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39 王様、それはすごいご褒美だ!

第一部、完結です! 第二部書き直しております。

陛下はじっとあたしを眺めて、何か考えている様子だ。

その視線は、まるで幻の一品と言われたものが、一体どれくらいの価値を持つのか測っているかのようで、ちょっといたたまれない。

元々合わせていない視線だから、あたしは隣の元王子様を見た。

いいや、結婚していないから、今でも王子様なんだろうか。

そこを聞いても、いいのだろうか。聞きたい。

だがそんな話を、今、この状況でしたら、なんだかバカみたいだ。

それに、王子様じゃないルー・ウルフが、あたしにとっては十分な価値を持っているんだ。

王子様だから特別な人なわけじゃない。

身内が、元は王子様だったってだけの話なのだ。かーちゃんだったら鼻で笑って取り扱わない疑問だろう。


「惜しいな」


「陛下、発言をしてもよろしいでしょうか」


陛下の一言で、すっと前に進み出るルー・ウルフ。あたしを背中に庇うような形だ。

視線から逃がそうとしているみたいだった。そうだ、元王子様は、あたしよりも陛下の力がどれだけあるのか、知っている。

知っている人が、庇おうとするという事は……陛下は危険と判断するべきなんだろうか。


「お前に許可を与えはしない、スヴィエート」


陛下が切って捨てるような言葉で言う。それから、どこか柔らかな物を見せた声で、あたしに問いかけてきた。


「お前は、医者になる夢は持っているか?」


「いいえ、全く」


「王立の医術学校への入学を許可してもか?」


陛下の言葉を聞いて、一拍置いてから……周囲の貴族がざわめく。


「一級の学校じゃないか」


「医術学校はこの大陸でも最も優れた学校よ」


「あの娘にそれだけのものがあるのか……?」


「褒美にしては過ぎたものでは」


信じられない……と明らかに思われている。

ざわめきの中から拾い上げた発言は、あまり歓迎できないものだ。

そんな学校のことは知らないし、聞いただけでもお金がかかりそうだ。

とても行く気にはなれないし、第一それは望みとかにはならない。


「オウサマ」


あたしはきっぱりと言い切った。


「あたしはまだ、薬売りとしても未熟で、半人前以下の娘です。その半人前以下が、なんで畑違いの所に行かなきゃならないんです。あいまいな知識をかじっただけなのに、よそに目を向けるとか、危険すぎる」


「ほう」


陛下が目を細める。ますます面白くなった、と言う顔をしていたが、あたしはさらに続けた。


「あたしはかーちゃんの後を継ぐつもりはあるけど、医者になる気は全くないんです」


医者の薬は高いんだ。医者は決められた薬草を使った薬しか作れないし、それ以外は薬売りから取り寄せる。もしくは商店で買う。

あたしの目指すものは、かーちゃんみたいな人だから、医者は違うんだ。


「お前は俺に、まともな褒美を与えないつもりか?」


「もう貰いましたよ。今さっき」


「……」


「ヴィ、それ以上いうと不敬罪になりかねない」


こっちを心配そうに見るルー・ウルフの言葉で、やっぱりあんまりよくないのだな、と思った。


「ならば」


陛下がいい事を思い付いた、と言う声で言った。そして手を音高く打ち鳴らし、宣言する。


「魔女の娘、ヴィ。お前に王立薬草園に住み込むことを命じる」


「……」


王立薬草園のすばらしさが、いまいちわからないでいると、陛下が面白がっている声で続けた。


「お前の母君に、この事を伝えれば、さぞ喜ばれる事になるぞ」


「……では、一度帰らせていただきます」


「そうか。……スヴィエート、お前はここに残れ。お前の仕事場にはすでに人をやってある」


「……かしこまりました」


ルー・ウルフが臣下の礼らしいものを取って、下がる。

王立薬草園。ってどういう物なんだ。

だが魔女の異名を持つかーちゃんが、喜ぶ場所は相当なものだ。

いったん帰って聞いた方がいいに違いないし、あたしはそこで頭を下げて、城を出た。







「それはまた、豪華な褒美じゃないか」


うち、つまり近所の皆さんと密接なかかわりのあるぼろ屋に帰ったら、かーちゃんはそこで真新しい家具とか鍋に囲まれて、こつこつと薬草の下処理をしていた。

こうして、家の中でかーちゃんが生活しているのを見ると、肩の力が抜けていく。

力が抜けたのを幸いと、陛下に言われた事を言うと、かーちゃんはにやりと笑った。


「薬師なら誰でも、一度はそこに住み込みで働くことを夢見る、薬草畑の広がる巨大な園さ。温室があり、逆につねに氷点下に近い空気の部屋があったりして、とにかくありとあらゆる薬草が植わっているんだよ」


「そ、それはすごく魅力的……」


「王様は、あんたが望んだものが周りから見たらあんまりにもちっぽけだから、そう言う提案をしたんだろうよ。何せ奇怪な病を治す薬を作った、魔女の娘への褒美が、かーちゃんの不名誉な噂を消す事と、自分と姉が別人であることを周知してもらう事だけじゃあ、あまりにも格好がつかないからね」


「つかないんだ」


「あんたにとって価値があっても、一般的に褒美として与えるには、迫力が足りないからね」


一緒に薬草のつぼみを千切りながら、かーちゃんは教えてくれる。


「あんたみたいなすごい事をした、と周りが思っている存在へ与えるものが、陳腐だったらそれはもう、王様にとって沽券にかかわるものだからね。この際だ、色々な薬草が生えているのを見られるなんて、一生の間でもそんなにないものだよ」


「かーちゃんの言っていることを聞いたら、物凄く行きたくなった」


あらゆる薬草が生えているなんて、そんなすごい光景を見られるなんて、人生で一番のご褒美なんじゃないだろうか、あ、だから陛下が褒美として思いついたんだろう。


「住み込みって事は、夜に色が変わったりする珍しいものだって、見放題ってわけだ。住み込みって言ったってたまにはうちに戻れるわけだし、存分に勉強しておいで」


「うん」


あたしはこれからみられる、たくさんの薬草の事を考えて、力任せにつぼみを一つ潰してしまい、かーちゃんにこってり怒られた。



そうだ、あたしは住み込みで薬草園で働いている、薬売り見習いなのだ。

の、はずなのに……




「いよう、はじめまして、未来の嫁さん」


春を呼ぶ嵐にも似た風と一緒に、太陽があたしの未来予想図をひっくり返した。


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