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8章⑤
翌土曜日の朝、とてつもない冷気を感じ、信明は目覚めた。
頭や肩が水浸しだった。
「あ、気づいた!」
亮太の歓声が聞こえる。
「あんた大丈夫かい?」
信明の母親の声だ。
母の手にはやかんがあった。
「水かけたのかい?」
「気絶した人には水がいちばんきくんだよ」
「この羽織、絹なのに。ああもう。しかも寒いよ」
「朝ごはんできてるからね」
母はそう言い残すと、何事もなかったかのように去っていった。
「無茶するなあ。むかしやってた滝行を思い出したよ」
「まあ、おばさんもすごく心配してたんだから。のぶさん何度揺らしても叩いても起きないから、おばさん呼んできて、水をかけてみたら目覚めたってわけ。とりあえず無事でよかった。で、どうだったの? 何かしたんでしょ?」
「ああ、うたちゃんは無事だよ。いま長野にいる」
「すげえ! わかったんだ。でも長野って、何しに?」
「彼女はここに来るまで長野に住んでたんだ」
「じゃあ友だちのところにでも行ったわけ?」
「わざわざ学校休んで、無断で行ったりはしないと思うよ。さて、これから長野に行くけど、亮太くんも行くかい?」
「行く」
「じゃあ、ちょっと支度するから待ってて。まずはここの床拭かないと」




