6章⑧
テストが終わり、再びソフトボール部の練習が始まった。
初っ端から五キロのロードワークで、千香は走っている最中、信明とラーメン屋で話したことを思い出していた。
たしかにわたし、はじめから放棄していたな。亮太は振り向いてくれない、無理だから絶対いわないって。わたしにだって亮太に想いを伝えるってことはできるんだから、何もしないまま諦めるのが前提なんておかしいよね。
「千香先輩今日は遅いですね。ぼんやり走ってるように見えますけど、さては恋の悩みですか?」
長距離走が苦手で、いつも後方で最下位争いをしているおたみさんに追いつかれた。
「な……そんなふうに見えた?」
「ええ。私も恋してるからわかります」
「へえ」
「まあ、叶うことはないんですけどね」
「なんで?」
「彼は二次元の世界にいるからです」
「ああ」(そりゃ無理だわ)
「でも、恋するって素敵だと思いません? なんか生きてる感じがして」
「へえ、おたみさんってそんなこというキャラだっけ?」
「どんなキャラだと思ってたんですか?」
「ぐへへとか、うへへとか」
「ひどっ。それいったら千香先輩はヘタレですよ。ヘ・タ・レ」
「なにそれ? ダメなやつってこと?」
「お先デース」
おたみさんが千香を抜いていった。
「ちょっと」
おたみさんに抜かれるなんて。
千香はペースを上げ100メートルほどで、おたみさんを抜き返した。
「おたみさん、お先。ベーだ」
抜く際あっかんべーをした。
「ぐっ、逆襲の千香先輩か」
いまはそりゃヘタレかもだけど、きっといつか返上してやるんだから。
そのときまで待っててよね。
千香はさらにピッチを上げ、前を走る部員をまた一人追い抜いた。




