目的
「説明してくれるよね?」
ルミナはアルの“凶悪犯罪者”しか載ってないリストを持って、笑顔で迫ってくる。
「俺のこと信頼できるとか言ってなかったか?」
「それとこれとは話が別だよ~?」
ルミナの顔に怒りマークが浮かんでいる。これは、言わないと殺されそうだ。
「……元々俺は殺し屋なんだよ。そのリストに載ってるのはそのせいだ」
「殺し屋……!?」
ルミナの婚約者――月夜は驚きを隠せないようだ。だが、アルとルミナは平然としていて、逆にこっちが驚いてしまった。
「あー。その戦闘スキルはそういう理由ね~。なんか納得した~」
「何を驚いてんだお前は?そんなもんだろうと思ってたよ、どうせ」
「どうせってなんだよ!?」
「まぁまぁ。罪兎さんはリストに載ってる他の犯罪者とは違って、仲間思いで優しくてイケメンで……」
そこでルミナの言葉が途切れた。俯いているので顔を覗きこもうとしたところで――――
「――――イケメンすぎてムカつくんだよ!コノヤロー!!!」
いきなり怒られた。というか、イケメンすぎてってなんだ。そこ、重要なのか?
「重要に決まってんだろ!もし月夜ちゃんが罪兎さんに惚れたら、僕に勝ち目ないじゃんかー!!」
あ、ダメだ。完全に怒りでわれを忘れている。どうにかわれに返せないだろうか。
「聞いてんのか、コラヽ(`Д´#)ノ 」
「落ち着けよ。ルミナ、お前可愛い顔してんだからそんな怒った顔したら勿体無いだろ。笑顔が1番だろ」
「……っえ」
何故かわからないが、固まってしまった。いや、俺の言葉を聞いて固まったのだから、俺の言葉のどれかが効いたのだろう。……どの言葉が、ルミナを赤面させているのか、検討がつかない。
「あー、ルミナ、外の風にあたってこようぜ」
そう言ってアルはルミナを連れて外へ出ていった。
「……俺、なんか悪いこと言ったかな?」
「いいえ、言ってませんよ」
月夜が即答する。
「じゃあ何であんなに顔真っ赤にしてたんだ?」
「思いがけない言葉だったからですよ」
そう言いながら、月夜は部屋のドアの鍵を閉めた。
「……何で鍵なんか―――!」
問いかけた瞬間、身体が動かない事に気がついた。唯一動かせる目を下に向けると、魔法陣のような紋様が浮かび上がっていた。どうやらこれが、身体が自由に動かせない原因らしい。
「何を、するつもりだ」
「そのよく喋る口は要りませんね」
月夜が俺の口を端から端まで撫であげる。それだけで口は自分の意思では開かなくなった。
「これで、誰にも邪魔されない」
そう言って月夜は俺の唇に彼女の唇を重ねてきた。
「!!」
驚きを隠せないでいると、急に目眩がして月夜に押し倒される形になった。そこで気づいた。身体に全く力が入らなくなっていた。それだけに留まらず、意識までもが微睡んできた。そんな状態になった頃、月夜は重ねていた唇を離した。
「堕ちろ」
その一言で俺の意識は途絶えた。身体が何かに呑み込まれる感覚とともに。
「……これで、もうルミナには手を出さないのね?」
「約束は守ろう。君がこれからも私に尽力してくれるのならね」
「……分かっています」
「宜しい。では、また頼みますよ」
「ごめんなさい、天音さん……」
「……ん」
身体に異様な重さを感じ、目が覚める。ここはどうやら、檻の中らしい。目の前に鉄格子が見える。
「ここは……」
状況を確かめようと身体を動かそうとするも、かなわない。両腕は天井から吊るされている無数の鎖が絡まって、身動きが取れない状態だった。また、首と右足首には枷が取り付けてあり、足はギリギリ床に届かない様に吊るされている。
「…………身体の重みはこれが原因か」
「おや、お目覚めかな。天音罪兎くん」
辺りに人の影は見えない。だが、声だけは鮮明に耳に届いた。
「アンタは、誰だ……」
「おや、彼女の口封じを受けておきながらもうそんなに話せるとは。驚きだよ」
声の主は高らかに笑う。
「質問に応えろ」
「そんな事はどうでもいいだろう?」
いきなり目の前に仮面を被った男が現れた。
「お前、何処から――んむっ!!!」
「ご自分の立場を考えた方がいい」
口にサンドイッチっぽいモノが押しつけられて、そんなシリアスなことを言われても全然緊張感がわかない。というかこんなシュールな状態に頭がついていかなくて、困惑する。
「何をしているんです、さっさとそのサンドイッチを食しなさい」
「‥‥」
(やっぱこれサンドイッチだったのかよ)
食せ、なんて言われても両手ふさがっている状態でどうしろというのだろう。何も出来ずに呆然としていると、仮面の男はいきなり笑い出した。
「そうかそうか、そんな状態では食せないか!いや、悪かった。そもそも檻の中なんだから拘束している意味ないではないか!」
爆笑している男にイラッとする。とはいえ、身動きはとれないままなのでどうしようもないのだが。
「まあ、いい。こんなことで遊んでいる暇などないのだからな」
そう言って、俺の口に押し込んだサンドイッチをさらに無理矢理押し込む。
「!!!!」
「さあ、応えてもらおうか。君は、罪斬りに会って、話したかね?」
サンドイッチで息が出来ない。無理矢理押し込んでおきながら、どう応えろというのか。こいつは何がしたいのだろう。
「yesなら1回、noなら2回頷け」
男の言うとおりに、俺は1回頷いた。すると男は俺の口に突っ込んでいたサンドイッチをいきおいよく引きちぎって、自分の口に運んだ。
「これで君もやっと食事にありつけたな」
のどに詰まったパンで咳き込んでいる俺に、男はそう声をかける。
「ああ、そうだ。そのまとわりつく鎖もいらないんだっけ」
そんな緩い声が聞こえたかと思ったら、俺を拘束していた鎖が一瞬にして消える。そのおかげで全身を床に打ちつけてしまった。
「―――っつ!!」
「おやおや、大丈夫かい?」
「誰のせいだと―――!!」
「動くな」
「!?」
男の声を聞いた瞬間に、体が動かなくなる。
「さあ、今のうちだ」
「何をして――」
「君は必要なこと以外口を閉じろ」
「―――――っ!!!!」
――声が、出ない―――
体と発言の自由を奪われている間に、後ろ手に手錠で拘束、両足は床に鎖でつながれる。
「これで、君は逃げられません」
男はにっこりと笑って、俺の顔をのぞき込む。
「さあ、応えてもらおう」
「君が話した〝罪斬り〟について」