5章③
牧人の打順になった。一度屈伸をし、「っしゃー」と一声あげて右打席に入った。
千香は牧人が文化祭でいったことを思い出した。
ホームランを打ったら熱い想いを叫ぶって、告白するってこと? いやいやそんなの困るし、まさかそんなことしないよね? だいたいホームランとかいってるわりにはバット短く持ってるし。その辺が牧人くんらしいというか、根が真面目なんだよね。普段はおチャラけたりするくせに、ヘンにカッコつけないというか、いまはとにかくチームのために出塁することだけを考えてるもん。
でも牧人くん、どこまで本気なんだろ?
千香はいまだ半信半疑だった。
結局牧人はファールで粘ったもののセカンドゴロに終わった。
東高は五回までに七点を奪われた。
途中牧人がマウンドに行き、野崎と言い争いになった。何をいっていたのかはわからないが、野崎が諦めてしまったというか、覇気のない投球をして牧人が咎めにいったように見えた。明らかにチームの雰囲気がよくない。
六回からは野崎に替わり一年の小山田がマウンドに上がったが、連打を浴びて三点を失い、牧人に交代した。
「本当に牧人が投げるんだ。試合で投げるの、おれはじめて見る」
「中村くん肩がいいからストレートはいいものあるけど、本格的に練習しているわけじゃないからね。変化球もたしかゆるいカーブしかないはずだよ」
信明が解説する。
千香も牧人が試合で投げるのを見たことはなかった。力を入れたキャッチボールのような基本に忠実なピッチングフォームだった。
「牧人くん、ピッチング練習してた?」
「さっき少しだけやってたと思う。でも10球くらいじゃないかな」
「そっか。つらいね」
千香は投球練習の短さよりも、この敗戦処理のような状況を指していったが、それでも牧人は全力を尽くしていた。泥くさくても情けないことでも牧人はいとわない。亮太が中途半端な気持ちで野球をやるのは牧人に失礼だ、というのもわかるような気がした。
牧人はリリーフ後無失点に抑え、味方の反撃を待った。
七回二アウト二塁で牧人の三回目の打席を迎えた。ここでも牧人は10球粘って、右中間に二塁打を放ち、東高は一点を返した。二塁ベース上で牧人は土をほろっただけでスタンドを見ようともせず、隙あらば進塁しようとピッチャーの動作を見ていた。
だが、その後の打者が続かず、結局10対1で東高はコールド負けした。
「厳しいねえ」といって信明が立ちあがった。「僕はタクシーで帰るけど、二人は自転車かい?」
「あっ、うん」と亮太がうなずくと「じゃあお先に」といって信明は去っていった。




