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第17話

 私の正面には二体のゴブリン。

 前後のゴブリン達は道を塞ぐことだけが目的なのか、堂々と立ったまま動かなかった。私にとっては好都合。


 すでに戦端は開かれているようで、戦闘音が耳に届く。もしもの時は助けてくれるだろうが、それを当てにしているようでは私もまだまだだ。


 ミニッツが最初に魔法を見せてくれた時、アホみたいに水を湧かせていた。後から聞くと、なにもない所からあれだけ水を出すのにもそれなりの才能が必要で、そこからまともな攻撃に使えるほどとなると更に才能が必要なのだと言う。頑張ればそれなりに使えるらしいが、それよりは剣を振るった方が早い。

 つまり、魔法は誰にでも使えるが、魔法を使って戦うのにも才能が必要なのだ。

 ちゃらんぽらんに見えても、魔法に関してミニッツはエリートである。


 話してくれている時のドヤ顔が少し腹立たしかったが、先生としては一級品。


「これが修行の成果ァ!」


 そしてなんと私にもそこそこの才能があったらしい。そしてミニッツはその才能を開花させてくれた。


 叫ぶのに合わせて右手を突き出すと、手の平から魔力が抜けていく感覚。それは空中で小石程度の氷の礫になると、ゴブリンへ向かって一直線に飛んで行った。

 矢のように。弾丸のように。


 気づいていないのか、ゴブリンに避ける素振りはない。


「ギギャ!」


 額のちょうど真ん中に礫を食らったゴブリンは頭から引っ繰り返る。


「どうよこれが私の力……アレ?」

「ギィ……ガギャァ!」


 今、礫を食らって倒れたゴブリンが額をさすりながら立ち上がった。

 何事かを叫んでおり、腕を振り回している。それに釣られて隣のゴブリンも騒ぎ始めた。


「もしかして……怒ってらっしゃる!」

「ギャギャァ!」


 正解みたいだ。


 なにを言っているのかはわからない。ただ、言葉は通じなくとも木の枝を振り回しながら向かって来れば、怒っているのは明らかだ。


「あれはまだ攻撃に使えないって言ったじゃん。小石でも投げた方がマシだよ」


 後ろからのんきなミニッツの声が。少し、笑いを堪えていそうな様子が。


 二軍とは言えソフト部のピッチャーである私であれば、確かに石を投げつけた方がダメージを与えられそうだ。

 それに魔法の練習でも、氷を弾として発射するよりも氷のボールを作る方が楽だったのだ。


 修行の成果だなんだと格好つけてみせたのが仇になってしまった。


「も、もし危なかったら助けてよ!」

「りょうかーい」


 ここで手伝って、なんて情けなくて言えない。それに、この程度のピンチも切り抜けられないようじゃみんなと一緒に冒険者だって続けられない。


 無理矢理に自分を奮い立たせる。


 私が練習していたのが魔法だけじゃないと思い知らせてやる。

 コボルトだって倒せた私なんだ。ゴブリンなんて目じゃない。


「うおおおおお!」

「ギギャァァァ!」


 互いに叫びながら、私と二体のゴブリンが激突する。文字通り。


「ちょ――いたぁ!」

「ガギァ!」


 相手は二体のゴブリン。それでも身体強化をしていたお陰で、互いに尻餅をついただけだった。


 ナイフをゴブリンに突き立てることしか考えてなかった私は、ちゃんとゴブリンとの距離を考えていなかった。

 それに加えて、気合いを入れた分だけ身体強化の魔法も強力になっていたのだろう。想像していた以上にスピードが出て、それに慌てたのもある。

 未だに落ち着かないと身体強化の魔法も安定しない。


 どうせゴブリンも同じように、距離を測っていなかったのだろう。。


「今がチャンスよ!」


 ヒストリアの声で我に返る。

 そうだ、馬鹿やってる場合じゃない。


「ああああああ!」


 倒れているゴブリンの胸元目がけてナイフを突き立てる。最後にゴブリンはか細い声でなにかを言い、呆気なく事切れた。


「ギギギギギィィィィィ!」


 仲間を殺されては正気も失うだろう。もしも私が逆の立場だったら、と思うと、もう一体のゴブリンの気持ちも推し量れる。

 しかしだからどうと言う話ではない。最初に襲って来たのはこのゴブリン達で、仲間を守るために私も殺さなくちゃいけないのだ。


 振り下ろされた棍棒は、ただの木の枝。振り下ろされたそれを反射的に掴んでしまう。

 所詮はゴブリンの腕力で、私も身体強化をしていたとは言え次は受け止めることはできないだろう。今のはたまたま偶然。


 ゴブリンだから無事でいられているが、まさかキャッチできるとも思っていなくて私も少しポカンとしていた。


 急いで気を取り直す。


 ゴブリンの体に手を当て、練習通り魔力を流す。ゴブリンの氷像が完成した。デミサハギンと同じ要領だ。


「ちょっと危なっかしいところはあったがやるじゃねぇか」


 かけられた声に振り返ると、いい汗をかいた、と言わんばかりに爽やかな表情をした船長がいた。

 残りの三人も続々と集まって来る。


 相手にしたゴブリンが私よりも多いとはいえ、そこはやはり長年冒険者を続けていただけある。私よりもずいぶんと早くゴブリンを倒し、私の戦いを眺めていたらしい。


「えっと……なんで脱いでるの?」


 褒められたヤッター、よりも先に出て来るのはこの質問。

 どうして船長は上着を脱いでいるのだろうか。


 筋骨隆々の逞しい体。太い腕。パッドでも入っているのではないかと疑うほどの肩。分厚い胸板。獣人なので当然だが、獣のような毛皮だ。そこがまたフェティシズムを感じさせられる。


「運動した後で汗をかいたからな」

「そっか……」


 でもなんだろう……。馬鹿っぽく見えてしまう。他の三人が呆れているように見えるから余計にそう感じてしまうのだろうか。

 本人がまったく気にしていなさそうなのが馬鹿っぽさに拍車をかけていた。


 コボルトはまだ獣に似た見た目をしていたが、ゴブリンはどちらかと言えば人間に近い見た目だった。肌の色だとか色々違いはあるが、シルエットは似たようなもの。

 なのでトドメを刺す時は少しは躊躇するかと思っていたのだが、そんなことはなかった。私は魔物のことをゲームで出て来る敵と同じようにしか見ていないのだろうか。


 それが幸か不幸かはわからない。


 ただ一つ幸運と言えるのは、船長が馬鹿っぽくて悩んでいるのもアホらしくなったということか。


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