11章①
信明の母は本当にうたが一緒に住むことになってはじめは戸惑ったようだった。
とはいえ、礼儀正しく気も利くうたを母はすぐに気に入ったらしく、しだいに孫ができたと近所の人に楽しく話すようになり、それからは服やら本やらお菓子やらどれだけ買うんだ? というくらい買ってくるような溺愛ぶりとなった。
信明はうたを養子縁組によって戸籍上も家族にしたいと考えた。信明の母は賛成してくれたが、そうなるとうたは樫木姓を名乗らなくてはならなくなる。
「短期間に二度も名字変わっちゃうけどいい?」
信明は聞いた。
「はい、大丈夫です。棚橋という名前に愛着はないですし、樫木のほうがいいです」
裕哉も厄介払いできると思ったのか賛成してくれたが、信明のような独身男性が養子をもらう場合、家庭裁判所からの許可が必要で、審査に時間がかかるとのことだった。
うたが樫木家きてから二週間後の日曜日、千香と亮太を呼んで、買ってきた寿司と、信明の母とうたがつくった惣菜で食事会を開いた。
「のぶさんとおばさんのご厚意で、稲苗神社にお世話になることになりました。不束者ですが、あらためてよろしくお願いします」
うたがそう挨拶し、会は和やかに進んだ。
「そういえば千香ちゃん、今年も巫女やってくれる?」
会の中盤で信明は千香に聞いた。
正月には人手がいるので、毎年高校生や大学生に巫女のアルバイトを数名頼んでいるが、ここ数年は千香にも手伝ってもらっていた。
「うん、いいよ」
「うたちゃんにもやってもらおうかな」
「巫女さんってあの、赤と白の着物着るんですか?」
「そうだよ。みっこみっこにしてやんよ」
「のぶさん古っ」と亮太がつっこむ。
「そっかあ。じゃあこれは?」
信明がアイドルもどきのポーズを取った。
「みっこみっこみー」
「なにそれ? でも、うたちゃん巫女さん似合いそうだよね」
先ほど亮太と千香、うたはおたがいを名前で呼ぶことに決めた。
「なんか恥ずかしいです」
「いまだに着慣れないけど、わたしあれ結構好き」
「何するんですか?」
「お守りとか破魔矢とかを売るの」
「こらこら、売るじゃなくてお守りとかの授与品を授けるね。大事なことだから」
「あ、そうだった」
千香も恋敵が近くに引っ越してきて、はじめは戸惑っていたが、話す機会が多くなったことで打ち解けてきたようだ。いまでは毎朝迎えにきて一緒に学校へ行っている。
「亮太くんは今年も雑用係ね」
「了解」
「今年はいつも以上にコキ使うよ。僕は野球部の後輩には厳しいんだ」
「ほどほどでお願いします」
亮太はうたが稲苗神社に住むことになって一目でわかるほど喜んだ。神社にくれば、好きな子にいつでも会えるのだから当然といえば当然だ。だが、野球部に入ったことで急激に忙しくなり、うたや千香と登下校することはできなかった。
そのかわり土日の夜や野球部の練習が休みの日には境内にきて、これみよがしにトレーニングをしていた。その姿が信明には微笑ましかった。




