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10章③

 信明は泣いていた。

 物心ついてから泣くのはこれが三度目だった。

 どれも早苗が原因だ。

 まったく早苗はいじめっこだな。僕はいつも泣かされてばかりだよ。

 だが、しばらくして我に返った。

 いや、泣かせてたのは自分だな。

 これまで幾度となく頭の中で繰り返してきたことをまた思い出した。

 一度くらい早苗によろこびの涙を流させてやりたかったな。

 そう思ったとき、ある考えが浮び、やがて信明は決心した。


 信明は水飲み場で顔を洗ってから加藤家に戻り、亮太とうたに車の後部座席に乗るよういってから、加藤さんと少し話をした。

「うたちゃん、うちで世話するって彼にいってもらえないかしら」

「わかりました。その可能性も含めて帰ってから裕哉と話してみます」

「頼んだわよ、のぶくん」

「その呼び方ひさしぶりに聞きましたよ。では、お世話になりました」

 車に乗り込み、走り出してから助手席のうしろに座るうたに聞いた。

「裕哉と話した?」

「……はい」

「なんていってた?」

「……怒ってました」

「そっか。まあ裕哉も彼なりに心配してたんだから察してあげなよ」

「はい」

 途中高速道路でサービスエリアに寄り、信明は亮太と並んでトイレに向かった。

「僕が手紙読みに行ってるあいだ、加藤さんの家で何やってたんだい?」

「うんと、加藤さんがまず棚橋さんの子どものときの話をしてくれて、そのあとおれのことを聞いてきたんで、野球やってたことを話した。野球の話、棚橋さんにもはじめて話したんだけど、やっぱり野球の話すると、なんていうか自分が誇らしいんだ。それでいい機会だと思って、最近考えてたことを話した」

「へえ、何?」

「おれ、野球部に入る。野球やることにしたよ。いまさらかもしれないけど」

「おおっ」

「で、夏の甲子園予選には棚橋さんにも観に来てほしいっていった」

「思い切ったねえ。それはカッコいいところ見せないと。まずは先発を勝ち取るところからかな」

「うん、もちろん」

「でも、亮太くんならできるはずだよ。じゃあごほうびに何か食べるかい?」

「んじゃカツカレー」

「うたちゃんも呼んできて」

「わかった」

 うたと合流してサービスエリアの食堂に入った。

 うたは野球について詳しくは知らなかったが、信明と早苗が高校時代、野球部だったことは知っていた。

「おかあさん日記をつけていたので、それで知りました。じゃあ高木さんはおかあさんやのぶさんの野球部の後輩になるってことですね」

「うん、そう」

「ビシビシ鍛えてあげるよ」

「えっ」

「もう半年しかないんだから当然だよ」

「ま、そっか」

「がんばってくださいね」

 食事のあとで信明は裕哉に電話をかけた。なんでおまえがうたを見つけ、迎えに行っているんだ? などと、機嫌の悪い声でいわれたので適当な説明をして最後にこういった。

「話があるんだ」

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