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5章②

 球場に着くと、千香と亮太は東高の三塁側スタンドに座った。

 日曜であり、二高は甲子園にも数度出場のあるマンモス校なので、客はそれなりに入っていたが、その大半は二高の一塁側のスタンドで、東高側の客入りはまばらだった。

「さすがに二高の応援は多いね」

「向こうはシード校だからな。こっちはノーシードの公立高だし」

「公立高だって甲子園に出てるでしょ」

「ごくたまにね」

「たまにだけど出られないわけじゃないよ」

「まあね」

 場内放送でスターティングメンバーが発表される。牧人は七番キャッチャーでの出場だった。

「牧人くん七番なんだ」

「うん、そうみたい」

 千香の記憶でも、牧人は中学時代からバカスカ打つほうでもなかったが、七番というのはなんともコメントしづらい打順だった。

「なんで亮太は高校で野球やらなかったの?」

「前いった」

「あいまいだったからよく覚えてない」

「ひと口にはいえない」

「何口でもいいから教えてよ」

 フィールドでは二高のシートノックが行われていた。

「別にこれといった理由があったわけじゃないよ。でも限界というか、野球では大成できないだろうなというのは中学のころから感じていたし、高校では勉強に専念しようかなって思ったから」

「うーんそれは、さすがにプロになるのは無理かもしれないけど、亮太なら二高とかシード校相手でも十分やれたと思うけどな。部活って結果がすべてじゃないでしょ。わたしだってもちろん勝ちたいけど、全国優勝とかはまず無理だと思うし、たんにソフトボールが好きだからやってるよ」

「いや、いいたいことはわかるよ。でも、よしやるぞって燃えるものが湧いてこなくってさ、そういう中途半端な気持ちではやりたくなかったんだ。真剣に取り組んでいる牧人やほかの部員に失礼だし」

「でも、放課後部活なくてさみしくない?」

「退屈だなって思うときは結構ある、かな」

「いまからでもやればいいのに、野球」

「もう遅いよ」

「そうは思わないな。夜、家のまわり走ってるでしょ? 素振りもしているし」

「ただの気晴らしだよ」

 試合が始まった。

 先攻は二高で、マウンドには東高の先発野崎が上がる。

 先頭バッターに初球をいきなりセンター前に弾き返され、その後送りバントと四番のライト前ヒットで一点を取られた。

 一方、一回裏の東高の攻撃は三者凡退で、五分も経たずに終わった。

「二高のピッチャー球速いね」

「スライダーのキレもいい」

「フォークも投げてない?」

「フォークもある。簡単には打てそうもないな」

 マウンドには再び野崎が上がった。二高のピッチャーと比べると明らかに球速は劣っている。

 二回表は下位打線からだったが、連打を浴び、追加点を取られた。二高のバッターは右打者は右へ、左打者は左へと逆方向へのバッティングを徹底している。

 野崎が再びタイムリーヒットを打たれたところで「こりゃあかん」と背後から似非関西弁が聞こえてきた。「腕の振りが甘いよ」

 千香と亮太が振り返ると、うしろの席に信明が座っていた。

 信明は東高野球部のOBで、あと一つ勝てば甲子園というところまでいったときの主将だった。彼は東高野球部にとってはいわばレジェンドであり、いまでもたまに練習を見に行ってはアドバイスをしていた。

「コントロール重視で丁寧に投げるのはいいんだけど、球を置きにいったらそりゃ打たれるよ。二高の打者は意思統一ができているからね。インコースの厳しいところはファールで逃げて、アウトローは大ぶりせず逆方向に流す。球威がないから二高レベルならそう難しいことじゃない」

「のぶさん、いつからいたの?」と亮太が聞く。

「試合始まる前からいたよ」

「気づかなかった。声かけてよ。びっくりしたー」と千香。

「いや、お二人の邪魔するのも悪いかなと思ってね。失礼」信明は缶ビール片手に二人の隣に座った。「中村くんも腕を振れって何度もいっているよね」

 千香も気づいていた。牧人は何度か腕を振って、野崎にもっと腕を振れとジャスチャーで注意喚起している。

「野崎くんには夏にもう少しステップ幅を広げるようにいったんだけど、元に戻っちゃってるね。あの棒立ち気味のフォームじゃ体重が乗らないから球威が出ないよ。来年までにフォーム改良しないと」

「野崎、この大会で部活やめるらしいよ」

「えっ? そうなの?」

「受験勉強に専念するとかで」

「野崎くんっていま投げているピッチャーでしょ? じゃあ来年誰が投げるの?」

「一年らしいけど」

「小山田くんか。サウスポーというのは武器なんだけど、球は正直いっていまのままでは厳しいねえ」

「やっぱり亮太が投げれば?」

「うん、たしかに亮太くんならすぐにエースになれるかもね」

「無理だって……」

 亮太が黙り込み、会話が止まった。

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