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ツナガル羽  作者: はれのひ
第五章 死期
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滅亡の日までもたすために

『あと一年、なるべく羽人(ハネビト)の数を減らさないように努力をしてください。来る巣立ちの時のために』


テトに託された神聖母(しんせいぼ)ヤムリルの願い。それを叶えるため、テトは知恵を絞った。


そして、三つの施策を考案した。


その施策を説明するために、テトは食堂に兄弟たちを集めた。


「これからは、狩りの在り方を考え直したほうがいいと思う」


居並ぶ兄妹たちに、テトはそう切り出した。


日に日に冷え込み、獲物が減っていく世界樹の森でどうやって生き残っていくか、まず今日の会合の論点はそこであると、兄妹たちに伝えた。


来る巣立ちの事については、テトは話すつもりはなかった。巣立ちとはすなわち帝国の終わりと同義だ。兄妹たちを動揺させたくない。自分の胸の中にしまい込むことにしたのだ。


テトの施策は、サバイバル遠征の中止、ペアでの狩りの実施、樹液場の開拓、の三点だ。


テトは、ひとつひとつを丁寧に説明していった。








まずは、サバイバル遠征の中止だ。


羽化した若い羽人の飛行訓練の最終試験として行われるサバイバル遠征。長い帝国の歴史で、一人前の戦士としての登竜門として毎年行われてきた。この過酷な試練は、毎年必ず未帰還者を出す。テトがサバイバル遠征を行った際も、同い年の兄弟たちの多くが耐えきれず、世界樹の森のどこかで息を引き取った。最愛の姉であるテアも、テトの命を守るためにこのサバイバル遠征で命を落とした。


テトはこの風習を、不必要に羽人の命を失わせる悪習であると断じた。


テトの提案に、兄妹たちがざわついた。無理もない。ここに居並ぶ兄妹たちが生まれるよりも昔から行われてきた風習であり、今年羽化した六人の若い兄妹以外の全員が、サバイバル遠征を経て、今に至っている。未発達の羽を持つミアでさえ、サバイバル遠征を経験している。テトも含め、羽人たちはサバイバル遠征を経て一人前になったという自負がある。その歴史ある試験を、戦士長が悪習と断じたのだ。


「戦士長テト! サバイバル遠征を悪習と言い、取りやめることは、誇りある帝国の歴史を否定することにならないか!」


「そう取ってもらっても構わない。どう思われようと、僕はサバイバル遠征を中止しようと思う。このような悪習で大切な兄妹の命を危険に晒すのは間違っている」


上がる批判を、テトは一蹴した。


そのテトの態度に、兄妹たちが再びざわついた。


「でも、この試験を通して一人前の戦士となるのでしょう? 私はこの子たちが一人前の戦士となる機会を奪ってしまうのは、間違っているんじゃないかって思う……。みんなそうやって大人になってきたわ。兄妹の命を心配する気持ちは分かるけど、大丈夫。この子たちは優秀よ。きっとみんな試験を達成して戻ってくるわ」


言ったのは若い羽人の飛行訓練の面倒を見ているミアだった。


ミアの回りで、若い羽人たちが、その通りだと自信に満ちた顔で頷く。


しかし、テトは首を横に振った。


「ダメだ。試験に臨む世代がどんなに優秀かなんて関係ない。この試験では必ず未帰還者が出るんだ。それは歴史が証明しているじゃないか。一度でも全員が帰還できた年があったかい? 未帰還者が出るのが分かっていて、サバイバル遠征に行かせるのは、弟、妹に死にに行けと言っているのと一緒だ」


一度言葉を切り、テトは心中でごめんとミアに謝った。


自らの意見を通すため、テトはミアを攻撃する言葉を放った。


「ミア、君の意見は、兄妹たちを殺そうしているのと何ら変わりない」


テトの言葉に、ミアがショックを受けたように、瞳を揺らした。


「そんなこと……あるわけないじゃない……」


ミアは、つぶやくと唇をかみしめ、うつむいた。


「テト、どうしたんだ? 少し頭を冷やせ」


腑に落ちないと顔に書いたテロが立ち上がった。


「自分たちで生き抜く力を養う、それがサバイバル遠征の意義だ。何も殺そうなどと誰も思っていない。試験の過程で兄妹たちの死ぬのは悲しいことだが、そうやって弱い者が淘汰され、強い羽人の戦士が育つ。それが、帝国を支える摂理じゃないか」


「それが、間違っているって言っているんだっ」


吼えるように言うテトに、テロが目を白黒させた。


テトは、テロを睨みつけるように見た。


「淘汰されていい命なんて無いんだ。全部愛しい兄妹たちだ。強いとか弱いとかじゃない、この試験で生き残れるかどうかは、運があるかないかなんだ。僕が試験を受けたとき、ペアだったテアは僕を守るために死んだ。きっと生きていたら、帝国最強の戦士になっていたかもしれない優秀な羽人だった。テロは、テアの命が淘汰されるべき弱い命だったって言うのか?」


「……っ」


テアの話を引き合いに出され、テロが不快そうに顔を歪めた。テアに救われたお前が言うことか、テロの顔にまざまざと書いてあった。


今にもテトに掴みかかるのではないか。


テロの身体から怒気が湯気のように立ちのぼるようだと、その場のみんなが感じた。


しかし、テトはそんなテロを無視して、話を進めた。


「とにかく、サバイバル遠征は中止だ。百害あって一利なしだからね。――いや、一利はあるか。サバイバル遠征で唯一意味があるのは、ペアを組んで行動するという点だ。そこだけは、今後に活かしたいと思う」


