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44 春嵐、お人よしには上がいた。

「ねーちゃんなんて事言ったの!? あのねーちゃんが!?」


あたしはねーちゃんが、あたしをそう評した事に仰天した。

口から何かが飛び出すんじゃないかと思う位に、びっくりしたんだ。

聞いてみたって信じられない。あのねーちゃんが、そんな風にあたしを褒めたの。


「……ヴィオラらしい言い方だね。そうやって綺麗に言葉で飾って、一層あんたの中のヴィルを綺麗な理想に仕上げたんだろう」


かーちゃんが苦い声で言ったのに、ルー・ウルフが大真面目に言った。


「ヴィオラ嬢も、時には物がよく見えた正しい事を言うんだな」


続けた言葉は、やっぱりすごかった。


「ヴィは、今まで生きて出会った女性の中で、一番誇り高く優しくて、真実を見る」


「紅蓮鳥の言い方は正しい」


男の人がそう言って、あたしに視線を注ぐ。

熱のこもった眼差しだ。あたしが今までの人生で、向けられた事のない類の視線でもある。

妙にどぎまぎする目つきだ。

ねーちゃんは歩く惚れ薬だったから、誰からもこんな視線を向けられていたんだろうか。

もしも、誰もがこんな目をしていたなら、……怖い、というか不気味極まるものだろう。

ねーちゃんはあたしと一緒にいない時、いつもこんな目を、男の人から向けられていたのだろうか。

そんな風な事も、頭の中に浮かんできて、ねーちゃんじゃなくったって、やっぱり金を欲しがるよな、と思った。

お金でそう言う物が解決できたなら、いくらだって支払う人しかいないんじゃないかな。

この人以外がこんな目をしたら、あたしだって似たような事を思い付きそうだ。

男の人の目の中央は、暖かいおてんとうさまの光であふれかえっている。

それを見ていると、本当に、体の力が抜けてほっとするけれども、これが魔法じゃないのは確かだ。

だってあたしは魔法を全部分解してしまう、歩く解毒薬。

魔法とかそう言う物が無効化されるわけだから。

それに……この人は何となくなんだけれども、魔法で人の心を縛ったりしない気がした。


「さて、どうするか」


あたしと彼が目を合わせて何も言わないから、かーちゃんが言い出す。


「ヴィ、お前どうするんだい。お前の未来が、あのろくでなしの支払いに使われてしまったわけだが、うちは関係ないっていうに言えない。うちの薬じゃなくて、この男が元凶を断ち切ったならばね」


「信じてなさそうだな」


「奇跡使いの奇跡なんて、一生に一度も見る機会がないものだろう。私もこの人生で一度もそれを見聞きしたことがないんだ、あんたの言っていることがどれだけ真実か、読めない」


「たしかにそうだろうな。春嵐の獅子を知っていても、その力がどこまでのものか知らないというのは普通だ」


「……すまない、話がよくわからないのだが」


そこで、途中乱入してきたルー・ウルフが、やっぱりわけわからない、と言う声で聞いてきたから、あたしたちは簡単に事情を説明した。

元王子様は目をぱちくりさせて、目の中の炎までもぱちぱちさせて、じっくり言葉を噛みしめた。


「つまり、ヴィオラ嬢は自分の体質を封じる代金に、ヴィを支払うと言って、それを真に受けてこの男が来た、というわけか?」


「ちなみに、支払い全然足りてないらしい」


あたしの言葉に、男の人が付け加える。


「術を一回使うだけでも、その街で暮らせない位だからな、奇跡使いってのは。あれしきの銀貨じゃ足りないぜ」


ちなみにどれだけ支払ってもらったんだろう。

あたしの疑問に彼が、指を三本立てた。


「大銀貨」


つまり大銀貨三枚ぽっち。……え?

は?

はあ!?


「ええと、まって、待って!? あなた、ねーちゃん助けるために、自分の家とかご近所さんとの関係とか、ありったけの大事な物、全部捨てる事になったの!? 支払ってもらったのが大銀貨三枚ぽっちで!?」


「あんたが嫁にならないなら、そうなるなぁ」


彼がどんどん小出しにして来る中身が酷い。それって、それって。

ねーちゃんのために、自分の今まで全部捨てたの、なんで?

断るって道はなかったの? 

……でもさっき、あんまりにも憐れだったって言った。


“あの”ねーちゃんを救った理由が、


哀れっていうのが理由なら、この人は、この人は。


「まって、あなたやっぱり全然怖くない人だ」




どれだけ、おひとよしなんだろう?




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