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10章④

 高速を降りて、信明はまず亮太を家の前で下ろした。

 そのあとうたをつれて、稲苗神社で信明の母を交え、三人で話をした。

 そして再度うたを乗せ、裕哉の住むマンションへ向かった。

 インターホンを押すと裕哉の妻が出た。

「樫木です」

 エントランスで郵便受けを見ると、『棚橋裕哉・美和・翔吾』と書かれていた。

 エレベーターで12階に上がり、裕哉の妻に促され部屋に入った。

 広いリビングに入ると、裕哉がソファーに座っていた。

「うた、おまえ、何勝手なことしてるんだ」

 低い声が響く。裕哉が鋭い視線でうたをにらむ。

「……ごめんなさい」

「この方はどちらさま?」

 裕哉の妻が信明のことを聞く。目つきのきつい女性だった。

「うたの母親の知り合いだったやつだ。樫木おまえも余計なことはするな」

「なあ裕哉、話があるんだ」

 信明が裕哉を見る。

 裕哉は無言でなんだ? 続けろと促す。

「うたちゃんをうちで引き取らせてくれないか」

「はあ、何いってるの? おまえ」

「僕は早苗に何一つしてやれなかった。ずっとそのことを悔いていたんだ。せめて彼女の娘のうたちゃんのために何かしてあげられるのなら、そうしたいんだ」

 そういって信明は深い礼をした。

 現状をかんがみて、裕哉のところより、自分のもとでうたを育てたほうがいいと説得する方法もあったが、信明はただただ懇願こんがんする道を選んだ。

「頼む。お願いだ」

 場の空気が静まり返る。

「……うたは、それでいいのか」

「はい」

「……」

 裕哉は黙った。

「うたちゃんがそれでいいのなら、私はそっちのほうがいいと思うわ」

 そっちのほうが私も助かるし、といったニュアンスをこめて裕哉の妻がいった。

「わかった。勝手にしろ」

「ありがとう」

 信明は再度礼をした。ホントはガッツポーズでもしたいくらいだった。

 車に戻ると、信明はうたに聞いた。

「本当にいいのかい? 今日会ったばかりの僕ではなく、加藤さんのところに厄介になってもいいんだよ」

「はい、いいんです。のぶさんにうちにおいでっていわれて、すっごくうれしかったんです。でも、それを顔に出しちゃうと、あの二人がいいっていってくれないような気がしたんで、我慢してました」

「そっか。でも僕なんかただのいかがわしいおっさんだよ。そんなに信用しちゃあ……」

「私、のぶさんのことずっと前から知ってますから。おばあちゃんにも聞いてましたし、おかあさんの日記も全部読みました。中学以降のものにはどれものぶさんのことばかり書いてあったんですよ。のぶくん今日はこんなことをいってた。ホント何いってるんだろう? あの人、みたく書いてあるんですけど、すっごく楽しそうなんです。のぶくんが好きなんだなって伝わってくるんです。そんな人が悪いわけないじゃないですか。私はのぶくんのことが大好きだったおかあさんの娘なんですよ」

「……そっか、ありがとう。じゃあ帰ろうか、我が家に」

「はい」

 うたが微笑んだ。

 信明はうたのその横顔に、はじめて早苗の面影を見た気がした。

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