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ツナガル羽  作者: はれのひ
第一章 幼年期
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お仕事と成長

六歳になると、羽人の子たちは仕事を命じられる。


羽が生える前の幼い羽人の子たちだけ錬成できる高回復薬(ハイ・ポーション)作りだ。


羽人の子たち一人ひとりに身の丈ほどある大きな甕が渡された。甕には、中いっぱいに世界樹の朝露と樹液が入れられている。


羽人の子たちは、幼い肉切歯で親指の付け根の肉を噛み切ると、滴る血を甕に落とした。十滴ほど血を落とすと、ぺろりと傷をなめて止血する。その後、丹念に甕の中を木の棒でかき混ぜていく。狩りに出る兄妹たちの無事を祈りながら、一日何時間も繰り返し、繰り返し、かき混ぜていく。


これを羽が生える成体となるまで、毎日繰り返すと、高回復薬(ハイ・ポーション)が出来上がる。


羽人の子が錬成する高回復薬の効き目は高い。飲むと、どんなに疲れ果てた体であっても、活力がみなぎる。傷ついた体にかけると、たちどころに血は止まり、傷が塞がる。生命力にあふれた幼き羽人の血だからこそできる、秘薬だ。


「毎日、手を噛み切るのって痛くて敵わないわよね」


少しぶうたれながら、テアが甕をかき混ぜる。


「テア、ちゃんとしなきゃだめだよ」


ぞんざいに甕をかき混ぜるテアをテトがたしなめる。


周りでは、幼い兄妹たちが真剣に甕をかき混ぜている。


テトに注意されたことが不服なのか、テアが口をとがらせる。


「だって、痛いのは事実じゃない? 少しくらい文句を言っても罰は当たらないと思うわ」


「でも、ちゃんと祈って作らなきゃ良い高回復薬にならないって兄さんたちは言ってたよ」「それって本当かしら? 誰か試してみたことがあるの?」


「いや、それは知らないけど……」


「もし、祈って作っても、祈らず作っても一緒だとしたらよ? 痛いことは痛いって言いながら作ったほうが得じゃない?」


「うーん……、それって得かなあ?」


「ええ、得よ。だって、少しは気がまぎれるもの」


ぶうたれながらも、テアは甕をかき混ぜる手は止めてはいなかった。自分の仕事が大切な仕事だとは分かっているようだ。


痛みに不満を持っているのではなく、ただ退屈なのだろうとテトは思った。


「おしゃべりせずに、ちゃんとやるっ!」


ガンッ、ガンッとテトとテアの頭に拳が落ちてきた。


「あいたっ!」


「痛いっ!」


二人は悲鳴を上げる。


見上げると、テトたちを世話をしてくれている兄のサスが眉を吊り上げている。


「もおっ、サス兄さんっ! そんなに強く叩いて、頭の形が歪んだらどうしてくれるのっ!?」


「何で僕まで……」


不平を漏らす二人に、サスが毅然と言った。


「ちゃんとした大人になりたかったら、仕事はちゃんとすること。ひとつひとつの仕事が帝国のためになるんだから」


幼いテアは、口をへの字に曲げて、そっぽを向いた。


テトは涙目で頭を抱えている。


やれやれと言う表情をサスが浮かべた。








十歳にもなると、兄妹たちの成長に性差が見え始める。


身長差はほとんどないが、オスは体つきが角張り、メスは体つきに丸みを帯びてくる。


テトは他の兄妹に比べて発育が遅いながらも、少しずつ成長を遂げていた。


ある日、テトが大浴場で身体を洗っていると、テアが近づいてきた。


座椅子に座るテトの股間をのぞき込む。当たり前だが、入浴のため全裸だ。


「テア、何? どおしたの?」


「テトのおちんちん見てるの」


ふむふむ、と興味深そうにテトの股間を観察するテア。


なんとなく居心地が悪くて、テトはタオルで股間を隠した。


「テトって体は小さいのに、おちんちんは大きいのね。立派だわ」


「そ、そおなの?」


「うん。みんなのを見比べてみたんだけど。知ってた? 同じオスでも、おちんちんの大きさとか、形って結構違うのよ。大きかったり、小さかったり、太かったり、細かったり」


テアが得意気に観察結果を披露した。


――どうせなら排泄器官だけじゃなく、身体全体が大きければいいのに。


兄妹たちより一回り小さいテトはひとりごちた。


同い年の兄妹たちの中で一番早く生まれたテアは、好奇心が強く、活発で、行動力がある。兄妹の輪の中でもいつも中心にいる。どちらかと言うと内気で、泣き虫なテトは、そんなテアを内心、羨ましいと思っていた。


