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04.友人二人

 入学式を終えて、宗二郎たち新入生はそれぞれのクラスに戻る事となった。

 お決まりの挨拶に始まり、ダラダラとした歓迎の催しは彼にとっても退屈なだけだったので、すでに記憶の片隅からもご退場いただいて、ほとんど覚えていなかった。

 気が付くと、教室に戻って来ていた。

 そんな程度だ。


 担任を受け持った教師は何用かで職員室の方に行っており、生徒は各々気の合った者、または席の近い者同士で話し始めていた。

 教室での彼の席は入口寄りの後ろから二番目だった。


「へい、お兄さん、お兄さん、ちょっといいかい?」


 自分の席に座ったところで、後ろから声を掛けられて彼は振り向いた。

 後ろには、小柄で半眼の女の子が席に座っていた。

 彼女は片手を上げて宗二郎に挨拶した。

 ツーサイドアップでセミロングの髪が動きにつられて揺れる。


「こんにちは」

「そいつあ、淡白な反応だなあ」


 あははと笑う少女は、「月島佑弥」と名乗って宗二郎に笑いかける。


「折角席も近い事ですし、これも何かの縁だよ。ヨロシクね、宗二郎くん」

「どうも」


 佑弥は彼の手をとって、ぶんぶんと上下に振る。

 抵抗もせずに、されるがままにしていると、二人のやり取りを聞いていた隣の男子生徒から声がかかった。


「おい、佑弥。あんまり初対面から馴れ馴れしくするなよ、困ってるだろ。だからお前は空気読めない能天気って言われんだよ」

「ちょっと、失礼なこと言わないでよ。そんな事ないよね?」

「ええ。変な人だなあ、くらいにしか思ってないです」

「おおぅ、バッサリだぜ。嘘がつけないタイプだね。ゴメンよ、宗二郎くん」


 あまり目つきのよくない、長身の彼は堂島棗と名乗った。

 制服を若干着崩して、非常にダルそうにしている。


「二人は知り合いですか?」

「そうよー、棗くんとアタシはお友達なのよ」

「え? よく聞こえなかったんだが、なんてったんだ? 中学時代からの、ただの腐れ縁だろ。何の因果か高校まで一緒だけどな」

「なんだとぉ、腐れ不良め」

「誰が不良だっつの」


 棗の否定には、佑弥は口を尖らせて抗議する。


「なによぅ、お兄さん誰のおかげで無事に高校に入れたと思ってるのよ。ちょっとはアタシに感謝しても罰は当たらないんだけどな、寧ろ感謝しろよお」

 にししと彼女は愉快そうに笑って「宗二朗くんもそう思わない?」と話を振って来た。


「いや、知らないですよ」

 二人の関係なんて。


「えー、なんでさ。宗二郎くんも棗の味方するのね、祐ちゃん悲しいの」

「宗二郎、正直で良い奴だ。友達になろう」


 棗の肩を持ったつもりは無かったのだが、がしっと握手された。

 佑弥は佑弥でよよとわざとらしく泣き崩れた真似をしていて、何だかんだで二人とも似た者同士なんじゃなかろうか、と宗二郎は思った。


「ふーんだ、アタシ一人だけ除け者なのね」

「すみません?」

 で良いのだろうか。


「ほっとけ、宗二郎」

 つんと唇を尖らせてソッポを向く佑弥についつい謝ってしまう。

 棗は慣れているのか、そんな彼女に特に反応しなかった。


「ぶー、つまんなーいの」

 机に顔を乗せて横を見て、彼女はダレたように半眼をさらに細める。


 そんな事を話していると教室の前の扉が開き、今までお喋りをしていた生徒が口を休めて注目した。入って来たのは、宗二郎たちのクラスの担任を務めることとなった男の教師だった。

 教師は教壇に持っていた様々な書類を置いてから生徒に向き直る。

 生徒はようやく現れた担任についてヒソヒソと囁きあう。


「おぉ、格好いい先生だね。あれは数学の館脇せんせいよ。堅物で有名なのね」

「何で知ってるんだ?」

「うんにゃ、それは勿論さっき聞いたからさ」

「誰に?」

「知らない人!」

「知らない人にホイホイものを訪ねるんじゃあないよ、迷惑だろ」

「えぇー、だって教えてくれるって言うからぁ」

「言うから、じゃねーよ」


 そんな評価を余所に館脇は手早く書類の整理を終えて、それから二度、手を叩いて自分に注目するように口を開く。


「注目。静かにしろ」


 その言葉でざわざわと騒いでいた生徒は口をつぐんだ。


「これから資料を配るので、一枚とって後ろに回すように。大事な手紙もあるので、帰宅したら忘れずに保護者に渡すこと」

 そう言って、館脇は手に持った書類を回し始める。

 前の生徒から渡されたそれを宗二郎は後ろの席の佑弥にと手渡す。その際、彼女はニコリと笑って受け取ってから彼に口を開いた。


「これからヨロシクね。宗二朗くん」

「こちらこそ。佑弥」


 何はともあれ、宗二郎の高校生活はこうして幕を開けた。


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