33 王様、まさかこんなことって
「どうして」
声が出なかった、何でいるの、どうやって来たの、それもお城の中にまで入るなんて、普通出来ないじゃない。
あたしはそこで、滴り落ちる血の流れを見て、息をのんだ。
「うでが」
切り落とされている。うそ、早く血を止めないと、死んじゃう!
「ルー・ウルフ! ぼさっと立ってないで血を止めようとして! ……離して、手当てしないなら離して!!!」
あたしは、そんな状態なのに、ぼーっと動かない彼を見て、もしかして気を失ってるんじゃ、と思った。
だから早く駆け寄って、血を止めたいのに、じたばたともがいても、騎士も呆気に取られているのか、全く動かない。
そんな時だ。
ごう、と炎が燃える音が、嫌に大きく響いてそして。
火柱が、吹きあがった。
その熱波で、あたしを押さえていた騎士が手を離して下がる。
あたしは、呆然とその火柱の中を見ていた。何が起きているのか、よく分からなかった。
火柱の中で、人の形だった影がぐにゃりと歪んで、またすごい熱波が吹きあがる。
何かが脈打つようだった。
何かが新しく生まれるようだった。
熱波が何度めか吹き付けた時、ひときわ火柱の色が淡く変わって、蒼く染まる。
そして、あたしが一度も聞いた事のない鳥の声が響き渡って、火柱が消える。
消えた中に、ルー・ウルフの姿はなくって、あたしの前に、一匹の鳥が舞い降りて来る。
「焔の、鷹……」
あたしは反射的に腕を伸ばした。
伸ばした片腕に、その鳥が止まる。その炎で、服が燃え上がっても、全然熱くなかった。
舞い降りてきたその鷹は、純金よりもすごくきらきらしていそうな、燃え上がる鷹だか鷲だか、そんな生き物だった。
それはあたしを心配そうに見て、顔を寄せて来て、一声、鳴いた。
「……ルー・ウルフ?」
多分そうなんだけど、一応聞くと、そうだと返事をするように翼が広がった。
「あなた、綺麗なのね」
馬鹿っぽい感想だとは思う、でも本当にそう思った。
燃え上がる美しい鷹は、本当に、本当に、神話の中にいる生き物っぽかった。
「陛下、危険です!」
「お下がりください!!」
「得体のしれない生き物です、陛下、陛下!!」
背後が騒がしくなって、そして、後ろから一人の男がやって来る。
「本当に不死鳥の血を継いでいたか、異母弟」
一言言ったその人……陛下はあたしを見て、なんとも言い難い声で言った。
「お前は焼けただれないのだな」
「……へ?」
「足元を見ろ」
「……!」
言われるがままに足元と言うか、周りを見て……あたしは何度目かわからないけど、言葉を失った。
あたし以外、中庭の大半の物が、炭化してぼろぼろと真っ黒に崩れていたんだから。
「お前がその燃える鳥を抱きかかえろ。そしてついて来い。……騒ぎの元凶になった小娘もそちらへ向かわせた」
話だけは聞いてやる、そんな調子で陛下があたしに命令した。