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7章④

 放課後シャープペンの芯が切れたので、亮太は最寄駅の、自宅とは反対側にある大きな複合スーパーの三階にある書店へ行き、文房具を買って、ついでに気になる新刊をチェックした。用事を終え、一階へ下りるエスカレーターに乗ると、食料品フロアに白川女子の制服を着た女の子の姿が見えた。

 亮太の目が奪われる。

 似たような体型――。

 彼女が振り向いた。

 うただった。

 亮太の心音が高鳴る。

 話しかけようと三歩進んだが、そこで亮太は歩みを止めた。

 何を話したらいいんだろう?

 それに、こんなところで話かけたら迷惑じゃないかな? 見られたくない姿かもしれないし。

 そう思った途端、それ以上前に進めなくなった。

 うたは食料品を買うためレジに並んでいる。

 ひとり暮らしではなかったと思うけれど、料理自分でつくるのかな?

 家族は何をしているんだっけ? 聞いた気はするけれど、なんかあやふやな返事だった気がする。それほど興味がなかったから、それ以上聞かなかったけれど……。

 うたは会計をすませると、エコバッグに買ったものをつめ、出口へ向かっていく。亮太はうたのあとをつけた。

 彼女のことをもっと知りたい、その思いだけだった。

 うたに家まで送ろうかといっても、いつも「ここでいいです」といって図書館近くの大きな交差点で別れるので、亮太は彼女の家がどこにあるのか知らなかった。

 外はすでに薄暗かった。うたが持つエコバッグには米かペッドボトルか何か重いものが入っているようで、亮太は「持ってあげたいな」と思った。でも急に出ていくと不自然だし、「大丈夫です」と拒絶される気がして、結局声はかけられずにうしろからついていった。

 うたはバス通りをゆっくり歩いていく。

 五分ほど歩くと、うたは通り沿いにある中古車屋の前で曲がり、展示されている車の間を抜けて、そう大きくはない事務所の建物に入っていった。

「えっ?」

 亮太は驚いた。

 ここに住んでいるのかな? と思ったが、事務所に住居スペースがあるようには見えない。事務所の電気はついていたので、中に誰かがいるようだ。

 中の様子を探ろうと敷地の外を往復するが、ブラインドが下りていて、窺い知ることはできない。それでも諦め切れずにうろうろしていると、事務所の扉が開き、細めのスーツを着た三、四十歳代の男がまっすぐに亮太に向かってきた。

「やばっ」

 亮太は気づかれたことを悟った。

「何やってるんだ、おまえ」

「あの……その……車を見てたんです」

「ウソつけ。事務所見てただろ」

「いや……」

「その制服、おまえどこの高校よ」

「あ……いや……東高です」

 このとき事務所の扉が開いて、うたが駆け寄ってきた。

 窮地を脱するきっかけができた一方で、うたに知られてしまった。二つの思いが亮太の中で交錯する。

「高木さん……どうして? この方は私のお友だちです」

「友だちだあ? 一丁前に男とイチャついてるのか」

「そんなんじゃないです……」

 亮太は狼狽した。

 うたとこの男の関係もよくわからないし、この場をどう収めたらいいのか見当がつかない。自分がうたのあとをつけたばかりにこんなことになってしまって、後悔と申し訳ない気持ちで胸が痛んだ。

「あ、あの……棚橋さんとは図書館で知り合って、たまにお話させていただくような間柄でして、今日たまたまスーパーに行ったら見かけたんで声をかけようと思ったんですが、その、タイミングを逃しちゃって、なんとなくついてきたら、ここに入るんでどういうことだろうと思って……」

 亮太はとにかく理由を説明しなくては、と思った。

「ストーカーか」

「はい、すみません……」

「いいからさっさと帰れ」

「あ、はい……」

 亮太はうたの顔を見た。

 うたはうつむき加減に「高木さん、すみません……」とだけ言い残し、男に続いて事務所へと戻っていった。

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