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6章②

 稲苗神社の横には稲苗神社公園という公園があり、夏にはここで盆踊りが行われ、神社の例祭には出店でいっぱいになる。

 部活がテスト休みに入ったその日、千香は稲苗神社公園のブランコに座っていた。

 先ほどまで千香は牧人と会っていた。

 牧人の話は思った通りこの前の続きだった。

 ハンバーガーショップでこの前の白女の文化祭や野球の試合の話をしたあと、別れ際駐輪場でいわれた。

「オレ、本気だから。千香ちゃんが好きだ。付き合ってほしい。返事すぐじゃなくていいから、考えてみてよ」

「えっ? あ、うん……」

 千香にはそうとしか答えられなかった。

 まっすぐ家に帰る気にはなれず、千香はブランコに座ったまま考え込んだ。

 どうしたらいいのかな? 亮太に相談してみようかな。でも、そしたら付き合えば、とかいわれちゃうよね、きっと。

 靴で砂の地面をなぞっていると、「どうしたの? 悩んでいるのかい?」という声がした。

 見ると信明がいた。

「あ、のぶさん。うん、ちょっとね」

「恋の悩みだね」

「えっ」

「図星でしょ」

「わかるの?」

「だてに当たると評判の占い師じゃないよ、なーんてね。この前スタンドのうしろの席に座っていたら、千香ちゃんの背中に書いてあったよ。好きです、あなたって」

「なっ……」

「誰かを好きになることは別に恥ずかしいことじゃないよ。千香ちゃんが亮太くんを好きなことくらい二人を知っている人ならたいてい気づいているよ」

「そ、そうなの?」

「そっ。で、どうしたんだい?」

 千香はいおうかどうか迷った。

 信明は千香と亮太のことをよく知っているし、普段から占いで人の悩みを聞いている。相談するには最もふさわしい人だと思った。

 千香が信明にはじめて会ったのは神社の書道教室でだが、親しくなったのはある出来事があったからだ。

 千香が野球を始めた小学五年のある日、千香は亮太とこの公園でキャッチボールをしていて、うしろに球をそらした。公園の外まで転がった球を追いかけて道へ飛び出したところ、軽トラックにはねられた。

 千香は意識を失ったため記憶はなく、あとから亮太に聞いた話なのだが、信明はそのときちょうど公園の目の前にあるタバコ屋でおばちゃんと話していたらしい。

「おばちゃん救急車!」

 信明はすぐさま道路に飛び出し、千香を抱え道の脇に寝かせたあと、印相いんぞうと呼ばれる形に指を組み、「オンバザラクロア……」と経文を唱えた。

 その後千香は救急車で病院に運ばれ、大事には至らなかったが、はねられ方や頭の打ち方からすれば奇跡的だったと母親から聞いた。

「あのとき千香を救ったのはのぶさんだよ。おれにものぶさんが不思議な力を使って千香を助けているのがわかったもん」と後日亮太はいっていた。

 後々そのときのことを信明に聞いてみたが、適当にはぐらかすばかりで、実際のところは千香にはわからない。

 だが、それ以来千香は信明のことを恩人と思っていたし、口では別のことをいったりはするものの心では深く信頼していた。

「いや、あの、わたしのことを好きといってくれる人がいて……」

「ふーん。それは亮太くんじゃないんだ?」

 千香はうなずく。

「で、どうしようか迷ってるというわけ?」

 千香がもう一度うなずく。

「せっかくだからこの機会に、亮太くんにいってみれば? 自分の率直な気持ちを」

「えっ、告白するってこと? そんなの無理。亮太には好きな子いるし」

「へえ、そうなんだあ。……ちょっと失礼」

 信明がタバコを取り出し火をつける。

「でも、亮太くんその子と付き合ってるわけじゃないんでしょ? その恋がうまくいくとはかぎらないんじゃない?」

「うん」

「とりあえずまあ、告白された人のことを好きじゃないのなら断れば?」

「でもね、すごくいい人なの」

「ひょっとして、中村くんかな?」

「えっ……」

「ああ、そうなんだ。なるほどねえ」

「知ってたの?」

「いや、この前なんで千香ちゃんが東高の試合を観に来ているのかな? と思ったから、なんとなくそう思っただけだよ。そっかあ中村君かあ。彼いい男だよね。まわりを明るくする才がある」

「うん」

「でも、どちらかは諦めないと。どっちつかずがいちばんよくないし、中村くんにも失礼だよ」

「うん、それはわかってる。断ればきっと何事もなかったかのように、わたしはまた亮太への片思いを続けることになる。ただね、もし牧人くんと付き合ったらどうなるんだろう? ってちょっと考えてみたかっただけなの。想像つかないし、いままでそんなこと考えてもみなかったから」

「なるほどね。まあでも、もしもの世界って気になるよね。その気持ちはよくわかるよ。中村くんと付き合ってみた未来っていうのも魅力的だもんね」

「うん」

「見てみたい?」

「うん? 何を?」

「中村くんと付き合うことにした未来」

 何いってるんだ? この人は。千香はそう思った。

「何その顔。さては信用してないな。僕を誰だと思っているだい?」

「昼間からお酒を飲んでるぐうたら宮司でしょ。顔ちょっと赤いよ」

「うん、だいたい合ってる。いや、そうじゃなくて。ねえ千香ちゃん」

 信明は千香の顔を見た。

「うん?」

「見るかい? もしもの世界を」

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