「ねえ、テア。おちんちんのこと調べて楽しいの?」


自分では気にもしたことがない点に興味を持つテアに、テトは訊いてみた。


羽人にとって、性差とはあまり意味をなさない。体力も知力も変わりはない。オスであろうが、メスであろうが、性別の区別による役割の違いはほぼ皆無だ。オスもメスも狩りに出るし、城を護るし、幼い兄弟の面倒を見る。唯一、乳児への授乳だけがメスだけにできる役割だ。


「うーん……、楽しいっていうか、面白いわね。だって、私にはおちんちん無いし」


テトはテアの股間を見やる。テアはメスなので、もちろん無い。かわりに割れ目があるだけ。


「ほらっ、私たちってどんどん大人に近づいているでしょう? どんな風に変わっていくのか、興味深いじゃない」


「そうかな?」


「そうよ。見てごらん」


テアは胸を張った。


意図が分からず、テトは首を傾げた。


「どお? 少し膨らんできてるでしょう?」


テトはテアの胸に目をやった。


確かに、少しばかり膨らんできているようにも見えなくない。


「これから、きっとどんどん大きくなるわ」


自信満々にテアが言う。


「そしたら、テトはうれしいでしょう?」


テトは思わず吹き出した。


「な、なんでテアのおっぱいが大きくなったら、僕がうれしいんだよっ!?」


「だって、テトっておっぱい大好きじゃない? おっぱいの大きな姉さんばかり選んで甘えてるでしょう?」


図星だった。


「テアが大人になって、おっぱい大きくなったら甘えさせてあげるからね」


「もお! やめてよ! テアが大人になったら、僕も大人だよ!? 甘えたりするもんか!」


「どおだか。テトは甘えん坊だからなあ」


テアがニヤニヤと笑う。


「おちんちんとか、おっぱいとか、なあに下らないことで騒いでるんだよ」


騒ぐ二人に、テロがあきれ顔を向けてきた。


同い年の弟テロは、兄妹の中でも一番発育がよい。体つきは大人びて、しっかりとした筋肉がついてきている。ことさら小さいテロより頭二つ分は大きい。


「テロは体は大きいけど、おちんちんは小さいわ」


テアがテロの股間を見ながら言う。


「それがどおした? 排泄器官の大小なんて、なんの意味があるんだ? 羽人なら、気にするのはこれだろう?」


テロは二人に背中を向け、四つの羽核を見せた。


羽人の子すべてが持つ背中の四つの突起。成体になると、この羽核から大空を翔る四枚の薄羽が生えてくる。羽人として何より大切な器官だ。


テロの羽核は、小さく肌色のテトの羽核とは違い、大きく隆起し赤黒くなっていた。


「最近、羽核が痛くてさ。サス兄さんに診てもらったら、羽化も近いんじゃないかって言われたんだ。もうすぐ繭糸を出せるようになるだろうって」


「ほんと!? すごいっ!」


テトとテアは驚いた。


羽人はおよそ十歳から十一歳の間に、羽の無い幼体から、羽を持つ成体に変わる。その変化に際して、子どもたちは細く強靭な糸――繭糸を吐き出し始める。子どもたちはその糸で自分の体を包む繭を作り、一年にも及ぶ眠りを経て、成体となる。


テトたちは、この一、二年が大人の羽人に大きく変わっていく時期だが、まだ具体的な変化を言及されたものはいない。


「すごいよ、テロ。僕たちの年代では、君が一番最初に大人になるんじゃないか」


「きっと、そうなるだろう」


テロは得意そうに鼻を掻いた。


「ねえ、テロの羽核触ってみてもいい?」


テアが興味深そうに、テロの羽核をのぞき込む。


「いいけど、痛いからそっと触ってくれよ?」


「うん、わかった」


テアが指先で、そっとテロの羽核に触れた。


痛むのか、テロが顔をしかめる。


「すごい……。大きくて立派ね。熱を持ってるみたい、すごく熱い。やっぱり痛いの?」


「ああ、最近は仰向けには寝られないくらいに痛む。羽核の中で羽ができてきている証拠なんだって」


テロが年長の兄妹から聞いた知識を披露する。


テトとテアは、感心して何度も頷いた。

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