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6章⑤

「いま、わたしが見た夢って正夢なの?」

 目覚めたあと千香はいわれた通り白湯さゆを飲んだ。そして涙が乾いたころ、そのことを聞いた。

「落ち着いた?」

「うん、だいぶ」

「いや、そういうわけじゃないよ。いま見たものは、千香ちゃんの魂が今後千香ちゃんに起こりうるであろう未来を予測したものなんだ」

「魂?」

「そう、魂。僕が何をしたかというと、脱魂だっこんの儀という儀式で千香ちゃんの魂を肉体から遊離させたんだ」

「そんなことできるの?」

「僕を誰だと思ってるの?」

「ぐうたら宮司でしょ?」

「そう、ぐーぐー宮司」

「ぐが一個多いよ。じゃあ、グッドなぐうたら宮司ってことにしてあげる」

「グッドなぐうたら宮司、それはいいね」

「いいんだ?」

「ホームページのプロフィール欄にでも使おうかな。千香ちゃんも鎮魂って言葉聞いたことあるでしょ? 魂ってもともと肉体の外へ出たがるところがあって、それを出ないように鎮めるのが鎮魂、逆に出ちゃってくださいというのが脱魂なんだ。一霊四魂いちれいしこんという言葉があるけど、人の心は一つの霊、直霊なおひと四つの魂で成り立っている。一つの霊が四つの魂を束ねているってイメージかな。ここまでわかる?」

「なんとなく」

「四つの魂はそれぞれ荒魂あらみたま和魂にぎみたま幸魂さちみたま奇魂くしみたまというんだけど、そのうちの奇魂というのが智を司っている魂なんだ」

「うん」

「結局未来というのは現在の延長上にあるわけだから、今後どうなるかっていうヒントは実はあちこちに落ちている。なにげなく聞いたことや、あのときあの人が何をしていたとか、そんなすぐ忘れてしまうようなささいなことでも、実はミステリー小説の伏線のように後々へとつながっていたということは多いんだよ。たとえば、あの人は落ち着いて見えるけど実はせっかちとか、あの人はあの人のことが実は嫌いとか、よくよく見ていれば気づくんだけど、人っていつも集中しているわけじゃないし、自分と無関係のことや都合の悪いことは意外と気がつかない。覚えてもいない。ところがその辺も奇魂だけはきちんと見ていて、そのうえ自分の感情とも切り離して冷静に物事を捉えることができる。だからその千香ちゃんの奇魂に“未来をシミュレートしてください”と儀式でお願いして、投影してもらったのがさっき見た夢なんだ。だからその夢がそのまま現実になるというより、これまでにこういう要素があったから、こうなる可能性が高いよという未来へのヒント集みたいなものかな」

「あっなるほど……わかった」

 千香はその言葉で、千香の奇魂が夢で指し示していたことを理解した。

 だが不思議と気落ちはしなかった。

 それは千香にもわかっていたことだったから。

 すると千香の前に座っていた信明が急に左右に揺れ始めた。

「こりゃあかん」

「のぶさん?」

「大がかりな儀式をして神気にふれると急に眠くなるんだよね。ひさしぶりにやったもんで、ガクッときちゃった。千香ちゃんは気にせず帰っちゃっていいから。その前にちょっと悪いんだけど、一階の地下の入口の横に物置があるからそこから枕と毛布持ってきてくれないかな」

「わかった」

 神気にふれるとはどういうことかわからなかったが、それをいったら信明がしたこと自体千香にはまったくもって理解不能だった。

 でもただ一つ、信明が自分のためにこんな大がかりなことをしてくれたということだけは千香にもよくわかっていた。

 千香は急いで物置から枕と毛布を抱えて部屋に戻ったが、信明はもうすでに床に横たわっていた。

 千香は信明の大きな頭を浮かせて下に枕を入れ、毛布をかけた。

「ほんとっ、ぐーぐー宮司なんだから……」

 千香はひとりごちると、胸が少し熱くなるのを感じた。

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