くらいの大きさもある立派な魔物である。


 胴体に向かって船長とヒストリアが武器を突き立てている間、私は二人の間を行ったり来たりしながら、魚の魔物に槍を突き立て、カニの魔物を海に突き落としていた。


「オオオオオオオアアアアアア!」

「ボクの出番だね」


 叫び声を上げたシーサーペントの口に魔法陣が浮かぶ。一拍置いて、前に出たミニッツも魔法を発動させる。


 ビームのようにシーサーペントから吐き出される水流。そしてそれに対抗するようにミニッツから放たれる水流。

 二つの激流がぶつかり合い、雨のように降り注ぐ。


 ちょうど、鱗の剥がれかけていた部分があったのでそこに槍を突き立てる。


 気を取られて飛び跳ねて来た魔物に気づかなかったが、船室から飛んで来た石礫が跳ね返してくれた。


「ありがとう!」

「気をつけてください」


 ベイタは舵輪から手を離さないまま、魔法で雑魚を倒していく。


 粗方の雑魚は片付いたので、いよいよ私もシーサーペントへと攻撃を開始しようとしたその瞬間、


「なにかに掴まって!」


 ミニッツが叫んだかと思えば、間髪入れずに甲板上に波が押し寄せる。船が丸ごと沈んだかのようで、一瞬呼吸ができなくなる。無味無臭の水――シーサーペントの魔法だ。


「お返し!」


 硬い鱗に弾かれながら、簡単には抜けないように槍を何度も何度も奥へ突き刺して行く。

 そうして攻撃を加える度にシーサーペントも船を締め付けるようだった。


「危ない!」


 船長へ噛みつこうとしたシーサーペントの頭へ向かって槍を投げる。

 同時に、私の声に反応していた船長の攻撃も当たり、シーサーペントは逃げて行った。


 しかしただでは転ばず、口から大量の水弾を吐き出して甲板に穴を開ける。幸い、今の攻撃は全員が避けられたようだ。


 お返しに今度は私が、シーサーペントの胴体と甲板とを凍らせて貼り付ける。

 バリバリと剥がされはしたが、薄皮の二枚くらいは剥けたのではないだろうか。そこに、ベイタが生み出したであろう土の槍が襲いかかる。


「オオオオオ! オアアアアア!」


 続いてミニッツの水流が。そしてヒストリアの炎を纏わせた刃が襲う。

 しかし、続こうとした船長の攻撃が炸裂する前に、暴れたシーサーペントの尾が不意にヒストリアを襲った。


 背後から打ち付けられたヒストリアはそのまま海に落ち、すぐに船長が後を追って飛び込む。


 ミニッツの魔法があれば二人を助けることは可能だろう。しかし最悪なのは、助けに行った船長をシーサーペントもまた見ていたことだった。


 このままでは二人ともまとめて食べられてしまう。


 サッと血の気が引いた。

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