5章①
翌週の日曜日、約束の時間ちょうどに亮太が千香の家に迎えにきた。
「うす」
「お、おはよう」
「お、千香のスカート姿なんてひさしぶりに見た」
千香は紺のドット柄のワンピースにライトグレーのカーディガンという格好だった。
昨日の夜、千香はどの服を着ていこうか小一時間迷った。もともとボーイッシュな格好が好きなためスカートはほとんど持っていなかったが、この前いとこのお姉さんからこのワンピースとカーディガンをもらった。
「サイズが合わないからこれ千香ちゃんにあげるよ。千香ちゃんこういう服もかわいいと思うよ」
自転車で行くのでスカートは迷ったが、亮太に私服姿を見せるのはひさしぶりだったので、思い切って今日着ることにしたのだが、昨日からずっと反応が気になっていた。
「似合ってる、かな?」
「うん、いいと思う」
ああやばい、うれしい。これ着てきてよかった。
でも一方で、無自覚に自分を喜ばせる亮太を憎らしくも思った。
文化祭のあと千香は悩んだ。
亮太はうたに惹かれている。文化祭で確信してしまった。
亮太のことが本当に好きならば、自分の想いより好きな人の恋を応援するべきじゃないか、そう思った。
しかも文化祭では、はっきりではないにせよ、牧人から想いを告げられた。
前から牧人が好意を持ってくれていたのは千香も感じていたが、東高で素敵な女子を見つけたかもしれないし、しばらく会ってもいなかったから、急にあんなことをいうとは思わなかった。
中学のときから牧人は人気があった。顔立ちは整っているし愛嬌もある。明るくて面白い。女子からの人気なら亮太よりも牧人のほうが上だろう。千香から見ても牧人は素敵な男子だと思う。
でも――。
やっぱり「でも」という言葉が出てしまう。亮太に八歳のときに会い、それから九年。それだけ想ってきた人を簡単に諦めることはできない。考えとか理屈とかじゃなく、亮太を好きというのは規定事実であり、これまでの人生の軌跡だった。
それに、亮太とうたがうまくいくともかぎらない。
結局、想いは振り切れなかった。
「ねえ、棚橋さんとその後会った?」
「うん? いや、会ってない」
「へえ、そうなんだ」
「あ、でも明後日図書館で会う予定」
「ふーん、あっそう……」
野球場までは自転車で30分ほどだった。
「球場行くの中学ぶりだな」
「わたしもあそこはひさしぶり。そういえば牧人くんってレギュラーなの?」
「失礼だな。牧人よりうまいキャッチャーなんてウチの学校にはいないよ」
「いや、そうかなとは思ったけど……。東高、力はどうなの?」
「結構強いよ。ただシード校には勝てない」
「選手層が薄いから?」
「それもあるとは思うけど、抜きん出た選手がいないというのもあるかな。特にピッチャー」
「今日って二高が相手なんでしょ?」
「そう」
「強いんでしょ?」
「強い」