テロは一方的に、サバイバル遠征の中止を宣言すると、次の施策の説明に入った。








ペアでの狩りの実施。


今まで羽人の戦士たちは、ひとりで世界樹の森を翔け、獲物を探し狩ってきた。その狩りを、ひとりではなく二人一組のペア制で行うことをテトは説明した。


ペア制を導入することで、外敵を警戒する目が倍になり、もし外敵に襲われてもお互いにフォローが利く。外敵の凶暴性が高まっている今、ペアで行動することにより、生還率はぐっと向上するはずだ。


なるべく経験豊富なベテランの戦士と、若く体力のある戦士をペアにして、一緒に狩りに出させるとテトは自分の考えを伝えた。


「話にならん。頭がおかしくなったんじゃないのか?」


憮然と否定してくるテロを、テトは無視する。


その二人の張り詰めた空気感に、場が鎮まりかえる。


狩りを引退し、現在は工房の長を務める兄のサスが、手を上げて発言の許可を求めてくる。


テトは、サスに発言を促す。


「ペアで行動するとなると、狩りを行う全体数が単純に半分になるってことだろう? ただでさえ獲物の数が減っているんだ。大遠征のおかげで今は余裕があるとは言っても、狩りの数を減らすのはまずいんじゃないか?」


サスの意見はもっともだった。


狩りを行う回数が減れば、応じて獲得できる獲物の数は減る。獲得できる獲物の数が減れば、再び帝国は飢えるだろう。


しかし、ひとりでの狩りを続ければ、それだけ未帰還者を増やすことになりかねない。狩りには危険が伴う。恒常的に命を落とす戦士がいるのだ。


「ひとりでの狩りを続けて、戦士の数が減ることのほうが、長い目で見たときに帝国にとっては大きな問題を起こすよ。今でも週に何人かの未帰還者を出す。放っておいたら、半年後には、ペア制を導入しなくても狩りを行える数は半分くらいになってしまう」


ひいては、帝国が滅びる時に、巣立つことができる数も減る。喉まで出かかったその一言をぐっとテトは堪える。


テトの言葉に、サスが思案顔を浮かべる。


今や兄弟たちの最長老となったサスがどう考えるのか、兄妹たちが固唾を飲んで見守る。


「今の段階で狩りの量を減らしても、長く安定的に狩りを行い続ける体制を築く……か。……一理あるかもしれないな。しかし、食料不足になる可能性は否定できないぞ?」


「分かってるよ、サス兄さん。だから、樹液場を開拓するんだ」


テトは、最後の施策の説明を始めた。








樹液場の新規開拓。


羽人は肉を好むが、本来雑食性だ。肉を食べなくても生きていける。肉以外の食物として、世界樹から滲む樹液は栄養価が高く、羽人たちが錬成する高回復薬(ハイ・ポーション)の材料にも使われる。


現在帝国が利用している樹液場が、世界樹の森の中に二か所ある。どちらも天然の樹液場だが、古くから利用しているため採取できる樹液量は減ってきていた。テトの案は、自ら世界樹の幹を削り、新たな樹液場を確保し、安定的に食料を確保しようというものだった。


「……なるほど。それが成功すれば食料不足に悩む必要がなくなるかもしれない」


サスがテトの案に感心する。


「ふざけるなっ!」


しかし、テロは憤慨した。その大きな拳でテーブルを強く叩いた。


「狩りこそが羽人の本分だっ! それを捨てて、樹液をすすって生きろと言うのかっ!」


立ち上がり、テトの胸倉を掴むテロ。咬みつかんばかりに顔を寄せる。


テロの目を、テトは真っ向から見返した。


「そうは言っていない。狩りも続ける。ただ肉より確実に獲れる食料を確保するだけだ」


「ペアがどうこうと狩りの数を減らそうとしておきながら、どの口が言う。戦士としての誇りを捨てて、ただ生き延びることばかり考えやがって」


「誇りで食えれば苦労しないよ、テロ。僕は帝国全体のことを考えて、この施策を作ったんだ。テロは羽人の戦士として正しいことを言っているのかもしれないけど、それで兄妹たちが死に、帝国が飢えるんであれば、その考えは間違っている!」


「そんなに飢えが怖ければ、また俺が小鬼(ゴブリン)でもなんでも群れを見つけてきてやるっ! また大量に肉を狩れば問題ないだろうっ!」


「たとえテロが群れを見つけてきても、この前の大遠征のように大軍での強襲はもうやらないっ! 兄妹たちが死にすぎるっ! あの大遠征で何人が死んだと思っているんだっ!」


「そんなに死ぬのが怖いなら、城に閉じこもっていろっ! 俺が兄妹たち率いて行ってきてやるっ!」


「勝手なことは許さないっ!」


テトは胸倉を掴むテロの腕を荒々しく払った。


食堂に集まった兄妹たちを見渡し、有無を言わせぬ迫力で言った。


「戦士長は僕だっ! みんな僕の指示に従ってもらうっ! 勝手な行動は許さないっ! サバイバル遠征は中止っ! 狩りはペアで行うっ! 平行して、樹液場の開拓を進めるっ! これは決定事項だっ!」


テトが叫び終わると、食堂内はしんと静まり返った。


「……戦士長が乱心した……」


誰かがポツリとつぶやいた。そのつぶやきは、重くテトの腹の中に響いた。

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