第16話
そして狩りの当日になる。
ウキグサとはわけのわからない草の塊だった。西部劇でよく転がっているようなあの草に見た目は似ている。説明を聞いても、とにかくすごく浮くことしかわからなかった。
すごく浮くからウキグサ。安直。
その他に買ったロープやボロい槍、ミニッツ達が調達して来た大量の酒や食べ物を持って私達は馬車に乗った。
なんと私達の貸し切りである。移動のためだけに馬車を一台チャーターするとは、もしかしてみんなはブルジョワなのか?
「違うわよ。ずっとお金を貯めてたの」
「お前が倒れてたダンジョンがあっただろ? 元々あそこに潜るための資金だったんだよ」
「えっ、そこまでしてもらわなくても……なんなら屋台で買った食べ物でもよかったのに……」
今回の目的は私のために美味しい物を獲ることだ。
前に聞いた通り、船長達はダンジョンに潜るためにお金を貯めている。私の適当なお願いのためにダンジョン攻略の資金を使わせるのは申し訳ない。
昨日屋台で買った焼きそばみたいな料理。あれをお腹いっぱい食べるだけでもよかった。
「気にしなくていいのよ。どうせいつもこの調子なんだし」
「そうそう。まともにダンジョン潜ったのなんていつ以来か忘れちゃったしね」
「まぁ、この前のがそのまともに潜った時なんですがね」
ベイタが言っているのは私が拾われた時の話だろう。
そう思うと更に申し訳ない。
「気にすんな。どうせあそこは大したことなさそうだったからな」
船長の気遣いが痛み入る。船長も気遣いとかできたんだ……。
「だからついでに別のダンジョンを目指そうと思ってな。これもいい機会だ」
なるほど。だからこれほど大量の食料があるのか。
干した肉や魚に加えて野菜類もある。
箱に魔法印なる物を刻むことで魔力の性質を変え、簡易的な冷蔵庫が作れるらしい。故に長旅には向いていなさそうな青果も運べる。やはり魔法は便利な物だ。
「リリカのお陰で大蛇もいい値段で引き取ってもらえたし。総じてプラスなんじゃないかな」
「そう言ってもらえると気が楽になるよ」
「あなたって普段は馬鹿みたいに振る舞ってるくせに意外と繊細よね」
「そう思うなら言葉選んで」
昨日はあれだけ気遣ってくれたのに、一夜明けるとヒストリアはいつも通りに戻っていた。
それが嬉しいやら悲しいやら複雑だ。
なんとも言えない気持ちになったが、幸いにも気持ちを切り替えるキッカケが訪れた。
「お客さん方、魔物が出ましたよ」
御者ののんびりした声で、四人の雰囲気が変わる。
それぞれが武器を手に荷台から下り、一歩出遅れた私もオタオタと続く。
今回は護衛の依頼を受けているわけではないが、自分達の荷物なので自分達でどうにかせねばならない。
むしろ馬車や馬になにかあれば賠償金を請求される立場だ。
だから御者も焦っていなかったのだ。
「あれは……ゴブリンか?」
「周りにも何体かいるね」
道を塞ぐように三つの陰が立っていた。そして後ろの道も塞がれた。
私達が進んでいたのは舗装もされていない街道。街道と言うよりは、人が行き交って踏み固められただけのただの道だ。
少し外れるとすぐに膝丈くらいの草がボーボーである。
ミニッツの声で周囲を見渡すと、その草に隠れるようにして何体かのゴブリンがいた。全員頭が見えているが。
私のよく知るゴブリンそのままの姿だった。暗い緑やら青っぽい肌は薄汚く、身につけている服や防具、持っている武器もどこか雑だ。
しかし道具を扱えるのは知能が高い、となにかの本で読んだ気がする。雑魚モンスター筆頭のゴブリンでも油断しない方がいいか。
一体のゴブリンが矢を放つが、ベイタの魔法によって撃ち落とされた。
油断しない方がいい。
「リリカは馬車を守ってろ。俺は正面をやる」
「じゃあ右側はアタシが」
「私は左を」
「はいはい。残った後ろね」
「ちょっと私にもなにかさせて?
「危ないから下がってろ。それに馬車を守るのも大事な仕事だ」
「でも少しずつでも戦わないと強くなれないじゃん」
「でもな……」
「後ろは二体だけだしボクが変わるよ。どうせゴブリンだし援護もできるからね」
「流石はミニッツ。話がわかる!」
こんな会話をしている間、ゴブリンは矢が防がれたことにざわざわし、隠れるようにしながら慎重に近付いていた。
それがバレバレだったから私達もこうやって雑談できたのだ。
反対意見が出て来る前にミニッツと場所を変わる。それを見て諦めたように、船長達も位置についた。