「剣」のアリス
こんにちは、お久しぶりです。お元気ですか? 私はやばいです。
今回は、一挙に「世界観」が見えてくる急転直下。だが、謎はまだ続く……
窓から風景を眺めつつ、メリッサは物思いに耽る。ダニエルの運転する車は、どんどんロンドン市内中心部へと向かっていく。いわば、敵の懐へ。
どきどきと胸が鳴るのは、緊張と、それと恐怖のせいだ。
アリスはさっきからずっと、ダニエルとイディッシュ語で会話をしていて、残念ながら何を言っているのか、無学な下層階級出身のメリッサには、さっぱり分からない。
自分がとんでもない面倒ごとに巻き込まれたのは間違いない。所属する国の情報部に目をつけられてしまったのだから、これはもう、確定だ。
最初にアリスを助けたのは、暴漢に美少女が襲われているだなんて、到底見過ごせなかったからだ。そして次にアリスに協力したのは、端的に言うと、お金が欲しかったからだ。手堅い商売人であるベンジャミン・シュムエレヴィッツが、報酬としてアリスがメリッサに提示したダイヤを見て、仰天していた。あのベンジャミンに限って、質草となるダイヤの価値を見間違うわけがない。
国を裏切るとか、そういうことは、全然考えていなかった。
ただ、アリスが「空から戦争をなくす」「空は自由であるべきだ」と言った。そして、空軍戦力を無効化できる技術を持っている、という言葉に、心を揺り動かされた。
そればかりは、言い逃れしようのない事実だ。
航空産業を基盤とする、スターゲイザー財団に目をつけられるのは、理解できる。
だが、それが国家への反逆になるのか、ということは、理解できないメリッサだった。
しかし、そんなメリッサでも、明白に分かることはある。
とにかくロスチャイルド男爵のところまで逃げ込まないと、MI5に捕まる。
(あーあ、こんな時でなければ、楽しめたのになぁ)
偽装とはいえ、憧れの中層階級のドレスを着て、自動車に乗って。
車内で飛び交うのは、ちんぷんかんぶんなイディッシュ語。
ハァッ、とため息を吐くのも、致し方のないことだろう。
だがそのため息の中には、自分一人がサッパリ状況を把握していない、という疎外感のような、苛立ちめいたものも混じっている。
いや、アリスたちにしてみれば、それこそまさに、彼女たちユダヤ人が味わい続けてきた歴史そのものであるので、この機会に是非ともご体験あれ、なのかもしれないが。
「……ねぇ、質問いい?」
会話の一区切りがついたと思しき所で、メリッサは覚悟を決めて口を開いた。
アリスは軽く頷いた。
「アリス……あなた『グレイズ』の上空で、エーデルシュタイン商会での会見を提案して、そこから、結局のところ、思い切り離脱ルートに入っているわよね? 商会の方には空警部隊から、事情聴取が入るわよ? 多分あなたが述べた脅し文句からすれば、結構な階級の」
「そう思います」
どうやら、アリスはメリッサ相手に話す時には、例のたどたどしい英語を使う気でいるようだ。まぁ、こっちは知識も教養も不十分極まりない下層階級である。あんなお上品かつ嫌味な、小難しい上にフランス語訛りの気障ったらしい英語を使われては、自分の理解力が追い付かない。
大英帝国には、大別して二種類の人間が生きている。貴族階級と、労働者階級だ。両者の話す言葉は全く異なり、場合によっては意志疎通ですらコケる。同じ英語と侮るなかれ。大英帝国は複雑多様だ。
と、大まかに感じたところで、メリッサは本命の質問を切り出した。
「『ジュディス』って、誰?」
「私の写しです」
淡々と返された言葉に、メリッサの理解力は一瞬、追いつけなかった。
「複製?」
「はい。私の身に危険が降りかかった時に、身代わりになるための存在です。私の容姿と行動様式とを模倣し、相手を欺いて、時間稼ぎをします」
つまり、影武者だ。
だが、同時に、その「ジュディス」は、命の危険にさらされるための存在である。
「……捨て駒?」
「チェスですか?」
小首をかしげるアリストは、どうやらうまく意思疎通できなかったらしい。
「いや、そうじゃなくて、ジュディスの命は危なくないの?」
もちろん、あの女王様のように命令を下しまくっていた「アリス」の姿を思い起こせば、お仕えする身であろう彼女に、身代わりとして命を懸ける役を背負う存在があっても、おかしくはないのだけれど。
だが、メリッサは変態としてこうも思う。
(もう一人、こんな美少女がいるっていうのなら、見殺しとかあり得ない!)
