妹略奪男を追え!
「さぁ、観念しなさい!! 今日という今日は、白黒はっきりさせてやるんだから!」
地元の公立高校の制服を着た、しかめっ面の女が立っていた。
今日は雲ひとつない晴天の日曜日、新緑の木漏れ日が夏の暑さに参る観光客たちを優しく包んでいた。そんな緑川公園の遊歩道の一角で対峙する男と女。もとい俺の親友・知樹と俺の親友の咲。そして草場の影から、その一部始終を目撃していた俺。
事の発端は、今日の朝。俺が近所のコンビニに朝飯を買いに出た時だ。知樹と咲の妹が仲良さげに向かいの歩道を歩いて行くのが見えた。これは、一大事だと思った。姉に似ず、かわいくて、美少女戦隊ものが大のお気に入りというピュアで女の子らしい妹ちゃんが、お世辞にもイケてるとは言えない知樹の毒牙にかかろうとしているのだ! コレを止めずして何が親友だ! ……ということで、とりあえず俺はこの事を咲に知らせ、今この状況にあるというわけだ。
「何の事だよ!?」
「とぼけないで。よりによって妹に手を出すなんて最低! 妹はまだ小学生なのよ! あんた、何考えてんの!?」
喚き散らす咲は、俺の幼稚園からの幼馴染みで、知樹とも中学からの付き合いになる。そして妹ちゃんは戦隊ヒーローヲタクの知樹に懐いていた。
「はぁ!? 小学生だからいいんじゃねぇか!! お前こそ、俺の趣味に口出すんじゃねぇよ!!」
その言葉に、咲の怒りも頂点に達したようだ。肩を震わせながら顔を真っ赤にして叫ぶ。
「しゅしゅしゅっしゅ趣味!? あんた、そこまで落ちぶれたって言うの!? 高校二年にもなって彼女すらできないブサメンだからって、いくらなんでも……!! この変態!」
周りを行き交う親子連れも、「あれ、なーに?」「見ちゃダメよ。」状態だ。二人を見ないように俯きながら足早に通り過ぎていく。
俺はたまらなく面白かった。知り合いにこんな変態がいたなんて、笑いが止まらない。
すると、ひときわ強い風が吹き、一枚のチラシが俺の顔に貼りついた。こんな草陰で、二人に気付かれないように身を低くしていれば、そんなアクシデントもあるだろう。俺は、紙きれを丸めて放り投げた。
「ブサメンはないだろ。ちょっと鼻が低くて、目が細くて、歯が出てて、敏感肌なだけだろ!?」
「何よ!! 鼻が低くて、目が細くて、歯が出てて、おまけに敏感肌なら、ブサメン決定よ!!」
咲の後ろに隠れた妹ちゃんが心配そうにチラチラと知樹を見ている。知樹は妹ちゃんに微笑んだ。
「何、うちの妹とアイコンタクトとってんのよ!!」
腕時計を見て浮かない顔をする知樹は、焦りながら言った。
「早くしねぇと始まっちまうんだよ!」
その言葉に、俺の思考は止まった。だた頭の隅に何か引っかかっている。
カサッ――――。
俺の指先に何かが当たる。それは先ほど、丸めて放り投げた一枚のチラシだった。
(も、もしかして……。)
俺は生唾を飲んだ。恐る恐るくしゃくしゃになったそのチラシを広げる。そこにはできれば知らないままでいたかった事実が書かれていた。
「お前が、悪いんだろ!」
「何がよ!」
「プ●キュアのショーだよ、先月の末にあった! それ行けなくて泣いてたから今日ある戦隊ヒーローショーに連れて来たんじゃねぇか!! ちゃんとメールしただろ!」
知樹のその言葉に俺は、頭を抱えた。
(なんて謝ろう……)
ちょっと鼻が低くて、目が細くて、歯が出てて、敏感肌な、全国の皆々様
大変失礼をいたしましたm(_)m