表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツナガル羽  作者: はれのひ
エピローグ
35/35

羽人との別れ

神聖テトミア帝国の戦士が語り終えると、眼前の人間は涙を流していた。


「なぜ涙を流す?」


戦士は、人間に問うた。


「これほどの壮絶な生涯を生きる君たちなら、この涙の理由も分かるだろう?」


人間――ハレノヒ生物博士は言った。


「約束の礼だ」


博士は神鋼(オリハルコン)で拵えた指輪を戦士に渡した。


「ぜひとも、君たちの帝国のために役立ててくれ」


「言われるまでもない。――だが、貰いっぱなしというのも悪いな」


羽人(ハネビト)の戦士は腰のポーチから小瓶を取り出した。


博士の親指程度しかない、小さな、小さな小瓶だ。


戦士はその蓋を逞しい牙でかみ砕くと、博士に差し出した。


「飲め」


博士は、小瓶をつまみ口に含んだ。


ひとすすり程度の小瓶の中身。


口の中に、ひりつくような強い甘みが広がる。


喉を鳴らし飲み込む。


途端に、身体から疲労が消えた。活力がみなぎる。


そして、不思議なことに、たた一啜りにも関わらず、全身の渇きが嘘のように消えた。「よかったな。人間にも効くようだ」


そう言って、戦士は腰のポーチからもう二瓶出すと、博士に渡した。


「我らが偉大なる父に涙を流してくれた礼だ。さあ、世界樹の森を去り、自分の国に帰れ。ここは人間の住まうべき土地じゃない」


博士は、羽人の戦士の心遣いに、深々と頭を下げた。


死を覚悟した命が、羽人によって繋がれた。


羽人を前にして、この命をどうやって無駄にできようか。


博士は世界樹の若木の幹から背を離し、二本の両足でしかと大地を踏みしめた。


王国までは、果てない大草原を横断しなけばならない。


しかも、たったひとりで。


途中で力尽きるかもしれない。それでも歩むしかない。


生物学者として、この誇り高い羽人族を書物に残さなければならない。


それが繋がれた命に応える使命だと、博士は思った。


「ありがとう、羽人の戦士よ。よければ君の名前を教えてくれないか」


一度宙返りすると、羽人の戦士は誇らし気に言った。


「テトだ。偉大なる父と同じ名前を、僕は賜った」


「ありがとう、テト。私は必ず生き抜いてみせる」


「お前が生きようが死のうが、興味はない。しかし、出来る限り生きてみせてくれ」


博士は頷くと、戦士に別れを告げた。


懐からコンパスを持ち出し、森の出口の方角を確認する。深い世界樹の森、まずはこれを踏破しなければならない。


背中越しに、羽人の戦士――テトがぶうんと羽音を立てる。


去ろうとしているのだろう。一度だけ博士は振り向いた。空に昇っていくテトに向けて、叫ぶ。


「君の燃えるように紅い瞳は、とても美しい!」


テトは振り返らず、叫び返した。


「だろう? 僕たちの誇りだっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