10章②
のぶくんへ
さっきまでのぶくんが座っていた病室のイスを横目にこの手紙を書いています。
もしのぶくんがこの手紙を読んでいるのなら、私はもうこの世にはいないということになるのかな?
そうだとしたら、もうのぶくんと会うのは今日が最後になってしまうし、あんなあっさりした感じで今生のお別れというのもなんだかさみしいので、この手紙を書くことにしました。
実はもともと病院の先生から出産は危ないといわれていました。
でも、そのリスクを覚悟で産むことに決めました。子どもを産む最初で最後のチャンスだといわれたら、やっぱり産みたいなって思ったから。
だって自分の子どもと歩きたいもん。
すてきだと思わない?
自分の子どもと手をつないで歩くの。
実家からだとやっぱり城跡公園がいいかなー。
暖かい日差しの中、お弁当持ってお散歩に行くの。
公園を回って展望台からまわりを見渡して、そのあとベンチでお弁当広げるの。
どう? いいでしょ?
うん? なに? のぶくんも仲間に加わりたいの?
うーん、どうしようかな?
うた、どう思う?
うん、なになに? 面白いこといったら入れてあげるだって。
あ、じゃあダメだな。のぶくんのいうことたいていつまんないから。
なーんてね。仕方ないから入れてあげるよ。
のぶくんの好きなツナマヨおにぎりと鶏のからあげもつくってきたし。
ちゃんとよくかんで食べなよ。むかしからよくのどつまらせてるからね。
はい、これほうじ茶。
どう、この妄想? なかなかいいでしょ?
ありきたりな、ありふれたしあわせかもしれないけれど、私はこういうしあわせがほしいな。
だから、かなえたいと思ってがんばるの。
そういえば知ってた?
次の春で、のぶくんと出会って10周年なんだよ。
中学校に入学してとなりの席にのぶくんがいて、うわっなんかぬぼーとしている人だって思ったの。
それが第一印象。ぬぼー。
で、よく話すようになって、やさしいひとだな、おもしろいひとだなと思って、そうして気づいたら、好きになってた。
あれから、もう10年かあ。早いね。あっという間だったね。
ホント10年もしつこくてごめんね。
のぶくんのやさしさに甘えてきちゃった。
でも、ずっと待ってるつもりだったんだけど、どうしてこうなっちゃんだろ?
きっと私の弱さかな。
あっ、湿っぽい話はやめておこう。
10周年記念なにしよっか?
うん、さっきいったお散歩にしよう。そうしよう。
ということで心の準備しておいてね。日程もいまから空けておくように。
あ、でもこれ遺書だっけ?
もしのぶくんがこの手紙を読んでいるのなら、かなわない約束になってしまうんだね。
守れない約束ってなんか切ないね。
手紙を親に渡しておくと、本当に死んじゃうような気がするし、親が泣いちゃうと思うんで、こっそり本にはさんでおきます。
私はお散歩する気満々なんだけどね。
無事またのぶくんに会えたときには、この素晴らしき計画を、直接口頭でお伝えします。
じゃあそろそろ終わりにしようかな。
でも大丈夫。
のぶくんにいいたいことなんてはじめから決まってるから。
のぶくんしあわせになってね。
私ね、誰よりも、誰よりものぶくんのしあわせ願っているから。
いままでありがと。本当にありがとう。
のぶくんに会えたことが私のいちばんのしあわせでした。
のぶくん、ずっとずっと大好きでした。
それじゃあね。
早苗




