罰
――ねえ、この花知ってる?――
白いワンピースを着た彼女は、幸せそうに笑いながら真っ白なユリの花畑に佇んでいる。
――白百合。貴方にぴったりだと思わない?――
白百合を抱えた彼女は、「威厳」という花言葉が俺にぴったりだと思っているらしい。
―○○の方が合ってるよ。「純粋・無垢」なんて、まさに○○を映す鏡じゃないか――
俺の言葉に一瞬キョトンとしながらも、照れくさそうに頬を赤らめて儚げにまた彼女は笑った。そんな彼女の笑顔が眩しくて、愛しくて…。
――なあ、○○。ずっと俺の傍に居てくれないか――
――…、…ごめんっ、ね…――
彼女の返答はもう二度と聞けなかった――。
「うっ…!!」
上半身がズキリと傷み、俺は目をさました。
「っ……。夢か…」
うつ伏せになっている体をおこし、周囲を見回す。
「罪斬りは………、いないか。まあ、当然だな…」
体を動かすと、また上半身が痛んだ。罪斬りに斬られた(実際には手で勢いよく撫でられただけだったが)箇所が体を動かす度、鈍痛がはしる。
「なんだってんだ…。罪を犯した罰だとか言ってたが………」
着ていたベストとポロシャツを脱ぎ、鏡の中の自分を見てみる。するとそこには、円形の模様がいくつも浮かび上がっていた。
「!?何だよ、これ……」
罪斬りに斬られた時には、激痛で気づかなかったが、円形の模様は刺青のように俺の体に帰着していた。その事に驚愕していたその時――――。
「あ~あ。やっと人を見つけたと思ったら、露出狂の変態じゃないですか~。自分の事マジマジ見て、ナルシストですよ~、きも~い」
勝手に人の部屋にあがっている不審者に罵倒されまくった。しかし、その罵倒はまだまだ終わりではなかった。
「しかも男の癖にロン毛とか~。笑えます~(°▽°)うわ、何睨んでるんですか~。そんなに眼とばしても全然怖くないですよ~?ほんと、ナルシの人って自分の事何してもかっこいい♡とか思っちゃってて正直きも…」
「死にたいか、この雑魚!?」
ありったけの殺意を放つと、相手は怯んでワナワナとしながら言い訳のことばを探している。
「あー、えっと………。その、申し訳ありません。貴方パッと見、全然強く無さそうだったのと、自分より何倍もイケメン&イケボだったのでつい意地悪を………。って、ごめんなさいごめんない!!!!!殴らないでください!!僕殴られたら一瞬であの世行きですからああああ!!貴方の言う通り雑魚ですからああああ!!許してください~!!」
じたばたと暴れまくってイラッと したので、ひとまず頭突きを喰らわせた。それで軽い脳震盪を起こしたようで、頭上に星が回っている。そんな相手の胸ぐらをつかむ。
「お前、俺を誰だか知らねぇのか?罪斬りに嫌われた犯罪者と言われた天音罪兎だ。覚えとけ、雑魚!」
つかんでいた手を離すと、相手はキョトンと目を見開いてそのまま動かなかった。普通なら、俺の名を聞けば一目散に逃げるはずなのに、目の前の男は全く動かなかった。そして、男が発した言葉は――
「――誰ですか、天音罪兎って?」
「―――は?」
「僕、結構名の知れた情報屋ですけど、天音罪兎なんて生まれてこの方聞いたこともありませんよ?」
―俺の存在が、消えてる―
罪斬りに与えられた罰とは、肉体を消すことじゃなく、“天音罪兎”そのものの存在を消すこと――。
つまり、いまや俺は、天音罪兎は存在してない。ただの人間としてしか認識されないということ。
「この刺青みたいなのは……、天音罪兎を斬った証ってことかよ」
「刺青?何いってるんですか~。そんなもの何処にも見当たらないじゃないですか~」
「!!!!!」
――これはこいつに見えてないのか…?
「なんかさっきから、色々考え込んでるみたいですけど~。面白いんで貴方についていってもいいですか~?てか、いいですよね~!貴方強いですし~、無償で情報だだ流ししますから~、僕の護衛してくださいよ~」
急に何を言い出すんだこいつは…。
頭を抱えながら、ため息をつく。だが、他に誰か頼れるわけでもないのだから、だだ流しされる情報を聞くのも悪くないと思い直し、相手に向き直る。
「ああ、わかった。護衛してやるよ。ちょっとばかし強い天音罪兎が力になってやろう」
手をさしのべると、相手は嫌そうにながら、俺の手をとり名を名乗った。
「やっぱイケメンなのにナルシっぽいなあ~……いえ、ごめんなさあい!!僕、ルミナ・カーダですぅ~、宜しくお願いします~」
こうして、ルミナとの新しい生活が始まった。