しかし「女王アリス」は、考え込むようなしぐさを見せるだけだ。
しびれを切らして次の言葉を重ねようとしたところで、ようやくアリスは返事をした。
「むしろ、私が命を心配する。それは、ジュディスの取り調べに来る空警兵です」
「……は?」
メリッサは、口をぽかんと開けて、実に素晴らしい間抜け面をさらした。
「何? 何よそれ? どういう意味?」
「ジュディスは窮地を切り抜ける前提で訓練を受けていますので……いざ危ないと感じたなら、平然と相手を殺すぐらいのことは、やってしまうと思うのです」
待て。待て、待て待て!
「それ、逆に英国での私の立場が危うくなるじゃない!」
思わず叫んだメリッサに、しかしアリスは、愛らしく笑って返した。
「だったら、我々が独立したら、我々の国で暮らせばいいと思います」
メリッサは文字通り絶句した。
さて、場所は「エーデルシュタイン商会」へと戻る。
ティルベリー・ドックス簡易詰所の分隊長である、アーサー・スペイバーンと、副長であるエドワード・ブラッドノックとを迎えた「アリス」は、表面上はにこやかに微笑んでいる。だが、その小柄な全身から放たれる、奇妙な威圧感に、歴戦の空警兵二人は、とっさに身構えた。
「わざわざお越しいただき、感謝しますわ」
高圧的なフランス訛りの言い回しで、にっこりと微笑んだ少女は、薄汚れた古着を身にまとっているにも関わらず、まるで支配者のようなオーラを漂わせていた。
一瞬、その雰囲気に呑まれかけたアーサーは、己を奮い立たせ、茶を持ってきた女中に促されて、向かい側の席に、副官共々腰を下ろす。
「あたくしが『アリス』……いえ、正式に名乗りましょうか」
貴婦人のように優雅に一礼して、少女は名乗った。
「アレクサンドラ・レヴィ・アイゼンシュタイン……この国風に名乗れば、アリックス・リヴァイ・エイゼンステインですわね」
その名乗りに、当たりだ、とアーサーは内心に呟いた。
アイゼンシュタイン……「鉄の石」を意味する、鉱物系のユダヤ系特徴姓に、支族名のレヴィ……ユダヤ系で、大当たりだ。
レヴィ族は、イスラエル十二支族のうち、祭祀を専門につかさどり、神殿に仕える聖職者の特殊家系だ。その突出した専門性故に、むしろ「十二支族」の中に分類されないこともあるほどである。その際にはヨセフ族を半分に割り、マナセ半支族・エフライム半支族として「十二」の数を保つ。
古代ヘブライ王国が南北分裂した際に、北イスラエル王国についた十支族……その後、アッシリアによる滅亡とともに歴史上から記録が消えうせた「失われた十支族」と、現在もなお生き残る、南ユダ王国についたユダ族とベニヤミン族の二支族……これらの他に、南北王国、その両方に、祭祀をつかさどる存在として「分かれて」今もなお生き残っている、三つめの支族……それが、レヴィ族である。
アレクサンドラという名前こそ非ユダヤ的だが、彼女がMI5やMI6をも振り回す、恐るべき知識をその頭脳に秘めているというのなら、推測するに「あの」アレクセイ・ミェツタテリィの関係者だろう。アレクセイに、アレクサンドラこと、アリックス。古代のアレクサンドロス大王にも由来する、類似名である。
「ご丁寧にどうも……ティルベリー・ドックス簡易詰所、駐屯分隊長の、アーサー・スペイバーンだ」
気圧されないように、少し拳に力を込めて、アーサーは名乗る。
「同隊副長、エドワード・ブラッドノックです」
淡々と、いつも通りの冷静な声で、アーサーの頼もしき副官殿は挨拶を続けた。
チラッとうかがうと、顔も様子もいつもと変わらない、見事な鉄面皮だ。
オレの副官、マジ頼もしすぎる……と、アーサーは内心に呟いた。
