4章④
亮太がストライクアウトを始め、ビンゴ一列でB賞を取った。
やっぱりうまいなー。
千香も文化祭の準備期間に何度かやってみたが、最高でも四枚抜きでビンゴは一度も取れなかった。枠に行くこと自体は難しくないのだが、狙ったパネルをきちんと当て抜くのは難しい。
続いて牧人が始めた。牧人もうまい。真ん中がとれずビンゴにはならなかったが、四枚パネルを落としてC賞を取った。
「お二人ともうまいですね」
「先に投げたほうは中学時代野球部のエースで、後のほうは現役野球部だしね」
「なるほど、道理で引き締まったからだをしていらっしゃる、むふっ」
そんなことをおたみさんと話していると、亮太が手を振って出ていってしまった。
「えっ?」
千香は驚き、近づいてきた牧人に聞いた。
「亮太は?」
「棚橋さんだっけ? 彼女のところに行ったよ」
「あれっ? 一緒ってみんなじゃなかったの?」
「いや、あれっ? 亮太ははじめからひとりで行くつもりみたいだったけど」
「そ、そうなんだ……」
「残念?」
「いや、そんなんじゃないよ。ただびっくりしただけ」
「そっか」
少し間ができたあと、牧人が先ほどもらった積み木ゲームのチケットを千香に見せた。
「千香ちゃん時間ある? 回るのつきあってよ。これもらったからやりにいかない? ひとりじゃさみしいし」
「……うん」
積み木ゲームは1年D組でやっていた。教室に着くまで千香は何かを話そうと思ったが、どうにも気が乗らず話を切り出せない。いつもは多弁な牧人も黙ったままだ。
「いらっしゃいませ。では、私と対戦して勝てば景品を差し上げます」
負けませんわよ、とかいい出しそうな、キリッっとマジメそうな女子に牧人は積み木ゲームの無料券を渡した。
「二人交代でやってもいい?」
「もちろんです」
「だって。千香ちゃんやり方知ってる?」
「あ、うん、知ってる。やったことある」
積み木ゲームはブロック(木の棒)で組み上げた塔からブロックを抜き、それを最上段に積み上げていくゲームで、タワーを崩したほうが負けだ。
「では、私からいかせていただきます」
マジメ系女子が何事もないようにはじめのブロックを抜く。彼女の胸には『つみきマイスター』という缶バッチがついていた。
「じゃあ千香ちゃん、オレからいくよ。くいっと、楽勝」
牧人が下の段の中央のブロックを押して抜く。
次のマジメ系女子の番も一瞬で終わり、千香の番になった。はじめはイージーなので千香もなんなく終えた。
とはいえ、千香は亮太たちのことが気がかりで注意力が散漫だった。三回り目で、ブロックを押し抜く際、力を入れ過ぎてあっけなく塔は崩れ落ちた。
「あっ、ごめんなさい……」
「ま、しょうがないよ」
千香は崩れたブロックの前で呆然とした。
わたし、何やってるんだろう?
「ね、千香ちゃんこの学校に屋上とかってない?」
「……あ、うん、あるよ屋上」
「入れる?」
「うん」
「行こうよ、屋上」
「あ、うん」
屋上に出ると、薄く澄んだ青い空が広がっていた。高いフェンスに囲まれた屋上スペースはかなり広く、ベンチが置かれている。
「いいところだね、ここ。駅前のビル街も見えるんだ、すげえ」
「うん、わたしもここ好きなんだ。昼休みにお弁当食べたりする。みんなバレーしたりしてるよ」
開放感のある屋上に出たことで千香も少し落ち着いた。
千香は牧人がなぜ屋上へ行こうといったのかを感じ取っていた。
牧人くんはわたしが気落ちしている理由を知っている。積み木ゲームのつまらないミスだってそれが原因だってきっと気づいている。でもそのことについて何もいわない。責めたりしない。牧人くん相変わらずやさしいな。
「そういえば、千香ちゃん新人戦どうだった?」
グラウンドを見ていた牧人が振り返った。
「準決勝までいったんだけど、そこで負けちゃった」
「でも準決までいったんなら、まずまずじゃん」
「うーんそうだけど、準決、最後逆転されての負けだったから、やっぱり悔しいよ」
「そっか、まあそりゃ悔しいよね。ねえ千香ちゃん、来週の日曜ウチの部の試合あるんだけど、応援来てくれない? 亮太と。亮太もひとりじゃ渋ってたけど、千香ちゃんとなら来るみたいだから」
「そうなんだ……うん」
少し間ができたあとで、「ねえ」と牧人が突然語気を強めていった。
「たまにはオレのことも見てよ」
「えっ……?」
千香は驚いた。
牧人はまっすぐ千香を見ていた。その表情を見て、千香は牧人が真剣なのを悟った。
「千香ちゃんがずっと亮太のことを見ているように、オレだって中学二年のときから千香ちゃんのことずっと見てるんだ。たまには亮太でなくオレを見てよ」
「……えっ? どういうこと?」
「そういうこと。もしも次の試合でオレがホームラン打ったら球場で叫ぶよ」
「ええっ、何を?」
「オレの熱い想いを」
こわばっていた牧人の顔がほころび、いたずらっぽく笑った。
「……いや、そういうのいらないから」
千香の顔もほころんだ。




