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32 王様、この城とんでもない危険物あった……

そして三日かけて、あくを抜き終わった木の根っこは三倍くらいに膨れていた。

何故膨れる、と思う事もあるけど、膨れた分お腹も膨れるからありがたい。


「こんなに手間をかけるんですか……確かに医者たちの作り方は途中から違っていますね」


「この手順を教える前に泥棒された」


膨れた木の根っこを砕いていく。結構すごい音がするけど、気にしない。

砕いた後はまた水にさらす。


「また水につけるのですか」


「そうしないと匂いが臭くて食べられない」


「……そうですか」


作業をずっと見守っている人が、なんとも言えない声で返した。


「それにしても、ここは不思議ですね」


「不思議ってどうして?」


「ここは別に何か、特別な力が働いている所ではないのですが、妙に息が楽だ」


「あー」


ごめんそれたぶんあたしの体質、、”歩く解毒薬”が魔力だか呪いだかを、分解しているからだと思う。


「ご近所で何か魔法の物で不具合が発生したりは」


「していませんよ、どうしてそのような事を?」


「うちで、魔道具と言われているものが壊れたってかーちゃんが言っていたから、なにかあるかと」


「そうですか、今の所そのような問題は、報告に上がってませんよ」


彼はそう答えて、また質問する。


「あなたは魔力検査で、高い数値は出ていないんですよね」


「底辺と言うか……ゼロに等しい数値だったって言われた。ねーちゃんぶっちぎりだったから、お貴族様の養子に入ったけど。大体養子に入ったのにそこじゃなくて、うちに押しかけて来て、お金とかだけ持ってとんずらとかほんと迷惑だった」


「だった?」


「ルー・ウルフと会えたのは幸運かな。いい奴でしょ。優しいし人の話ちゃんと聞くし。間違いは認めるし」


「……一つうかがってもいいですか? スヴィエート殿下は、あの、あなたの姉に夢中で理解不能な言動を取ったりはしていないのですか?」


「ねーちゃんに置いて行かれて、泊った次の日には正気に戻ってたよ」


それが、一晩、あたしと同じ家にいた結果、ねーちゃんの魔力が分解された結果だとは、言えない。

この人があたしの完全な味方かどうか、まだわからない。

かーちゃんが長らく隠してたくらいだ。うかつに言うのは危険に過ぎる。


「……あれだけ正気を喪っていたのに、一晩で!?」


「ルー・ウルフ、どんだけまともじゃなくなってたの……」


聞けば聞くほど、ねーちゃんの体質えげつない。そしてねーちゃんに有利なように動かされていただろう色んな人に、同情する。

でもあたしに暴力をふるった女の子たちは、許さない。話聞かなかったし。


「……この事は、陛下に報告させていただきます。何か手掛かりになるかもしれない」


「手掛かり……?」


一回木の根っこの力で、多少は言動まともになったんじゃないの。あ、でも毒で寝込んでわからないのか?


「王室は、このような事が二度とないように、対策を考えなければならない義務がありますので」


なるほど。あたしは理解した。


「それに……」


「あ! わかった、噂の使用人ちゃんの対策?」


「それもありますね。彼女の方は、結構裏付けが取れ始めていて、色々分かってきたんですよ」


「あたしに話せたりします?」


「今は言えません。すべて片が付いたらですね」


監視役の人はそう言って、あなたはこれに集中すればいい、と言った。

そうして出て行ったその人は、ポケットから何かを落していった。

それを拾うと、それはいかにも大事なものっぽい物の筆頭、鍵だった。


「……え!」


鍵を落していった、と言う事はこの人は怒られるに違いないし、どこで落としたか探し回るだろう。

今追いかければ、間に合うだろうか。あたしは数分前に見送った扉を開けようとして、鍵がかかっていると思って力いっぱい押した扉が、拍子抜けな程簡単に開いたから、転がった。


