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ツナガル羽  作者: はれのひ
第二章 少年期
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失ったものと守れたもの

テアに支給された高回復薬。その半分をテトの左目の傷にかけたおかげで、傷はふさがった。残り半分はテトに飲ませ、体力の回復に使った。


傷はふさがったが、テトの左目は光を取り戻すことはなかった。


半分になった視界は、窮屈だが慣れれば問題ないとテトは思った。


泣きじゃくるテアの頭を撫でる。テアの命を救えたのだ。左目を失ったくらい安いものだ。


「テア、大丈夫だから、もう泣かないで。さあ、剣牙猪を解体しよう。二人で獲ったごちそうだ」


少しでもテアを安心させようと、テトは率先して剣牙猪の解体作業を始めた。


腰刀を抜き、剣牙猪の首筋に切り込みを入れて血抜きをする。血抜きが終わると、丁寧に胴回りの皮をはいでいく。


しばらくすると、鼻をすすりながらテアが横に降りてきた。


「……テト、ごめんなさい……」


「もう、しつこいな。僕は大丈夫だから、謝らないで。さあ、はやく手伝ってよ。僕一人に解体させる気?」


テアは、もう一度「ごめんなさい」と謝ると、解体作業を手伝った。


通常の狩りであれば、血抜きをした後、頭部と脚を切り落とし、胴体だけを食料として帝国城に運ぶ。工房で武具として活かせるため、牙も切り落として搬送する。本格的な解体、加工作業は帝国城内に残る生産部門の兄妹の役目だ。


しかし、今回はサバイバル遠征だ。一夜野営を行う。


そのため、二人は今夜と明朝の食事分だけ肉を切り出し、獲物を狩った証拠に牙を一本切り落とした。


最後に、尊い命をもらう剣牙猪に黙祷を捧げる。


二人は野営地である洞穴に向けて飛んだ。


野営地に戻る最中、テトは自分の飛行に違和感を持った。いつも以上に、不安定な飛行になってしまう。ぐらぐらと身体が揺れ、うまく飛べない。


すぐに左目の喪失から来るものだと気付いた。遠近の距離感が掴めなくなっている。


その事実を悟られないように、テトはテアに助力を頼んだ。


「テア、悪いけど、手を引いてくれないかな。どうも、疲れちゃってるみたいだ。もともと飛ぶのが苦手だし」


「うん、任せて。テトはゆっくり休んでくれていいわよ」


テアはテトの手を取り飛翔する。


テトは自分の体を浮かせるぐらいの小さな力で羽ばたき、テアの飛翔に身をゆだねる。


自らの飛翔では感じたことのない滑らかな飛翔。


風を見る。風に乗る。風の上を滑る。


テアの言う、テトには見当もつかない感覚が、少しだけ分かったような気がした。








野営地に戻ると、大事をとって安静にしておくことにした。


野営に必要な水は、小川と洞穴を往復してテアが準備してくれた。


「嫌な空気ね。雨が降るかもしれない。早めにご飯作ってくるわ」


湿り気の増した空気を察知し、テアが調理に向かおうとした。


テトも腰を上げ、手伝おうとするが、テアに止められた。


「テトは休んでいて。傷はふさがったといっても、大けがをしたのだから」


「それは、テアも同じだろう?」


「私に外傷はないわ。ちょっと強く体を打っただけ。高回復薬でばっちりよ。でも、テトは多くの血を失ってる。顔が真っ白よ」


「でも、ひとりじゃ危ないよ」


テアは神妙に首を横に振った。


「軽率な行動は取らないわ。安心して。これでもすごく反省しているのよ。すぐに美味しい料理を作ってくるから」


そう言い残し、テアは洞穴を出て行った。


一人洞穴に残ると、テトは言い知れぬ不安感に襲われた。


最期の命を燃やして眼前に迫る剣牙猪の姿が、見えぬ左目の奥に浮かぶ。テトはぶるっと身を震わせた。


世界樹の森は危険で溢れかえっている。少しの油断で簡単に命を落としかねない。


森の恐ろしさを身をもって知ったテトは、祈るような気持ちでテアの戻りを待った。


しばらくして、焼けた肉の臭いが鼻孔に届いた。


「できたわよ。とっても、いい感じに焼けたわ。新鮮だから、きっと美味しいわよ」


続いて、洞穴の入口からテアの顔が覗く。


テアは両手に木の棒に差した剣牙猪の肉を五つ持っている。


「いっぱい食べて、血を作り直さないと」


テアは多めにテトに肉を分け与えてくれた。


強靭な肉切歯を、剣牙猪の肉に食い込ませて、肉をほおばる。


こんがりと焼けた肉のうまみが口内を満たす。自分たちが命を懸けて狩った獲物の味は格別だった。


生きているという実感。


不意に心の緊張が解けて、テトは思わず残った右目から涙を流した。


向かいではテアも肉をほおばりながら、泣いていた。


「テア、美味しい。美味しいよっ」


「うん、美味しいね。テト、美味しいね」


泣きながら、すべての肉を、二人は平らげた。


腹が満たされると、眠気に襲われた。


うとうととするテトに、テアが言う。


「寝ていいよ。私が見張っておくから」


「ごめん。ちょっとだけ。すぐに起きるから……」


テトは眠りについた。


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