アリスの方は、だから何だ、という感じで、威圧的な態度を崩しもしなかったが。
「ようこそ、スペイバーン分隊長、ブラッドノック副長……あたくしに尋ねたいと仰るご用件、お聞かせいただけるかしら? ロンドン上空での銃撃戦のことなら、概要はお伝えしましたわよね?」
小憎らしいほどにふんぞり返って、アリスは二人にそう返す。
「まぁ、それはそうですが……」
「あの後、警察があたくしの証言を裏付ける証拠を、何一つ得られなかったのかしら? それほどまでに無能だとは存じ上げませんでしたけど。それとも何か他にご用が?」
このガキ……と、内心に青筋を立てるアーサーとは対照的に、それでは、と口を開くエドワード。冷静沈着なる副官殿は、今日も絶好調に通常運転だ。
「簡単にお伝えします。あなたには、シオニストの国際運動に関わり、現在我が大英帝国がその統治を委任されているパレスチナ地域について、分離独立を主導する立場にある、という嫌疑がかけられています」
全然「簡単」じゃねぇぞ、と、アーサーは内心で突っ込む。
過不足のない説明であるのは、確かだが。
しかしアリスは、軽く小馬鹿にするように、肩をすくめた。
「男爵様との約束を、反故にした三枚舌国家が、ずいぶんな態度ですこと」
「戦時には、戦時の対応があるということでしょう……ただ我々は、現状、課された任務を遂行するべく、大英帝国の忠良なる臣民として、その役目を果たしに来ているのみです」
「そ。つまり『おつかい』というわけね」
せせら笑いながらそう言って、アリスはポンッ、とソファを降りた。
「同じねぇ……」
「何がです?」
淡々と、冷静に問い返すエドワードに、アリスはニヤァッ、と凶悪な笑みを浮かべた。
「あなた方と、あたしとよ」
反応する暇もなかった。いや、何が起こったのか、理解する暇もなかった。
「……ッ」
エドワードもアーサーも、一撃で昏倒させられていた。
アリスは……いや「ジュディス」は、チリンチリン、と呼び鈴を鳴らす。まるでこうなることを知っていたかのような素早さで、拘束具を手にした機械人形たちが現れる。
「さぁ、報告しなきゃ。邪魔二人はこっちで捕まえたって」
軽くリズムを取りながら、ジュディスはそう、歌うように言う。その両手には、いつの間にか、武骨なコイルを露出させた機械が握りこまれていた。電圧衝撃装置である。
軽やかなリズムを取って、彼女は歌う。
「מעוז צור ישועתי ♪
לך נאה לשבח ♪
תיכון בית תפילתי ♪
ושם תודה נזבח ♪
לעת תכין מטבח מצר המנבח ♪
אז אגמור בשיר מזמור חנוכת המזבח ♪」
「光の祭」、ハヌカ祭の定番の歌を、ジュディスは口ずさむ。とっくに終わった冬の祭の歌だが、彼女はいつだって、これを歌う。
この歌こそが、彼女の存在意義なのだ。
戦って、戦って、戦い抜いて、自分たちの「存在」を「勝ち取る」ことを選んだ。それが、ジュディスの道なのだから。だから、あのセレウコス朝シリアの忌々しい弾圧をはねのけ、独立を勝ち取ったマカベア王家の勝利の歌を、自分は歌うのだ。ヘンデルのオラトリオ「ユダス・マカベウス」より、こっちの方が自分たちの、血なまぐさくて悲惨な歴史に、よっぽどお似合いだ。たとえ歌調はのんびりしていても、この歌は、分かる者には分かる怨念がこもっている。
わたしの救いの岩の砦よ
あなたを賛美することは素晴らしいことです
わたしの祈りの家を修復して下さい
そしてそこでわたしたちは感謝を捧げます