「ってえ!」


どこかをぶつけたがしょうがない。あたしは左右を見回し、誰か人がいたら、さっきの人の特徴を聞こうと決めて、とにかく野生の勘で走る事にした。

走りに走って、そしてあたしはあたしの勢いに圧倒されて立ち止まった、複数の女性の脇を通り過ぎかけて……鼻をかすめた匂いに足が止まって、踵を返した。

そして、遠ざかっていく女性使用人たちの中で、一番その匂いが強い、可憐な女の子を掴んで、怒鳴った。


「ちょっとあなた! 表出ろ!」


「ふええええ!?」


女の子はあたしの形相が相当なものだったのか、引きつって悲鳴を上げる。

でも一緒の使用人たちは、助けに入らないでにやにやしている。

この子、仲間から反感を食らってるんだ、と即座にわかる反応だ。


「大事な話なの、外出て、直ぐに! 今すぐ!! そして一番近い外ってどっち! 迷った!」


「この向こうに、中庭に行く出入口がありますよ」


にやついた表情で言う女使用人たちが指さす方に、あたしは女の子を引きずって行った。

そして中庭に出てから、今にも泣きだしそうな彼女の両肩に手を当てて、真剣に聞く。

すごい真剣な問題だ。手遅れになる前に、聞かなくちゃいけない。


「ねえあなた、最近噂のいろんな人が夢中になる女の子?」


「皆さんが親切なだけで、わたしはっ……」


「あたしあなたを責めたいんじゃなくて、確認したかっただけなの。あなたお気に入りの匂い袋とか、香水とか、とにかくなにか匂いを出すものもってるでしょ?」


彼女は不思議そうな顔になった。どうしてそれを知っているの、と言う顔だ。


「お母さんの形見の、匂い石が」


「それ見せて、すごく大事な事なの、今すぐ見せて!」


あたしの剣幕に圧倒されたんだろう。彼女が匂い石……これは香水とかをしみこませたりして、いつも匂いがするようにする石、ちなみに結構安い……を渡してくる。

こっちが血の気が引くその匂いは、その匂い石のついたペンダントから放たれていた。

あたしは迷いなく、そのペンダントを壊し、石をもぎ取り、地面に叩きつけて踏みにじって土と混ぜた。


「な、なんてことをするんですか!!!!」


他人からすればすごい暴行だ。彼女が泣き顔になって叫ぶ。結構な大声で叫ばれた。


「なんてことはこっちだよ! あなたなんつう危険な物持ち歩いてたの!」


「お母さんの形見が! ひどい、ひどい、なんで見ず知らずのあなたにこんな事をされなくちゃいけないんですか!」


あたしの声も聞こえない顔で、女の子があたしからペンダントの欠片を奪い、座り込んでぼろぼろ泣きだした。

騒ぎを聞きつけたのか、あちこちの窓からひとが顔をのぞかせだす。

あたしは彼女の前に座りこみ、彼女が顔をあげた時に告げた。


「あたしは魔女の娘で薬師見習い。これでも色んな薬草の匂いに詳しいの」


魔女の娘ってところで、彼女も反応する。


「魔女の娘って言ったら、貴族学校で王子様やいろんな男性を狂わせた人じゃないですか、なんでこんな所にもぐりこんでるんです!」


ねーちゃんどんだけ魔女の娘って認識されたんだ、今回の事で。あんた男爵家の養女って肩書だろうが。追い出されたけど。


「あたしじゃねえ! それは姉だ! ……とにかく、あなたが持っていたのは……」


あたしが、彼女が持っていた匂い石の香りが、どれだけ危険か教えようとした時だ。


「シンシアに何をする!」


あたしは背後から殴られ地面にぶつかり、そしてそのまま腕を捻りあげられて、動けなくなった。


「騎士様、この人が突然私を引きずってきて、お母さんの形見のペンダントを踏みつけて壊したんです!」


事実だ。言い訳の余地のない事実だ、その理由を言わなかったらあたし悪人だ。分かってる。

だから今からその説明をしたいんだっての! 腕を放せ! というか騎士の癖に背後から殴ったな! 外道!

複数の騎士に庇われ、涙混じりに訴える彼女は、悪くない。彼女の視点で言えば、いきなり引きずって来られて、すごい形相で取られて壊されたわけだから。


「……その桃色がかった髪の毛、貴様魔女の娘か!? 貴族学校の貴族たちを狂わせたという!」


騎士たちが、あたしの目立つ髪の毛の色から、何回目かわからないねーちゃんとの勘違いをする。


「優しい彼女と自分を比べ、嫉妬したか!」


「自分の性根が卑しいからと、何ということを!」


「だいたい城にもぐりこむなど! まさか王族をたぶらかす予定だったのか、ここで成敗してくれる!」


血の気が上った騎士たちが、剣を抜いて、そしてそのままあたしに切りかかる。

確かに騎士って、平民殺してもそんな罪に問われないけどさ、これはねえよ!


「ヴィっ」


押さえつけられ、首を狙った一撃が来て、あたしが覚悟した時だ。

聞き慣れた声が響いて、なにか……肉を切るような音と、液体が飛び散る音がして、それで。


「で、殿下っ!?」


「魔女の娘を庇うとは、やはりまだ正気をなくして」


最近、伸びすぎたから切ろうかな、と言っていた金の髪がぱらぱら落ちて。


「……ルー…………?」


ここに絶対に現れないはずの、元王子様が、あたしを庇って剣を受けて、血を流して立っていた。

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