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11章③

 正月というのは年神としがみという農耕の神様をお迎えする神事だ。そのため年末には大そうじをしてまわりを清め、門松やしめ縄、鏡餅など年神様を迎えるために必要なものを用意する。

 信明は正月の雰囲気がむかしから好きだった。しんとした空気、出店も出てにぎやかな境内、新年への期待に胸ふくらませる参拝客、木に結ばれる数多くのおみくじ。

 だが宮司になってからはそんな悠長に風情を感じる暇がなくなった。新年の祭祀を終えると、あとはひたすら祈祷祈祷祈祷、その合間に氏子と挨拶し、つつがなく事は進んだものの、三が日が過ぎるころには信明はもうへろへろになっていた。

 一月四日の昼、次の祈祷まで少し時間が空いたので自宅の居間に戻ると、巫女姿のうたがいた。

「おつかれさまです」

「うたちゃんも休憩?」

「はい。いまほうじ茶入れますね」

「うん、ありがとう。もう死にそうだよ」

 信明はうたの入れたほうじ茶を受け取った。

「うたちゃんたちも今日で巫女終わりかあ。どうだった?」

「大変だったけど、すごく新鮮でした。稲苗神社って人気あるんですね」

「まあこの辺じゃいちばん大きな神社だしね。あとはあれ、宮司の人徳ってやつだよ」

「そうですね」といってうたが笑う。

「そうだ。亮太くんと千香ちゃんに夕方仕事終わったら残るようにいっておいて。君たちみんな祈祷してあげるよ。中村くんも来られそうなら呼ぶようにいっておいて」

「わかりました。ご祈祷なんてはじめてです」

「そっかあ。祈祷はね、受けると今年一年きっとう(祈祷)まくいくよ」

「それ……ダジャレですか?」

「そう」

「……つまらないです」

「まあなんというか、願いことと一緒でダジャレも失敗することはあるよ」

「成功することもあるんですか?」

「いうようになったなあ」

 信明はうたを見て笑った。

「えへっ」

 うたも信明を見て笑った。

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