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玻璃一族シリーズ

探偵事務所のAさん

作者: 川里隼生

 あなたは『寺生まれのTさん』をご存知だろうか。俺の知り合いには『探偵事務所のAさん』がいる。彼女に初めて出会ったのは高3の夏、場所は中国地方のS県にある廃業した遊園地だ。そこで世にも奇妙な体験をしたのでここに書き込んでおこうと思う。自演だと思ってもらっても構わない。一応、特定を避けるためにフェイクを混ぜている。


 俺が1年浪人して大学入って2年経つから、それは3年前のこと。小さい頃からつるんでた男友達のM、Yと3人で遊園地にやって来た。その年の3月、プロ野球のオープン戦でグラウンドに刃物を持った男が乱入し、JKが1人怪我する事件が起きた。新聞やテレビでもやってたから、覚えてる人も多いと思う。


 そのとき話題になったのが、そのJKってのが業界では少しだけ名の知れた退魔師ってことだった。その影響で少しの間だけ心霊ブームになった。俺たちもこのビッグウェーブに乗るしかない、ということで地元の遊園地に行ってみることにした。閉園になった理由ってのが、園内で客が次々と死んだからだそうだ。


 今でも覚えてる8月1日。センター試験を受ける予定だった俺たちにとって高校生活最後の思い出作りのつもりで集まった。朝のニュースを見ると、地元で長く続く失踪現象についての特集をやっていた。ニュースでまで扱うほどの心霊ブームだったのだ。今思えば異常だった。


 駅でMYコンビと合流し、いつ廃線してもおかしくないローカル線で目的の場所へ。駅からも少し歩いた。その間俺たちは見聞きした怖い話をしてた。やがて遊園地の門に辿り着いた。完全に錆び付いていた。ゲートを閉ざす南京錠まで錆びていた。Mが門をよじ登って最初に入った。


 用意周到なYはビデオカメラを持ってきていた。録画しながら奥へと進んでいった。廃園から5年。予想通りに寂れていた。口には出さなかったが、夜を選ばなかったのは正解だと思った。昼間でも充分雰囲気が出ていた。道のコンクリートは割れ、雑草が伸びていた。


 後方からガサッという音がした。敷地に入った頃から会話が減っていた俺たちの耳にはしっかり聞こえた。一斉に振り向いた。俺たちはレストランの建物に沿って歩いていた。

「なあ、陰に何かいるんじゃね?」

 ビデオを回しながらYが言った。1歩そこに近づいた。


「やめろよ、やべえって」

 俺はYの肩を掴んで止めた。

「そうだな。やめとこう」

 Yも何かを感じ取ったのか、踏みとどまった。早く回って帰ることにした。そして最後にミラーラビリンスへ入った。スマホのライトで中を照らして進んだ。


「おいM、迷ってんじゃねえだろうな」

 俺がMに聞くが、Mは無言で突き進むだけだった。呼び掛けても応じない。カメラを構えるYも異変に気付いた。

「M! 止まれ!」

 2人で止めようとするが、謎の力で奥へ奥へと進んでいった。


「どうかしました?」

「うひゃわあっ!?」

 そんな叫び声が出た。後ろから低めの女の声が聞こえた。俺たちとそんなに年齢が変わらなそうな女がいた。

「そんなに驚かないでください。人間ですから。皆さん、お歳は?」

「え? 全員18だけど」


 俺が答えると、Mの動きが止まった。

「18歳ですね。2つ上の先輩ってわけだ。この先は危険ですよ」

 自称後輩の女はそう言う。

「だってよ。もう帰ろう」

 YはMを呼ぶ。Mが振り返った。

「お前……誰だ?」

 Mが女に聞いた。


 振り向きざまに女がセロハンテープ付きのお札を取り出し、Mの額に貼った。謎の呪文を唱えると、Mは膝から崩れた。

「これで大丈夫です。また憑かれない内に早くここを出ましょう。でないと、4人ともこうなりますよ」

 女は壁を指差した。


 鏡の中には無数の屍が映っていた。きっと最近行方不明になっていた奴らだ。俺たちは絶叫を抑えられず、転がるように来た道を戻った。

「あそこまで行ったら出口の方が近かったんですけどね」

 後輩の女からは笑われた。既に気が動転していた俺たちは考える力も残ってなかった。


「呼ばれてもないのにこんな所へ来ちゃ駄目ですよ。ホラーならテレビでもやってますから、それで楽しんでください。フェンスを越えてグラウンドに入っちゃう野球ファンは追い出されるでしょう?」

 門を登りながら彼女は言った。その例えにMが反応する。


「あんたまさか、オープン戦で切られた……」

「はい。その迷惑少女です」

 冗談っぽく自己紹介された。

「名前は?」

 俺が名前を聞いくと、彼女はこう答えた。

「◯◯探偵事務所のAです」


 探偵事務所のAさんは夏休みに様々なスポットを回っていて、その途中にここへ寄ったらしい。ちょうど俺たちが侵入するところを見ていたそうだ。ずっと後を追ってきたということになる。彼女がいなければ今頃は鏡の中だった。無事に脱出できて別れようというとき、俺だけ彼女に呼び止められた。


「先輩、僕今度は広島に行くんです」

「それが何か……」

 後輩とはいえ、何となくタメ口をききにくい。

「ついて来てくれません?」

「はい?」

 3人とも開いた口が塞がらなかった。どういうことだ?


「いやあ、1人はやっぱり不安ですから。誰かいてくださると心強いかなあって」

 命の恩人の誘いを断ることはできず、それからおよそ1ヶ月、俺はAさんと日本中を回った。いろいろ大変な目に遭ったが、感想から言えば楽しかった。進学校に入ったばかりに勉強漬けとなった俺の高校生活も、最後は多少やりがいがあった。

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