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26 かーちゃん、必死になってよかったんだ!

一日がかりで山のなかの、目的の木の根っこが生えていそうな場所を探したが、植物がそう都合よく生えているわけもない。

へとへとになるまで探しても、生えていないものはいないのだ。


「根こそぎ持って行くなんて」


まさか原材料までそうやって持って行かれるなんて……と思うのはおかしいだろうか。

あたしの知る常識の中では、そう言う物を根こそぎ持って行かないのが当たり前、だったのに。

現実として皆ない。


「どうしよう」


「どうしようもこうしようもないんじゃないだろうか」


ルー・ウルフもひどく落ち込んでいる。たぶんあたしよりもずっと、ダニエルのお兄さんのために何か、したかったからだろう。

山を下りておじさんの屋敷に戻ると、空っぽのかごの中を見て、入り口に立っていた人が、大体の事情を察したらしい。

なんとも言えない声で、話しかけてきた。


「その様子だと……見つからなかったか」


「いつも掘っている場所のものは、ねこそぎとられてて、掘り尽くされたって感じだった」


「それは……でもどうやって場所を捜し当てたんだ」


「イヌを使って調べたのだと思う」


「イヌか。イヌならばそれが出来るだろう。それにしても、二人ともひどい泥まみれになっているな。怪我はしなかったのか」


あたしはちらっとルー・ウルフの顔を見た。

確かに今、あたしたちは泥まみれた。

一体どんな場所で、どろ遊びをしたの、と子供なら聞かれていただろう。


「見ての通りで、幸いなことに大怪我はしていない」


「三回か、四回くらい、落ち葉で滑って泥にまみれた」


ちなみに滑ったのはあたしじゃなくて、ルー・ウルフの方だ。

あたしは助けるために手を伸ばして、踏みとどまれなくて転がった。濡れた落ち葉は、とても滑る。

別に泥まみれになるのは、ある程度承知の上だったから、大して気にならないけど。


「速く風呂に入って泥を落として、頭首様のところに行きなさい。とても心配して、そろそろ山へ捜索の人を送ろうかと行っていた」


「おじさんはどこに?」


「執務室の方だ」


あたしはそれを聞いて、泥まみれでも顔を見せた方がいいかな、と思って、執務室の方に向かった。

そしてあたしでも迷わないで進めるそこの、扉の前で、聞こえてきたのは。


「医者の薬が効果を発揮した?」


「かなり回復に向かっているそうです」


「そう簡単に回復しない状態じゃ、なかったのか」


「そこは何とも言えないのですが……新しい薬で、患者たちはかなりしっかりと意識を取り戻しているようです。さらに常識はずれな言動も、まともになりつつあるとのこと」


「どう行った材料の薬だったのか」


「それは医者たちと城が秘密にしているので、我々も本腰を入れて探らなければ出てこないようです」


「ならば手のものを動かしておくように。それとある程度の自由を与えるから、私の欲しいものを持ってくるように。よけいなものも拾ってきてかまわない」


「承知」


扉の向こうで交わされてたのは、いろんな人が回復に向かっているという話で。

それだけなら喜べるのに、山の中のあれをみた後だから、色々余分なことを考えてしまう。

根こそぎ持って行って、全部使ったんじゃないかなって。

でも、あれを使うには二日とか三日とか下処理が必要だから、時間がかかるはず。

ってことは? あたしが作ったものを盗んで薬にして。それが効果を発揮したとか?

いや、そうじゃなくても、新しい薬を手に入れただけかも知れないじゃない。

泥棒された後だけどさ……うがった見方をしてしまうのは、これだけ色々な事があった後だからしょうがないと思いたい。

それでも気を取り直し、扉をたたくと、中から返事があった。

中に入ると、おじさんが目を見張って、机から立ち上がって駆け寄ってきた。

そして上から下まで見て、聞いてくる。


「どうしたんだい、泥まみれじゃないか、転んだのかい、怪我をしたりしていないかい」


「怪我はしてません。ただ、目的のものは手に入りませんでした」


そして事情を話すと、おじさんは腕を組んだ。脇に立っていた部下の人が、言う。


「そういえば昨日、あちこちの医者たちが雨の中、イヌを連れて山を登っていましたね。命知らずだと思ってましたが」


「ね。ふつう雨の降る中、山に登ったら命がなくなる危険があるから、やらないんだけど」


雨の中は視界が悪すぎて、自殺行為はなはだしいと言うのが、一般論だと思っていたんだけど。

医者たちは先を越されまいと、そう言う無茶をしたのだろう。


「雨の中で匂いが消える前に、と行動をしたかもしれない。……ヴィ、君は風呂に入って休んでいた方がいい、顔色がひどいものだ。ルー・ウルフからも話を聞いておくから」


「はい……」


言われた途端に、どっと体を疲労感が包む。ああ、あたし疲れてたんだな、とそこで気付くくらいだ。

もう本当に、かーちゃんを助ける方法が、思いつかない。牢破りくらいしか思いつかなくなってきた。

でもそうすると、皆そろって罪人になるんだよな。

それはいやだ。

でも、あの真っ暗闇の中に、かーちゃんを居させたくない。

どうすればいいんだろう……

お湯をたっぷり使うお風呂と言う、これまたあたしの人生で使用したことのないお風呂に入った後、あたしは布団の上で眠れないで、膝を抱えていた。

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