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1 はた迷惑ねーちゃん

ざまあされた後の王子様ってあんまりないよなって思ったんで。それと迷惑をこうむったヒロインの身内の話もあんまりない気がしてです。

ご都合主義ですご注意ください。

何年か前に、魔力数値が平民としてはトップクラスという事で、お貴族様に買われ……げふん、養子縁組してしまったねーちゃんがこのおんぼろあばら家に帰ってきた。

でもねーちゃんは一人で帰ってきたわけじゃなかった。

いかにも自分が被害者だという顔をして、男の人を一人連れて来ていた。ねーちゃんは連れてきた男の人を、顔だけの何の役にも立たない雑魚といった。ねーちゃんの言い方はあんまりだったが、男の人は生気を失った顔をしていて、なるほど、役に立ちそうな男の人には見えなかった。近所の労働者のにいさんたちにも、あっさり負けそうな感じだったわけだ。

かーちゃんは、ねーちゃんに何で帰ってきたんだ、ってきいた。

目の前のかーちゃんは大変ご立腹だった。それもそうだ。ねーちゃんが出て行くときの台詞は御大層なものだったんだから。


「お前はお貴族様の所で、何不自由なく、恵まれた生活をしてすばらしいお金持ちのイケメンと結婚するっていって、この家を棄てていったじゃないか。こんなあばら家は私の家じゃないって言って」


「事情が変わったのよ!」


「事情ってのは何なんだい」


かーちゃんはその発言を聞いて、ねーちゃんを子供と思わないと決めていたらしい。この様子だとそう言う感じに思える。

でもねーちゃんだけなら家から叩きだせても、こぶつきじゃ追い出すわけにもいかないと思ったらしい。


「とにかく今日は疲れたわ、お茶くらい出してよ」


「厚かましいとは思わないのかい」


「この私にお茶を出すなんて光栄に思いなさいよ!」


ねーちゃんは通常運転だった。いくら言っても自分のいうことが正しい我儘姉貴のまんま。話を聞かないのも仕様だ。

かーちゃんが重い溜息を吐いて、卓から一度立ち上がる。


「ヴィ、そのままジャガイモの皮をむいていておくれ。今日は分厚く焼くよ」


「はあい」


あたしは代り映えのないお夕飯の中身に返事をしてから、かーちゃんの耳元に顔を近づけた。


「本当に追い出さないの?」


あたしはかーちゃんに小さな声で聞いた。ねーちゃんが家を出た後、かーちゃんはねーちゃんの持ち物だったものを皆捨てたし売った。

そして、あんな子供はうちの子供じゃない、と苦い声で言っていたんだ。

だから、お茶を淹れて話を聞こうという姿勢が意外だった。

かーちゃんはねーちゃんとそのこぶにお茶を淹れるために台所に立ち、あたしは夕飯のジャガイモの皮をむき続けている。

今日もジャガイモ明日もジャガイモ、この家のジャガイモ消費率はすごい。

だって市場で一番安い食べ物はジャガイモなのだ。貧乏なこの家では、白パンなんて夢のまた夢。

白パン一つで、ジャガイモが大袋一杯分は手に入る。

貧乏な家なんてそんなものだ。

まあ、ジャガイモでも、お腹いっぱい食べられるだけ、この家はまだましな稼ぎと言っていいだろう。

ちまたには、それも食べられない人がたくさんいる。

皆、貴族がたくさんの税金を持って行くからだ。そしてその税金で、私腹を肥やしている。あたしたちの生活が楽になる事なんてない。

ジャガイモの皮をできるだけ薄く剥いていたあたしに、かーちゃんが小声で言った。


「周りをよく見てごらん、いろんな男がこの家を見張っている。監視なんてかわいいものじゃないよ、きっとこの家から二人を追い出した途端に、うちに変な因縁をつけるつもりさ」


「かーちゃんよく気付いたね」


「あんたが気付く事を、私が気付かないわけがないだろう」


かーちゃんは鋭い観察眼を持っているから、このあたりで見張っている人たちのことにも気付いていたようだ。

あたしも気付いていた。だってこのあたりの通りでは見かけないような仕立ての服を着た男たちが、こっちをうかがっているんだもの。

まあ、偶然鏡の向こうの相手と視線が合わなければ、あたしは気付かないままだっただろうけれど。


「皆に濡れ衣を着せられて、ありもしない罪で学園を追い出されたのよ! それで、こっちの男はここに婿入りさせられるの!」


お茶と言う名前の妙な味のついたお湯を前に、苛立った時の特徴として、ねーちゃんは怒鳴り散らした。数年前と変わらない性格の様だ。自分の都合が悪い時に怒鳴り散らす癖は、全く治っていないと見える。


「婿入りって言ったって、お前はこの家の子供じゃない。その男だってこの家の婿として入れるわけにはいかないよ」


かーちゃんは断言した。これは荒れるな、今晩眠れるかな、と結構真面目に心配したくらいにかーちゃんは怒り狂っていた、でもねーちゃんは本当に疲れたような溜息を吐いて、お願いをしたのだ。


「一晩だけ休ませてよ。たくさんの酷い事があって私だってつかれているのよ。何時間も水さえ飲めていないんだから」


かーちゃんは鬼じゃない。これを聞いて、しぶしぶねーちゃんとその正体不明の男を家の客間に泊めた。

そして翌朝。






ねーちゃんはいなくなっていた。




男の人を残して。





これは、魔法が使える貴族学園で、ざまあということをされて追い出された男と、関わる事になってしまったあたしの物語だ。

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