9章⑥
信明は早苗の死を聞き、呆然とした。
ただただ信じられなかった。
聞いたのは通夜の当日で、すぐさま車に乗り、長野へ向かった。
車の中でも悪夢を見ているだけのような気がした。
葬儀会場は深い闇の中のような重苦しい雰囲気だった。
「のぶくん」
早苗の母親が声をかけてくれたが、信明には返す言葉がなかった。
「顔見てあげて」というので、信明は棺の中をのぞいた。
血の気のない早苗が静かに横たわっていた。
「早苗」
信明が呼びかけると、早苗の母親がすすり泣いた。
信明もこみあげてくるものをこらえたが、それでもどこかで信じられない思いが残っていた。
通夜には裕哉も来ていたが、信明は目を合わせなかった。
話したいことは何もなかった。
通夜が終わり、早苗の母親から「泊まっていきなさい」といわれたが、信明はホテルを予約していると嘘をついて、城跡公園の駐車場に車を停めた。
無音の暗い車内で信明は鴻上に電話をした。
「鴻上さん、早苗が、死んじゃった」
「えっ? 何いってんだ?」
「早苗が、死んだんです」
「……何が、あったんだ?」
「子どもを産んだときに、そのまま……」
「……そっか」
「ねえ鴻上さん、早苗を生き返らす方法ないの?」
「そりゃあ、ない、な」
「安倍清明は泰山府君祭で人を生き返らせたんじゃないの?」
「残念だが、それは後世脚色されたものだ。泰山府君祭という祭祀はあるにはあるが、それは長寿を願って寿命を司る泰山府君という神を祭るものであって、人を生き返らせる類のものでない。つらいだろうが、諦めろ」
公園のトイレに行くと、空には星空が広がっていた。
そのまま車には戻らず、信明は以前早苗と座ったベンチで朝までうずくまった。




