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76 やとわれが聞いた噂

そうして侍女たちが、にぎやかに去って行った後、残されたのは計算用紙が目も当てられないほど散らばった部屋だった。

それだけ用紙を散らばせてでも、小鳥を皆で捕まえようとしたのだろう。

ルー・ウルフはそのあたりに散らかっているそれらを、一枚一枚拾っていき、まとめていく。

計算用紙の上部と下部に記載されている記録や番号から、どれがどれのための用紙なのか、そしてどのまとまりなのかはおおよそ見当がつくのだ。

見慣れた計算用紙である。そのためルー・ウルフほど計算に自信があれば、ざっと見た程度でも、どれがどれのための物だったかすぐに分かった。


「王子様が小鳥を捕まえてくれて、本当に良かった」


同じ部屋で働く一人が、彼と同じように用紙を拾い上げながら言う。


「まったくです、我々だけで捕まえられなかったらと思うと、ぞっとする」


「その前に、あの小鳥が窓を閉める前に、外に逃げ出していたらと考えたら、とてもじゃありませんが寝れませんでしたね」


彼等の言葉に同意したのは、ルー・ウルフと同じように、お館様の命を受けてここに雇われている一人だ。

彼は計算用紙以外、例えば口が開いていないインクの瓶やペンなどを、誰かが踏んで壊す前に拾っている。


「ここの王女様方ときたら、苛烈で過激な性格だというじゃありませんか」


「お茶会の際に、気に入らない令嬢にお茶をかける程度には苛烈だと聞きますよ」


「気に食わない衣装を用意された時、売れば金貨何百枚分もの衣装を引きちぎって、用意した仕立て屋を宮中から追い出したとも」


ルー・ウルフはあまり興味がないため、一度も聞かなかった話だ。

そのため、自然と話を拾い上げてしまっていた時の事である。一人が身をふるわせた後にこう言ったのだ。


「小鳥が逃げていたら、麦豊かな国の、“可哀想な女の子”と同じ目に遭ってしまうところだった」


「その話は一体何なんだ?」


豊かな国の可哀想な女の子。いったいどんな身の上だろう、と少しばかり興味が引かれた彼が問いかけると、雇われの一人が言った。


「この国にしかいない、輝く鳥を求めたあの国の王女様がいるんだが、この王女様が過激でね。輝く鳥を閉じ込めていた檻を壊して、輝く鳥に呼び掛けた飼い主の女の子を、処刑してしまったんだ」


「輝く鳥の飼い主なんてものが、いたのだろうか」


「その声を聞いた時、輝く鳥を閉じ込めていた檻が壊れて、今まで鳴きもしなかった鳥が鳴いたというから、信憑性は高い」


「へえ……でも、それでどうして処刑なんて事に」


「なんでも、輝く鳥は檻の中で弱っていて、やっと飼い主に会えたからか、そのまま死んでしまったんだという。輝く鳥を見せびらかしたかった王女が、それはそれは怒ったのさ」


とんでもない王女だな、とルー・ウルフは思った。かなりの我儘だ。

しかしそれも、王女という立場ゆえの我儘なのかもしれなかった。


「それでその女の子は、処刑?」


「そうらしい。可哀想に」


「でもそれはどこの情報なんだ?」


「あちらに、輝く火の鳥を見に行った、知り合いからの情報だ」


火の鳥。ルー・ウルフは耳を疑ったのだが、彼等は続ける。


「本当に可哀想な女の子だ、火の鳥という生き物を、隠し通そうとしていただろうに」


「きれいな桃色の髪の女の子だったそうだ。鳥を探し続けていたのか、足は血まみれで服もぼろぼろで、とても痛々しい身なりだったという」


雇われが、心底可哀想だ、と言いたそうな声で言う。

実際に、権力の横暴にさらされた彼女は、可哀想に違いない。

だが。桃色の髪の毛、だと。


「……」


桃色の髪の少女なんていう、珍しい色の少女が、そうたくさんいてたまるものか。

もしかしてその少女は、まさか。

ルー・ウルフは問いかける事にした。

これだけ詳しいのだ、名前くらい知っていそうな雇われである。


「その少女の名前を誰か、聞いた事は?」


「ああ。ヴィッツだかヴァッツだか……」


「前に聞いた時はヴィ、と言っていなかったか?」


「そんな名前だったような……」


「……! 私は用事を思い出した、急いでお館様の所に行かなくては!」


彼は用紙を隣にいた仲間に押し付け、乱暴に扉を開けて、外へ飛び出した。


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