うるさく吠える敵どもを、あなたが皆殺しになさる時
その時わたしは賛美の歌で、祭壇を潔め終えます
歌声が、やがて「アリス」の声から、奇妙な機械の合成音声へと変わっていく。その機械音声のまま、ジュディスは言葉を垂れ流しだした。
「ザイン……私は存在する存在! 私はすなわち『つるぎ』! 『剣』のアリス!」
くすくす笑って、ジュディスは長い金髪をほどく。
「見せてちょうだい。この不思議の世界の不条理の中を、あなたはどう駆け抜ける? 私は殺して、殺し尽くして、滅びの終わりを見届けた! あなたを見せてよ! 21番目の少女!」
ほどいた先から、ジュディスの金髪は色を失って、真っ白に変じていく。そして、真っ白になったジュディスの姿は、やがて再び色を取り戻しはじめた。髪は黒く、肌の色は濃く、目の色は、けれど深い青色に。その変貌の間も、彼女は歌うように一人語る。いや、問う。
「『ユダヤの娘』という名前のままに『7番目』のあたし……あたしは『存在』? あたしは『剣』? ねぇ、どう踊ればいいの? 教授!」
白いままの髪が数本、長く伸びて、それから空中に溶けるように消えた。
「あたしの『おうち』はもうないの。あたしの道は滅んだもの。殺して、殺して、殺し尽くしたその果てに、何もかもを失った……だから託すの、21番目のアリス…『シン』のアリス、『罪』のアリス! あたしの罪を、あたしたちの罪をあがなって! あたしたちの『印章』を除く、最後の姉妹! 最後の希望!」
機械の合成音声が、やがて微調整を受けて、人間の少女の声になる。
「あなたの世界を繋ぐためなら、あたしは何度でも、この両手を血に染めるわ! さぁ見せて! あたしたちの歴史の希望を! あなたはあたしの過去の妹、あたしはあなたの未来の姉……時間を隔てた悲しい人形! 全ての知識と全ての知恵を、託して捧げる祈りの少女!」
バチッ、と音を立てて、ジュディスの姿が完全に、改めて設定しなおされる。
「生気あれ!」
ジュディスがそう言うと、「機械人形」の体が、ごく微細の機械に分裂した。それらは立体パズルのように、再び組み直されて、新たな姿を構築する。より細密な回路を再構築すると、その姿は、あのピーター・スミスのものへと変貌していた。
その横には、ほっそりした長身の、黒髪黒目の男が一人、息をのみながら立つ。
この店の本当の主、エーデルシュタイン氏である。
ジュディスは、新しく設定し直した顔で、少し寂しげな笑みを見せた。
「生き残るために戦い抜いて……全てを失った抜け殻よ、あたしたちは……」
ヘブライ語は本来、右から左へ読みますので、ジュディスの歌っているセリフの中は、実際には単語の並びを右左逆にする必要があります。読み仮名の打ち方と読みやすさを優先し、奇怪な順番になりました。
というわけで、正確な表記で歌詞を記載しておきますね(12~13世紀成立の民謡なので、著作権はとっくの昔に切れております)
翻訳歌詞については、日本ヘブライ文化協会の訳を参考に、節回しよく感じられるよう、少し手を加えてあります。
מָעוֹז צוּר יְשׁוּעָתִי לְךָ נָאֶה לְשַׁבֵּחַ
תִּכּוֹן בֵּית תְּפִלָּתִי וְשָׁם תּוֹדָה נְזַבֵּחַ
לְעֵת תָּכִין מַטְבֵּחַ מִצָּר הַמְנַבֵּחַ
אָז אֶגְמוֹר בְּשִׁיר מִזְמוֹר חֲנֻכַּת הַמִּזְבֵּחַ:
רָעוֹת שָׂבְעָה נַפְשִׁי בְּיָגוֹן כֹּחִי כָּלָה
