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43 春嵐、ねーちゃんの評価はちょっと変

「おいおい、酷い対応だな、おれは二人に何も酷い事をしてないんだが」


「あいにく私は、ヴィの目の前にこんな凶暴なものがいて、のんびりしていられるほど、ヴィを憎んではいない。それどころか、家族と言ってもいい相手だ。みすみす喉笛を食いちぎられるまでを、眺める趣味もない」


ルー・ウルフの言い方だと、この人はあたしの喉を食いちぎるらしい。

喋り方は結構温厚な感じなんだが、人は見かけによらないのだろうか。

それとも……彼が言う通り、魔力を持っていると、誰でも彼を怖がるんだろうか。

だから、魔力がゼロと測定されたあたしは、怖いと思わないんだろうか。

ちらっと横目で見たかーちゃんも、平然とした顔だけど、顔の血の気は引いて真っ白だった。



かーちゃんがこんなに怖がるなんて、今まで一回だって見た事がない。

この人はそんなにも危険な人なのか。

自分の認識しているものと、周りの人たちの認識が大きくずれている気がしてしょうがない。

どうしてあたしは怖くないのだろうか。


「非道な真似は何もしたりしないな。おれはお貴族様と違って、そんな真似をしていい立場じゃない」


「何を言いだすのか」


「おれが“そう言った意味で”手を出す時は、周りを全部殺す時さ。そうなったら誰もおれを止めることはできやしない。おれの中の獅子が満足するまで血をすするまで、おれの動きは止まらない、それだけさ」


「あんた結構物騒な性分じゃあ……」


それって誰よりも怒っちゃいけない気質の人と言う事じゃないだろうか。

そう考えると、この人が実はとても忍耐強い人なんじゃないか、と推測してしまう。

誰かに危害を加える時は、周りを全部殺す時。

ならば彼は、全部を殺さない時は、周りにひどい事を自分に許さないというわけだ。

逆説的な考え方だけれども、もしかして、だからあたしはこの人が怖くないんだろうか。

あり得る。


「……奇跡使いが軒並み物騒だと言われる理由を、今ここではっきり理解した」


ルー・ウルフが、まだまだ鋭い気配のまま、彼を見ている。

対する彼は頬杖なんかついちゃって、余裕そうだ。

それどころか、ルー・ウルフがどんな行動を起こすのか、興味深そうに見つめている。


「見るとな、紅蓮鳥。あんたもおれの同類に近い性分らしいが、どうなんだ」


「私が同類?」


彼の発言に、ルー・ウルフが怪訝な声をあげた。そりゃそうだ、さっきから警戒している相手と同類って言われて、変な声を出さないわけがない。

自分も同類? まさかって思うのではないだろうか。


「いったい何を言いだすんだ」


「あんたは紅蓮鳥の中でも、一等力の強い鳥だろう。そこで言えば、なかなかおれは相性が悪いな、おれは燃やされるのが苦手だ」


「紅蓮鳥とは、何なんだ? 聞いた事がない。不死鳥と違う生き物か」


不死鳥と聞いて、男の人が笑う。

どこまでも余裕の声だ。


「紅蓮鳥は不死鳥ともいわれるな。おれたち奇跡使いとよく似ているが、大きく違う生き方の人間だ。とりあえず、紅蓮鳥は代を重ねないな」


「代を重ねる?」


あたしの声に、かーちゃんが手を振って遮った。


「その話をする前に、私たちはあんたの名前を聞かせてもらいたいんだけどね、どうだろう」


「聞かない方がいいさ。名前を聞くとつながりができる。ちゃんと嫁さんがおれの嫁さんになる時、教える物になっている。奇跡使いは名前をそう簡単に教えるわけにはいかないんだ」


名前を狩る弾みに教えちゃいけないってなんでだろう。

あたしの疑問が顔に出たらしい。

男の人が、優しい表情で、あたしに溶けそうな甘い目を向けて、いう。


「名前が知られた奇跡使いは、だいたい身元が知られた時、その街にいられなくなっちまうからな」


「なんで?」


「今喋った事だろう、奇跡使いは嫌われ者なんだ。魔法使いよりも数が少ない癖に、魔法使いの力を押さえ込めるときた。自分たちが一番の気持ちでいるお貴族様が、それをどんだけ嫌うか、想像がつかないか、嫁さん」


「……」


あたしはそれを否定できなかった。あたしを痛めつけた貴族令嬢とか、木の根っこを盗んだ医者とかを思い出したのだ。

確かに、彼ら彼女らは、そんな空気があった。自分たちの階級が一番じゃないと嫌なのだ。

そしてそれを覆せる相手が出てきたら、ひどい目に合わせる。

貴族と言うお育ちは、そう言った歪んだ性格を作りやすい……


「いられない位ならまだいいぜ、こっちが簡単に人殺しが出来ないって分かってやがるから、こっちを殺そうとしてくるんだ」


あっけらかんとした声で、当然起きる事みたいな声で、彼が続けた中身は、冗談じゃない物だった。


「ひどい」


「ひどくないだろう、怖いものを嫌がるのは誰だって同じだ。そっちの王子様も、あんたの母さんも、……おれもな」


「だ、だって!」


あたしは自分が何を言いだすのか、ちょっとよく分からなくなっていたけれども、いいたくなった。

言いたかった。


「だって、ひどい事しないって決めてる人に、なんでそんな事するのかわからない! やるかやらないかの二択で、ずうっとやらないっていう選択肢を選び続けるような、強い人に、そういうやり方って、ないよ」


彼はしばしぽかんとした。眼がまあるく開かれて、その中の中心の強い光が、揺れている。

揺れた後、彼はあたしがすごく強い光を出しているような顔をして、片手で顔を覆って笑った。


「なるほど、ヴィオラどの。あんたの言葉は嘘じゃない」


悔しいけど、負けた。

そんな空気を彼がにじませて言う物だから、あたしはちょっと動揺した。

その顔が、あまりにも泣き出しそうだったから。

この世にある奇跡をまとめて見ても、こんな奇跡はあったものじゃない。

そんな風な言葉にも聞こえた。

でも、ねーちゃんの言葉の何が、そんな奇跡だったんだろう。

何せうちで、あのねーちゃんの言葉をそんな風にとらえる事はないのだ。


「うちの馬鹿な娘が、一体何を言ったんだい」


ヴィオラと聞いて、かーちゃんが問いかけると、彼は答えた。

あたしをじっと見つめて。見つめてというよりも、大事に視線で撫でるような感じで。

それが嫌な感じじゃないのは、彼がいやらしい事を考えながら言っているわけじゃないからだろう。


「妹は、そりゃあもうできた女の子で、絶対にあんたを無条件で嫌ったり憎んだり、蔑んだりしない。妹は、自分と違って、出来が違うってな」


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