28 王様、なら交換条件だ!!
「貴様! よくも騙したな!!!」
そんな時だった。あたしは胸ぐらをつかまれて、医者に怒鳴り散らされた。
「薬だと言って毒を教えるとは!! 何という下劣な!!」
「それも快方したと思わせて毒に変わるという、悪質な物を!!」
「貴様が王家に恨みを持ち、我々に接触し、毒を薬だと偽ったのは明白だ!!」
「元はと言えば貴様が、身の程知らずに、王族に接触したのだろう!! あばずれが!!」
あたしはあちこちから暴言を受けていた。猿轡をしているから、反論もできないのだ。
医者たちは気が済むまであたしに、暴言を吐き、罪を擦り付け、上座の方を見る。
「陛下! こ奴に相応しい処分を!!」
「まあ、待て」
上座にいた男は、ひときわ豪華な身なり……には見えなかった。まあ立派な仕立てだとは思う。でも周りの悪趣味なお金のかけ方と比べたら、ましな感じだ。生地の良さとかがよくわかるような。
そんな男は、見覚えのある金髪で、顔立ちもなんだか誰かによく似ている。眼が紫色なのが大きな違いだ。
男は、ルー・ウルフそっくりだった。ルー・ウルフは本物の王子様だったんだと思う顔。
でも、年齢がかなり近く見えるんだけど、この王様は父親じゃないのかな。
紫の眼は、あたしを面白そうに観察している。医者たちの罵倒も余興みたいな顔だ。
「魔女の娘は猿轡をはめられて、何も言えないだろう。誰か猿轡を外してやれ」
「こんな毒婦に、そのような寛大な事をなさらなくても!」
医者たちが慌てた声で言う。そりゃそうだ、あたしが、彼等の間違いを言えば、ほんの少しだけだろうけど、彼等への不信感につながる。
「何だ、外されては困ることを、魔女の娘が言うのか?」
王様が面白そうに聞く。医者たちは蒼白になって、何も言えない。そのままあたしの猿轡が、外された。
「魔女の娘、何か申し開きがあるなら、聞くだけ聞いてやろう」
「……じゃあ、遠慮なくじゃんじゃんと。……作り方を半分も聞かないで、材料持ち逃げして毒だ何だってふざけんな!!! 当たり前だろ失敗して!!! 失敗して毒になったものをあたしのせいとか冗談じゃない!!! あんたらは材料盗んで作り方も中途半端に盗んだ泥棒だ!!! だいたいあたしは、ねーちゃんじゃない!!!!!!! 誰も彼もねーちゃんと勘違いしやがって!!!!! あたしはヴィル! ねーちゃんはヴィオラ!! 別人!!! 何から何までふざけてんじゃねえよくそったれ!!!」
あたしの怒鳴り声は、結構な大きさで響いて、あちこちでどよめきを起こすものだったらしい。
王様が目を細める。面白そうだ、と言いたいらしい。
「お前の主張では、医者たちはお前の薬の作り方の半分も聞かずに、材料を盗んで薬を作るのに失敗したと言う事か?」
「だいたい正解! です!」
「違います!! そ奴が毒を教えたのです!」
「ふざけんなよ、うちの近所の一冬分の飯掘りつくしたくせに!」
「……は、飯?」
医者たちは反論するから、あたしは言い返す。一冬分の木の根っこ掘りつくされた恨みは、文字通り食い物の恨みだ。
その恨みは恐ろしいんだ!
しかしあたしの言い方で、王様が聞き返す。
「医者に教えたのは、私の家が、冬の食料の乏しい時期に作る、木の根っこのスープなんです。うちの近所はそのスープで、毎年冬を越しているんです。たくさん作って、体の調子の悪い人におすそ分けするものなんですよ」
「……薬ですらないのか? 毎年食べているという事は、毒であるわけもなさそうだ」
「体の調子が悪い時に食べると、よく効くんで、もしかしたら効くかもしれないって事で、おじさんの家に来た医者に、作り方の途中を見せたら、あく抜きの途中で、材料全部盗まれて、もう一回取りに行こうとしたら、生えてる場所全部掘り起こされてたんです」
「陛下! でたらめです!!」
「こんな嘘しか言わない女の言う事など信じてはなりません!」
医者たちが言うのは、腹が立つけどいうよな、と言う物だ。あたしのいうことを信じられたら、自分たちが間違ってて、さらに泥棒したって知られてしまうから。
王様は医者たちと、あたしを交互に見た。そして、唇を吊り上げた。
「では女、お前の手順通りに同じ材料で、そのスープとやらを作って、自分で食べろ」
「え、あ、はい。材料ないんですけど」
そんな事を命じるの?
「お前の言う事が正しいなら、医者たちは材料を持っているんだろう?」
「彼らはあたしにそれをくれるんですか?」
あたしは医者たちを見た。彼等も考えているらしい。
「本当に毒なら、お前は手順通りに作ったところで食べて死ぬ。医者は毒だと騙されていたとわかるだろう」
貴族たちも、これがどうなるか観察している。
そして……医者たちは頷いた。
「ではその女を、かまどのある部屋に閉じ込めておけ。逃げ出されても面白くない」
これは割って入るのにちょうどいい。あたしは大声をあげた。
「あ! それならかーちゃん牢屋から出してくれませんか!」
「かーちゃん?」
「魔女本人をです。娘が薬かもしれない物を作るんだったら、魔女いらないでしょう? それに、そろそろ下町で薬が足りなくて、大変な事になるんで。今日だって、薬がないと困る店とかに、もって行く途中で連れてこられたんですから」
「薬箱を持っていたという話だったな。……よろしい。魔女を牢から出すように通達しろ」
「陛下!」
「貴族学校にいた魔女の娘ではない、とその娘は言っているのだ。ならば魔女と共に暮らしていた方だろう。……毒を作って食えと命じて、素直に頷くくせに、母を助けろとは、なかなか孝行な娘ではないか」
王様は、唇を吊り上げて、そう言った。