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18 これが理由じゃないのか?

「この話には前段階があってね」


かーちゃんの従兄……あたしとのつながりは何だ? おじさんとは違うかな?……が言葉を続ける。


「少し前に貴族の令息が何人も学校で、一人の女性に夢中になって、婚約者をないがしろにしていたんだ。そのあまりの事に、その女性を学校から追い出したんだが、彼等がいつまでたってもその女性の事を忘れないでいてね。何人かは吹っ切れて、恨みを募らせたそうなんだが、多くの令息が夢中なままで、そのありさまが常軌を逸していてね。魅了の術が使われたのではないかと検査しても、検査に引っかからない。その女性が薬師の娘だった事がわかってから、貴族たちは強力な惚れ薬が使われたんだと判断したんだ。市販されている解毒薬を試しても、効果が一切見られない。そこで事態を重く見た王宮が、腕のいいと評判の薬師を何人も呼び寄せて、解毒薬の作成にあたらせたんだが……薬師たちが、出来ないと言ったそうで、命令に逆らったとして牢屋に」


つまりかーちゃんは、ねーちゃんに夢中になったままの男の子たちに使われただろう、惚れ薬の解毒薬を作れないと言って牢屋に?

それってとてもおかしい。だってかーちゃんは、そんな事になったら意地でも解毒薬を作るはずなんだ。縁を切った娘でも、自分の娘の行った事だからって。

それが出来ないという事は、その症状が惚れ薬の物じゃないからとしか考えられない。

でも魅了の術の検査には引っかからなかった……どういう事なんだろう。


「そして、問題の追い出した女性が君のお姉さんだと知られてね、ヴィザンチーヌが作った薬を勝手に使用したのだろうと言う風に話が流れて……それで、家になら薬があるのではないか、と婚約者がおかしくなった令嬢たちが、君の家に来たのだろう」


「……その話はおかしくないですか、同じ症状だった私はもう普通なのに」


「だから何人かは吹っ切れたと言っただろう。何か元に戻る条件があったんじゃないかとは思うんだが、それも全く分かっていない状態なんだ」


そういって、かーちゃんの従兄は言う。


「それもあってお前を観察対象にしていたんだが、見ていても何だか全く分からない」


「……魔法でも薬でもない、それは一体どんなものなんでしょう」


「わからない。部下たちでも古い物に心得がある者が、いま総動員で調べている。ヴィザンチーヌの危機なんだからね」


食事が終わっててよかった、とあたしは思った。食事の途中だったら、この後の物を食べられないかもしれなかった。

だってかーちゃんが牢屋に入れられてるんだから。

帰ってこない心配はしてたけど、まさか牢屋行だなんて思ってなかった。

ひどい目に遭ってないか、と不安になる。

ああ、かーちゃん!


「しばらくは二人ともここで生活しなさい。ヴィザンチーヌの縁者だと知られてしまった以上、大きな揉め事に巻き込まれてしまう可能性が高い」


「家のことは」


「心配しなくていい、うちの部下たちが片付けてくれるよ」


「そんな、悪いです」


「ヴィザンチーヌは何も助けさせてくれなかったから、これ位させてくれないだろうか。彼女は自分は助けるだけ助けておいて、恩返しもさせてくれないんだ」


きっといろいろな恩があるんだろう、そんな顔で彼がいい、使用人をよんで、あたしたちを布団のある部屋に連れて行ってくれた。

やっぱりそこにかまどはなくて、でも温かくて、布団はうちの物の何倍も豪華だった。

そこで寝転がって、あたしは考えた。

ルー・ウルフが正気に戻った理由を。

……彼はねーちゃんに捨てられた。役立たずだと思われた。

もしかしてそこに、他のまだ夢中な人との違いがあるんじゃないだろうか。

でも確証はなくて、布団があんまりにもあったかいから、あたしの意識は解けていった。




朝いつも通り早く起きたあたしは、家と全く違う間取りに固まった後、そうだ、カーちゃんの親戚の家だと思い出した。

ただお世話になる事は出来ない、何か手伝わなければ。

そう思ったあたしは、起きてざっと髪の毛を束ねて、部屋を出た。

そして五分後に後悔した。家が広すぎて、誰ともすれ違わないのだ。

ここはどこ、あたしは完全に迷子だ……と思ってなんとも言えない気分になった時、ちょうど向かいから来た使用人の女性が、あたしを見て目を丸くした。


「お客様、どうしましたか? 何か不具合が?」


あたしはここのお客様扱いらしい、でも……あたしは、違う。


「一晩泊めてもらったので、何かお礼がしたくて」


「まあ、そんな遠慮しないでください。でも申し訳ないと思うのでしたら、旦那様と一緒に食事をしていただけますか? 旦那様は奥様と坊ちゃまを亡くしてから、一人で食事をしているのです」


「何か病気で?」


「……暴漢に襲われ、助けようと割って入った男性も殺されたのです」


下を向いて沈鬱そうに言った彼女が、顔をあげる。


「そのため、旦那様は誰かとお食事がしたいのですが、ここの者は皆使用人や部下、同じ席に就けないのです。でもお客様でしたら、同じ席についても問題ありませんもの」


彼女はここにきて長いのだろう。そして色々信頼されている使用人っぽかった。

普通使用人がそこまで、主のことを読み取らないと思ったから。


「じゃあ、一緒に」


「では案内しますね」


「もうできているんですか?」


「食事ができるまで、旦那様と奥様達は、よく食堂でおしゃべりをしていたのです。その名残で、旦那様は食事前に食堂でぼんやりしているのですよ」


言われた事は本当で、あたしは昨日会ったかーちゃんの従兄が、ぼんやりとした顔で、食堂の席に座っているのを見る事になった。

家族をいっぺんになくすってどんな気分なんだろう。

すごくつらいのはわかる、でも気持ちはわからない。

あたしが来た事で、彼は目を丸くした。


「君はまた、こんな早くにどうして」


「お客様に、旦那様とご一緒のお食事を勧めたのです」


使用人がにこやかに言う。彼は目を丸くして、そうか、と言った。

席に座っていても、話題が浮かばなかったあたしは、これしかないと口を開いた。


「昨日考えたんですが、惚れ薬の効果が切れたのって、ねーちゃんが見限った人限定なんじゃないですか」


「どういう事だい?」


興味が惹かれたらしい彼に、あたしはルー・ウルフがねーちゃんに捨てられたことを喋った。そして朝にはもう、まともになっていたことも。

聞いた彼が難しい顔になる。そう来るとは思ってなかったらしい。


「見限った事で術が解除されるとは、あまり聞かない話だが……可能性はある、もっと詳しく調べてみよう。よく気付いてくれたね」


その後は、天気の話とか、あたしがどういう風に暮らしていたかと言う話になった。

多分かーちゃんの暮らしが知りたいのだと思ったあたしは、出来るだけはっきり話した。

話している間に食事が運ばれてきて、あたしはお祭りの時のご馳走であるたまごまで食べる事が出来た。まさか毎日卵が食べられるの、この家ってとってもお金持ち……


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