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ツナガル羽  作者: はれのひ
第四章 青年期
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滅亡の予告

テトはミアと別れると、第六階層の神聖母の間を訪れた。警護役の兄妹に中へ通してもらう。


神聖母の間の奥に鎮座する寝台に歩み寄り、テトは膝をついた。


神聖母ヤムリルは、横になったまま顔だけテトに向けた。


「おかえりなさい、可愛いテト。遠征の結果についてはすでに伝え聞いています。ご苦労でしたね」


「はい、神聖母」


テトは恭しく頭を下げた。


「今回の遠征で、小鬼五十体分の肉を得ることが出来ました。これで最低三か月、うまく運用できれば六か月は帝国を飢えさせずに済むでしょう」


「すばらしいことです。よくやってくれました、テト」


テトの報告に、神聖母ヤムリルは満足そうに頷いた。


テトは大きく息を吸った。華々しい戦果だけを報告するわけにはいかない。今回の大戦果は兄妹たちの、神聖母ヤムリルの子たちの尊い犠牲の上に成り立っている。


「今回の遠征にて、二十五名の戦士が戦死いたしました。全員、誇り高き羽人の戦士として恥ずかしくない死を迎えました。彼らの死が、帝国の未来をつなげたのです」


うんうんと、神聖母ヤムリルが頷く。


「あなたには辛い役割をさせましたね」


神聖母ヤムリルがテトの心中を慮る言葉を発した。


瞬間、気が緩み、むせび泣きそうになるのをテトは必死で堪えた。


そんなテトの頭を、寝台から腕を伸ばし神聖母はなでた。堪え切れず、右目から涙がこぼれ落ちる。


「子どもたちの死は、どんな形であれ身が切り裂かれるように悲しい。しかし、それ以上に誇らしいのです。帝国のため、その命を燃やし尽くす。なんと高尚な魂でしょう」


「……はい、神聖母……」


「私も、子どもたちに恥ずかしくないよう、命をまっとうしなければなりません。この命が尽きるべき時まで、必ずや命をつなぎ留めねばなりません。あなたには話したのでわかってもらえると思いますが、どこにあるかも定かではない他国の神聖母も死の際に立っているでしょう。私は彼女らと時を同じくして死なねばなりません。私には感じとることができます。おそらくは、後一年といったところでしょう」


「……いっ、一年後ですか……」


神聖母ヤムリルの言葉は、帝国の終わりの時を知らせるものだった。


テトはその言葉を何とか受け止めた。一年後、帝国が滅びる。なんて近い。神聖母の言葉は、鉛のように腹にずしりと重く圧し掛かった。


「テト、今帝国には翔べる者が何人いるでしょうか?」


「……狩りに出られるのは、百余名です……。もし、ただ飛翔するだけでよいのであれば、百四十名といったところです」


「あなたは賢いですね、テト」


神聖母ヤムリルは、テトの言葉に頷いた。


テトが狩りができる戦士に加え、狩りができなくても飛翔ができる者を入れた人数を答えたのは、帝国から巣立つことのできる人数を神聖母が求めていると察したからだ。


「戦士長テト、どうか私の望みを聞いてください。最後の子たちが羽化する時期、それが私が死すべき時でしょう。あと一年、なるべく羽人の数を減らさないように努力をしてください。来る巣立ちの時のために」


「……承知しました。神聖母」


「あなたにばかり辛い思いをさせて、本当にごめんなさい」


「そのお言葉だけで十分に報われます……。この命の限り、神聖ヤムリル帝国を守ってみせます」


テトは涙を流しながら、母である神聖母ヤムリルに誓いを立てた。








第四階層にある大食堂には、神聖母ヤムリルを除くほとんどの羽人たちが集まった。


遠征の祝勝会だ。


常に忙しなく働く羽人たちが、一堂に会することはほとんどない。帝国入口を警備する数人以外はすべて集まった。


食卓には、テトたちが獲得した小鬼族の肉がふんだんに振る舞われている。


テトは、世界樹の葉の朝露が注がれたグラスを片手に、みんなの前に立った。


二百人を切った羽人たち。今回の遠征で二十五名もの戦士を失った。もう、今回のような遠征はできないだろう。


つまり、このような祝勝会は最初で最後だ。


「愛する兄妹たちっ! 食事を始める前に、一言だけ話をさせてくれっ!」


テトは居並ぶ兄妹たち全員を見回しながら言った。


「今回の遠征の成功は、遠征に出た戦士たち、帝国に残り支えてくれた兄妹たち、なにより今回の遠征で命を落とした誇り高い兄妹たちのおかげだ。今日、肉が食えること、今日、命があること、これは当然のことじゃない。多くの兄妹たちが、命をつないでくれたからこそ、今日、この日を祝える。僕は、すべての兄妹たちに感謝する。きっと、みんなも同じ気持ちだろうと思う。僕らは、明日からも過酷な世界樹の森で生きていかなければならない。つないでもらった命を、最後の一瞬まで燃やし尽くして生きていかなければいけない。だからこそ、今日、この日を死んでいった兄妹たちと一緒に、祝いたいと思う」


テトの言葉に、みんなが耳を傾けていた。命を散らした兄妹たちを思い、鼻をすすり始める兄妹もいた。


兄妹たちの姿を眺めるながら、テトは決意を新たにする。


後、一年。


――何がなんでも、帝国を守り抜く。


「今日は、大いに食ってくれっ! 我らが神聖ヤムリル帝国に、献杯っ!」


「「「献杯っ!」」」


久方ぶりに食す新鮮な肉の味に、羽人たちは感嘆した。


テトの言葉を受け、羽人たちは散っていた命に感謝しながら、食事をほおばった。


その日、テトたちは大いに食べ、大いに飲んだ。


今日の宴を心から楽しむ。


はしゃぎならがも、多くの羽人が涙を流していた。


遠征で散った命だけにではない。帝国は多くの兄弟たちの尊い命のすえに成り立っている。


――キア、テア、必ず帝国を守り抜いてみせるから。


テトは、涙を堪えながら肉を噛み千切った。

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