送られた世界
その世界に送られた俺の生活は最悪だった。
どこかも分からない山の中で目を覚ましたかと思えば、すぐさま魔物とエンカウント。
もし、目覚めるのが遅かったらと思うと今でも恐怖する。
必死にその場から離れ、泣きそうになりながらも山の中を歩いて、これ遭難してるんじゃと思いが頭に巡った頃にようやく人に会えた。
そこから、土下座をかましつつ住み込みでお手伝いを願い出たのを了承して貰わなければどうなっていたかさっぱり分からん。
「おーい、ソウタよ。こっちにこい」
「今、行きますわ」
ジャガイモの籠を下ろして、声の元に向かう。
二年間も畑仕事をしつづけたせいか体もこの世界に送られる前と比べて大分腕も太くなった気がする。
「お前もここにきて二年も立つな」
「そうですね」
「儂の代わりに魔物退治を頼みたい」
「嫌です」
即答する、当たり前だ。何が良くてあんな化け物を退治しなければいけないんだ。
「いや、待て待て」
「待ちませんよ!絶対嫌っすよ!てか、知ってるでしょ、俺に魔術の才能がなかったの」
そう、俺には魔術の才能が一切と言っていいほどなかったのだ。
この世界の住人なら多かれ少なかれ魔力を宿しているのだ俺には魔力というもの自体がないらしく、如何あっても魔術を使うことは不可能らしい。
皮肉にもこれが、別世界から俺が来たという証明にもなったのだが。
「分かっている、だからなこれをやろう」
「何です?これ」
七つの宝石らしきものがついた杖を手渡される、見た目ほどの重さは感じず、手に馴染む。
「これはな儂の作った魔術器のなかでも最高中の最高傑作、七光の杖だ」
この爺さんは今はこんな所で自分の実験に明け暮れているが元は結構有名な魔術師だったらしい、あくまでも本人の話だから本当かは分からないが、色々と作っているところを見るとあながち嘘でもないのかもしれない。
まぁ、その過程で何回か俺も被害を受けているんだが……
「これはな魔力が少ない者もお主の様に完全にない者も使える夢の様な杖だ」
「はぁ……」
「いや、もっと驚いて欲しいんだが……ほれ、試しに杖を向こうに向けて儂の言ったことを唱えてみろ」
咳払いを一つして大仰に言う。
「火焔魔法アチルアと」
「はぁ。火焔魔法アチルア……これでいいっすか?」
そう尋ねた瞬間に杖の先から赤色の光弾が飛んだかと思うと木にぶつかり火柱となる。
「うおおお!」
「どうだ?驚いただろう?」
「ば、馬鹿!山火事になるぞ!早く消さないと」
「あ、やべ」
慌てて、水魔法で消火にあたる爺さんの横でバケツに水を汲んで火に吹っかける。
そこから20分も費やしてようやく火を消すことに成功した。