表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/80

28 王様、なら交換条件だ!!

「貴様! よくも騙したな!!!」


そんな時だった。あたしは胸ぐらをつかまれて、医者に怒鳴り散らされた。


「薬だと言って毒を教えるとは!! 何という下劣な!!」


「それも快方したと思わせて毒に変わるという、悪質な物を!!」


「貴様が王家に恨みを持ち、我々に接触し、毒を薬だと偽ったのは明白だ!!」


「元はと言えば貴様が、身の程知らずに、王族に接触したのだろう!! あばずれが!!」


あたしはあちこちから暴言を受けていた。猿轡をしているから、反論もできないのだ。

医者たちは気が済むまであたしに、暴言を吐き、罪を擦り付け、上座の方を見る。


「陛下! こ奴に相応しい処分を!!」


「まあ、待て」


上座にいた男は、ひときわ豪華な身なり……には見えなかった。まあ立派な仕立てだとは思う。でも周りの悪趣味なお金のかけ方と比べたら、ましな感じだ。生地の良さとかがよくわかるような。

そんな男は、見覚えのある金髪で、顔立ちもなんだか誰かによく似ている。眼が紫色なのが大きな違いだ。

男は、ルー・ウルフそっくりだった。ルー・ウルフは本物の王子様だったんだと思う顔。

でも、年齢がかなり近く見えるんだけど、この王様は父親じゃないのかな。

紫の眼は、あたしを面白そうに観察している。医者たちの罵倒も余興みたいな顔だ。


「魔女の娘は猿轡をはめられて、何も言えないだろう。誰か猿轡を外してやれ」


「こんな毒婦に、そのような寛大な事をなさらなくても!」


医者たちが慌てた声で言う。そりゃそうだ、あたしが、彼等の間違いを言えば、ほんの少しだけだろうけど、彼等への不信感につながる。


「何だ、外されては困ることを、魔女の娘が言うのか?」


王様が面白そうに聞く。医者たちは蒼白になって、何も言えない。そのままあたしの猿轡が、外された。


「魔女の娘、何か申し開きがあるなら、聞くだけ聞いてやろう」


「……じゃあ、遠慮なくじゃんじゃんと。……作り方を半分も聞かないで、材料持ち逃げして毒だ何だってふざけんな!!! 当たり前だろ失敗して!!! 失敗して毒になったものをあたしのせいとか冗談じゃない!!! あんたらは材料盗んで作り方も中途半端に盗んだ泥棒だ!!! だいたいあたしは、ねーちゃんじゃない!!!!!!! 誰も彼もねーちゃんと勘違いしやがって!!!!! あたしはヴィル! ねーちゃんはヴィオラ!! 別人!!! 何から何までふざけてんじゃねえよくそったれ!!!」


あたしの怒鳴り声は、結構な大きさで響いて、あちこちでどよめきを起こすものだったらしい。

王様が目を細める。面白そうだ、と言いたいらしい。


「お前の主張では、医者たちはお前の薬の作り方の半分も聞かずに、材料を盗んで薬を作るのに失敗したと言う事か?」


「だいたい正解! です!」


「違います!! そ奴が毒を教えたのです!」


「ふざけんなよ、うちの近所の一冬分の飯掘りつくしたくせに!」


「……は、飯?」


医者たちは反論するから、あたしは言い返す。一冬分の木の根っこ掘りつくされた恨みは、文字通り食い物の恨みだ。

その恨みは恐ろしいんだ!

しかしあたしの言い方で、王様が聞き返す。


「医者に教えたのは、私の家が、冬の食料の乏しい時期に作る、木の根っこのスープなんです。うちの近所はそのスープで、毎年冬を越しているんです。たくさん作って、体の調子の悪い人におすそ分けするものなんですよ」


「……薬ですらないのか? 毎年食べているという事は、毒であるわけもなさそうだ」


「体の調子が悪い時に食べると、よく効くんで、もしかしたら効くかもしれないって事で、おじさんの家に来た医者に、作り方の途中を見せたら、あく抜きの途中で、材料全部盗まれて、もう一回取りに行こうとしたら、生えてる場所全部掘り起こされてたんです」


「陛下! でたらめです!!」


「こんな嘘しか言わない女の言う事など信じてはなりません!」


医者たちが言うのは、腹が立つけどいうよな、と言う物だ。あたしのいうことを信じられたら、自分たちが間違ってて、さらに泥棒したって知られてしまうから。

王様は医者たちと、あたしを交互に見た。そして、唇を吊り上げた。


「では女、お前の手順通りに同じ材料で、そのスープとやらを作って、自分で食べろ」


「え、あ、はい。材料ないんですけど」


そんな事を命じるの? 


「お前の言う事が正しいなら、医者たちは材料を持っているんだろう?」


「彼らはあたしにそれをくれるんですか?」


あたしは医者たちを見た。彼等も考えているらしい。


「本当に毒なら、お前は手順通りに作ったところで食べて死ぬ。医者は毒だと騙されていたとわかるだろう」


貴族たちも、これがどうなるか観察している。

そして……医者たちは頷いた。


「ではその女を、かまどのある部屋に閉じ込めておけ。逃げ出されても面白くない」


これは割って入るのにちょうどいい。あたしは大声をあげた。


「あ! それならかーちゃん牢屋から出してくれませんか!」


「かーちゃん?」


「魔女本人をです。娘が薬かもしれない物を作るんだったら、魔女いらないでしょう? それに、そろそろ下町で薬が足りなくて、大変な事になるんで。今日だって、薬がないと困る店とかに、もって行く途中で連れてこられたんですから」


「薬箱を持っていたという話だったな。……よろしい。魔女を牢から出すように通達しろ」


「陛下!」


「貴族学校にいた魔女の娘ではない、とその娘は言っているのだ。ならば魔女と共に暮らしていた方だろう。……毒を作って食えと命じて、素直に頷くくせに、母を助けろとは、なかなか孝行な娘ではないか」


王様は、唇を吊り上げて、そう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