帝国城への帰還
道中、外敵に襲われることなく帝国城までたどり着けたことは幸運だった。
群を為した羽人の戦士に襲い掛かるほど、天敵である飛竜も人面鳥も馬鹿ではないということだろうか。
実際は、すべての戦士は疲弊し、闘う力など残っていなかった。もし襲われたら、なすすべなく狩られていただろう。
疲弊した体での行軍は、往路に比べて遅れた。羽に力が入らず、ゆっくりとした行軍だった。
テトは胸に抱えた小鬼族の肉を、しっかりと抱き直した。
両手を空けるために、槍は口に咥えている。ほかの戦士たちも同様だ。
帝国城に近づくと哨戒中の羽人たちが、テトたちの姿を見つけ、翔け寄ってくる。
テトたちは、哨戒中の羽人たちに支えながら、倒れ込むように発着場に次々と着陸した。緊張の糸が切れ、そのまま気を失うように眠りにつく兄妹もいた。あのテロまでも、その巨躯を地面に投げ出して、荒く呼吸をしている。
このまま何も考えず眠りたい。そんな欲求を振り払い、テトは自身の身体に鞭打って立ち上がった。
肉を置き、口に咥えた槍を右手で高く掲げる。
「テトっ!」
不意に、疲労からふらついた。その体を、文字通り飛んできたミアが支える。
テトはミアに身体を支えながら、再び槍を高く掲げた。
「帝国に残った兄妹たちよっ! 喜んでくれっ! 僕たちの勝利だっ! 大量の肉を手に入れたっ! もう、飢えることはないっ!」
遠征の責任者として、勝ち名乗りを上げる。
戦士たちは、最後の力を振り絞り、倒れ込みながらも鬨の声を上げた。その姿に、帝国に残った兄妹たちが歓声を上げる。涙を流す者も少なくない。
テトの横ではミアが顔をくしゃくしゃにしていた。ミアは涙をぬぐうと、帝国に残った兄妹たちに向かって声をかける。
「さあ、みんな! 英雄たちを休ませてあげましょう! 戦士たちの世話と、狩ってきてくれた獲物の調理は私たちの仕事よっ!」
ミアの言葉に、兄妹たちが頼もしく声を上げる。
我先にと、英雄たちを抱え、城の中に運んでいく。
テトはミアに肩を抱かれながら、城の中に入った。
第二階層の居室に入ると、そのまま泥のように眠った。
その身は、泥や血でとても汚れていた。
眠るテトを起こさないように気をつけながら、ミアがテトの身体を丁寧に拭いていった。
テトは自室のベッドの上で目を覚ます。
すると、ちょうどミアが部屋に入ってきた。
「あ、テト、起きたのね。おはよう」
「――おはよう、ミア。僕はどれくらい寝てたんだろう?」
「ほぼ丸一日かな。もう、お日様は結構高くまで昇ってる。みんな似たようなものよ。少しずつ起き始めてる」
日が昇る時間を越えて眠ったのは、初めてだ。生まれて初めての寝坊。テトはベッドから身を起こした。
「ずいぶん寝ちゃったね。ちょっと遅いけど、狩りに出なくちゃ」
「今日は身体を休めて、テト。まだ疲れが取れていないでしょう。勝手に判断して悪いけど、他の戦士たちにも身体を休めるように言ってあるわ」
ミアの言う通り、どっぷりとした疲労感が身体に纏わりついていた。
――本当に頼もしく育ったものだ。
テトはミアに笑顔を向けた。
「ありがとう、ミア。助かるよ。お言葉に甘えて、今日は休ませてもらう」
そう言って、テトは自室を出ようと立ち上がった。
「休むんじゃないの?」
と、ミアが非難がましい目を向けてくる。
「神聖母へ報告に行かないと。心配されているだろうしね」
休むにしても、こればかりは後回しにはできない。
「せめてご飯を食べてからにしたら? 丸二日くらい何も食べてないんじゃない?」
言われて、自分が空腹であることに気付いた。
しかし、あまり食欲はない。
「いや、今からすぐに行くよ。本来なら帰還してすぐに伺うべきだった」
「そう。戦士長って大変ね。ご飯を食べる暇もないんだから」
ミアが呆れるように言う。
「報告が終わったらいただくよ。久しぶりの新鮮な肉だからね。なるべくみんなと一緒に食べたいんだけど、頼めるかな?」
「うん、任せておいて。すでに戦士たちの分の食事は整えているの。せっかくだから生産部門の子たちも含めて、大勢で食べましょう」