חַיַּי מֵרְרוּ בְקֹשִׁי בְּשִׁעְבּוּד מַלְכוּת עֶגְלָה
וּבְיָדוֹ הַגְּדוֹלָה הוֹצִיא אֶת הַסְּגֻלָּה
חֵיל פַּרְעֹה וְכָל זַרְעוֹ יָרְדוּ כְּאֶבֶן בִּמְצוּלָה:
דְּבִיר קָדְשׁוֹ הֱבִיאַנִי וְגַם שָׁם לֹא שָׁקַטְתִּי
וּבָא נוֹגֵשׂ וְהִגְלַנִי כִּי זָרִים עָבַדְתִּי
וְיֵין רַעַל מָסַכְתִּי כִּמְעַט שֶׁעָבַרְתִּי
קֵץ בָּבֶל זְרֻבָּבֶל לְקֵץ שִׁבְעִים נוֹשַׁעְתִּי:
כְּרוֹת קוֹמַת בְּרוֹשׁ בִּקֵּשׁ אֲגָגִי בֶּן הַמְּדָתָא
וְנִהְיָתָה לוֹ לְפַח וּלְמוֹקֵשׁ וְגַאֲוָתוֹ נִשְׁבָּתָה
רֹאשׁ יְמִינִי נִשֵּׂאתָ וְאוֹיֵב שְׁמוֹ מָחִיתָ
רֹב בָּנָיו וְקִנְיָנָיו עַל הָעֵץ תָּלִיתָ:
יְוָנִים נִקְבְּצוּ עָלַי אֲזַי בִּימֵי חַשְׁמַנִּים
וּפָרְצוּ חוֹמוֹת מִגְדָּלַי וְטִמְּאוּ כָּל הַשְּׁמָנִים
וּמִנּוֹתַר קַנְקַנִּים נַעֲשָׂה נֵס לַשּׁוֹשַׁנִּים
בְּנֵי בִינָה יְמֵי שְׁמוֹנָה קָבְעוּ שִׁיר וּרְנָנִים:
חֲשׂוֹף זְרוֹעַ קָדְשֶׁךָ וְקָרֵב קֵץ הַיְשׁוּעָה
נְקֹם נִקְמַת עֲבָדֶיךָ מֵאֻמָּה הָרְשָׁעָה
כִּי אָרְכָה הַשָּׁעָה וְאֵין קֵץ לִימֵי הָרָעָה
דְּחֵה אַדְמוֹן בְּצֵל צַלְמוֹן הָקֵם לָנוּ רוֹעִים שִׁבְעָה:
はい、発音記号付きで表記してみました。
まぁ発音記号なんて、子どもか初学者向けの本でしか、まずお目にかからないものではありますが(っていうかイスラエルのヘブライ語が母語の人でも、専門家でなければ正しい発音希望の打ち方なんか知らぬ)
実際には全部で6番まである、超長い歌です……系統によってリズムは異なりますが、基本的に穏やかな調子の歌です……物騒な歌詞が信じられないほど。
ジュディスの名前の由来は、旧約聖書外典「ユディト書」の主人公。美貌の未亡人にして女傑ユディト(Judith)です。敵将を色香で油断させて、剣でその首を切断して持ち帰る逸話は、クリムトや、ルネッサンス期の女性画家、アルテミージア・ジェンティレスキの絵でも有名です。
「ザイン(ז)」はヘブライ文字の第7文字で、元は「剣」を由来とする象形文字です。ヘブライ数字として用いる場合には、現代でも「7」の表記に使われます。また「Sein」はドイツ語の名詞で「存在」を意味します。
ジュディスの台詞は、一見、頭がおかしいように見えるかもですが、実は言葉遊びや、言葉遊びという言葉でくくっていいとは思えない、悲鳴みたいな「言葉の使い方」がまじっているものなのです。