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8章④

 幽体離脱は成功し、信明は精神が生きたままの霊、生霊せいれいとなった。

 手始めに神社周辺や中古車屋、続いて白川女子高校周辺でうたの霊気を捜すが、それらしき気配はない。

 近隣をやみくもに捜しても見つかる可能性は低いと考え、信明は長野へ行くことにした。うたはこちらに来るまで長野にいた。もしうたが自分の意思で姿を隠したのなら長野にいるような気がした。

 生霊の姿で遠出するのははじめてだったが、移動は意外とスムーズで、案外速いものなんだなと感心した。飛んでいるとき、まるでパーマンみたいだなと思ったが、体型的にはどう考えてもパーヤンだった。

 秩父から山を越え、佐久を過ぎたあたりで微かにうたの気配を感じた。この前一度会ったのがよかったのか、手がかりに置いた『あしながおじさん』の効果か、すぐにわかるものなんだなと感じた。

 うたの生まれ育った恩田家に行ったことはあったが、城跡の近くだったこと以外、正確な位置は覚えていなかった。ただ近くまで来ると、薄っすら記憶がよみがえってきた。その記憶をもとに恩田家を探し、それと思しきところを見つけたが、空き家だった。

 だが、うたの気配はたしかにあった。すぐそばにいるようだ。ためしに恩田家と仲がよかった隣の加藤さんの家をのぞいてみると、二階の部屋でうたが寝ていた。

 ビンゴ。とりあえず無事でよかった。

 信明は首までふとんに埋もれているうたの寝顔を見た。

 なんでこんなことをしたんだい?

 問いかけてみたが、聞こえはしない。

 まあ、家庭の事情だよね。どう考えても。

 うたの寝顔をしばらく見たあと、外に出て城跡公園にきた。そこは信明にとって忘れられない場所だった。

 さほど大きくはない堀を超え、門をくぐる。歴戦の城だったらしいが、天守閣は失われており、いまではすっかりのどかな公園だ。

 信明が恩田家にきたのは高校卒業後の春休みだ。

 高校卒業後、長野に帰省していた早苗から「遊びにおいでよ」といわれ、信明はやってきた。四日間いて、早苗の家族と一緒に善光寺へお参りに行ったり、戸隠でそばを食べたり、飯綱山へ登山したりした。

 最終日の夕方、特急で帰る予定だったが、その前に早苗が「近くにいいところあるからお散歩行こうよ」といってつれてきてくれたのがこの城跡公園だった。

 城跡を一周してから、芝生を見渡せるベンチに座り、水筒に入れた甘くて温かい紅茶を二人で飲んで、そこで唐突に、何の前触れもなく彼女はいった。

「私、のぶくんのこと好きよ」

 信明は早苗の顔を見て固まった。

 あまりにも急だったし、照れてしまって何もいえなかった。

 いつかその返事をいう機会はあるだろうと思っていたが、結局そのときは訪れなかった。

 僕はあのとききちんというべきだったんだ。

 その日のことを信明はもう千回以上も思い返している。

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