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4章③

 千香は小学三年のときに亮太の家の斜向かいに引っ越してきた。転校でクラスが同じになり、一目ぼれだったかどうかまでは覚えていないが、いちばん気になる男子になるまでそう時間はかからなかった。

 顔はいいし、背も高いほう。勉強ができて、スポーツも得意。みんなの前では明るいけど、意外と人見知りでシャイなところもある。ぶっきらぼうだけど優しい。千香フィルターを通した亮太像はいまもむかしもこうだった。

 亮太は野球が好きで、千香が転校してくる前から少年野球チームに入っていた。千香と亮太は小学五年になると別のクラスになり、話す機会がめっきり減った。月に二回神社でやっていた書道教室で顔を合わせてはいたが、もっと長い時間一緒にいたいと思った千香が亮太のいる野球チームに入った。

「なんで入るんだよ。女子なんて誰もいないんだぞ」

「フン。わたしの勝手でしょ。監督だっていいっていってくれたもん。すぐに亮太よりうまくなってやるんだから」

「ぜってー無理」

 始めた動機は不純でも千香はもともと運動神経がよかったし、うまくなるための努力もした。亮太も口では嫌そうなことをいうものの、いつも練習につきあってくれた。結果守備も打撃もメキメキ上達し、六年生になると、女子であるにもかかわらず誰もが認める実力でセカンドのレギュラーを勝ち取った。

「千香、すげえな」

 亮太もいつしか千香の実力を素直に認めるようになっていた。

「うーん、でもまだ亮太には勝てないもん」

 亮太はチームのエースで四番だった。千香は口ではそうはいっていたが、亮太には自分より優れた選手でいてほしかったので、実のところ悔しさはまるでなかった。

「千香は中学ではどうするんだ?」

「うーん、さすがに中学で野球部は難しいから、ソフトボールやろうかなって思ってる。ね、そう思ってソフトボール買ったんだ。今度練習つきあってよ」

「うん、いいよ」

 そうして練習の前や休みの日など、二人はソフトボールでキャッチボールをするようになった。亮太はテレビなどを見て、ソフトボールのピッチャーの投球フォームを研究し、千香に教えてあげた。

 千香はこの小学六年から中学入学までのことをよく夢に見ては、いい期間だったなと思い浸る。このときが二人だけで最も長く、親密な時間を過ごしたからだ。

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