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2章②

 翌水曜日も朝から雨だった。

 窓側の席の亮太は授業中グラウンドの水たまりを眺めながら栞のことを考えていた。

 本当にあの女の子のものだろうか? 大切なものだろうか? 同じ学校の同じ学年だから彼女のことを千香は知っているだろうか? 栞、別にいらないものだったり、ほかの人のものだったら恥ずかしいな、とかそんなことだ。

 

 放課後帰ろうとすると、隣のクラスの中村牧人なかむらまきとが顔を見せた。牧人は中学時代からの友人で、野球部に入っている。

「今日雨で練習休みになったんだ。この前破けちゃってバッティンググラブ買いたいからオノスポーツ付き合ってくれよ」

「お、う、そっか、うん」

「何か用事あるのか?」

「いや、図書館に行こうかなーと思ってたんだけど」

「そっか。図書館明日じゃダメか? ひさしぶりの休みだからさ」

「うん、わかった。いいよ」

「おし、さすがは亮太さん。そうこなくっちゃ。この前さ、うまそうなラーメン屋見つけたんだ。オノスポの近くに。家系でライスつきの大盛無料。そこ寄ろうぜ」

 本音をいえば、亮太は図書館に行きたかった。だが、野球部の練習が忙しい牧人と遊びに行ける機会は少ない。せっかく誘ってくれているのだし、図書館は明日にした。牧人とラーメンも悪くない。

 その翌日、木曜は放課後まっすぐ図書館に向かった。二時間ほど本を読みながら栞の彼女が来るのを待ったが、結局現れなかった。

 

 金曜日、亮太はいつもより30分早く起きて、斜向かいにある千香の家の前で彼女が出てくるのを待った。

 渡部千香は小学生時代からの幼なじみで、いまは私立の白川女子高校に通っている。小学五年から亮太と同じチームで野球を始め、中学高校ではソフトボールをやっている。髪は短め、ボーイッシュな雰囲気で、性格もさばさばしていて同性から人気がある。

「よっ」

「えっ、亮太? おはよう。どうしたの? 待ってるなんて珍しい」

「いや、たまに一緒に学校へ行こうかな、と」

「ふーん、何をたくらんでいるんだか」

「そんなことは……」(あるけど)

 歩き出して、最近ソフトボールの練習はどう? とか定期テストはいつ? などの話をしながら、亮太は切り出すタイミングをはかっていたが、愚図っているうちに稲苗神社の鳥居をくぐると、拝殿前に竹ぼうきを持った信明がいた。

「のぶさん、おはよ」

 千香が挨拶した。千香も亮太と一緒に書道教室に通っていたため、信明とは以前からの知り合いだ。

「お、おはよう……」

「のぶさん眠そう。どうしたの? 夜更かし?」

「ついつい深夜アニメを観てしまってね」

「その歳で深夜アニメって……」

「おれはいいと思うけどな」

「そうそう、昨今の深夜アニメは僕ら三、四十代の金のあるおっさん層が買い支えてるんだから。それより今日は二人なかよく通学かあ。こりゃうらやましいねえ」

「朝、ひとんちの前で待ち構えてたんですよ。気持ちわるー」

「亮太くんストーカーとはいただけないなあ」

「ちょっと用事があっただけだって」

「ふーん、そっかあ。でも、気の合う幼なじみがいるなんて幸運以外の何物でもないんだから、大切にしないとね」

「のぶさんにも幼なじみいたの?」

「うん、いたよ。まあ中学からの付き合いだから幼なじみというより親友っていったほうがいいかなあ。でも、もう亡くなってしまった」

「えっ? 事故か何かで?」

 千香の顔が曇る。

「いや、子どもを産んだときにね……」

「そう、女性だったんだ……」

「まあだから、生きているときにもっとああすればよかったとか、こういえばよかったなあとかいまでも思うんだ。……ほらほら早く行かないと遅刻するよ」

「あ、うん、いってきまーす」

「いってらっしゃい」

 千香に続いて亮太も「じゃっ」と信明に手を挙げ、駅に向かって歩き出した。


「のぶさんにもそういう人いたんだね」

 千香がいった

「うん、知らなかった」

「で、何の用なの?」

「……」

 亮太は千香の顔を見た。

(ほれ、早くいえ)といっている。

「いやあのさ、この前図書館で……」と、亮太は栞を拾ったことを話した。

「要するにその落とした子が誰かを知りたいのね」

「ご明察」

「特徴は?」

「身長は千香より小さくて、髪は軽い感じで肩くらいまでの長さ。おとなしめだけど、やさしそうというかかわいらしい感じかな」

「うーん、それだけじゃわからないな。女子校だからそんな人いくらでもいるし。他に何かないの? なんか身につけてたものとか、バッグにつけてたものとか」

「制服姿だったし、バッグも見てないな。やっぱ、それだけじゃわからないよなあ」

「同じ学年だったらだいたいの子わかるから、ヒントさえあればいいんだけど」

「あとは本好きで、図書館の周辺に住んでるってことくらいかな。それ以上は考えても出てこない」

 亮太と千香は同じ地下鉄に乗り、同じ駅で乗り換えた。二人の高校は同じ路線にあり、千香の高校のほうが二つ手前の駅にある。

「そういえば再来週の土日文化祭あるんだけど、来ない?」

「文化祭かー。でも、女子校の文化祭に男一人で行くのはつらい」

「誰か誘えばいいでしょ。牧人くんとか」

「たしかに牧人なら喜んできそうだけど、野球部の練習あるからな」

「聞くだけ聞いてみたら。もしこれそうなら連絡して」

 千香は電車を降りると、ホームで一度振り返り手を振った。千香と同じ制服の生徒たちが改札に流れていく。

「あっ」

 亮太は声をあげた。ホームを歩く人の群れに栞の女の子らしき人を見つけたからだ。慌てて降りようかと思ったが、その前にドアは閉まり発車した。

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